- ナノ -

■ 29.どうして愛してるって言えないの


「そういえば、彼女は死語の世界否定派だったね」

ノブナガがゴン達の見張りをしている頃、一般人を装ったクロロは何気ない様子でネオンと会話していた。

「そうなの。だから私も何となく信じてないんだけど…」

ノストラードファミリーのボスの娘である彼女は、百発百中の占いをする能力を持っている。
いや、持っていた、という方が正しいのか。
なぜならその念能力は、もうさっきクロロが盗んでしまっていたからだ。

だが、そんなことも露知らず、ネオンはずっとにこにことしていた。

「俺はね、霊魂って信じてるんだ。だから、死んだそいつが一番やりたがっていたことをしてやろうと思ってね」

「やりたがっていたこと?なにそれ?」

彼女の瞳が好奇心で輝いた。

「聞きたい?」

「うん、聞きたい!」

「それはね…」


並んで歩いていたクロロの手が、滑らかに彼女のうなじに降り下ろされる。


―大暴れ。


その瞬間、ネオンの体はぐらり、と前に傾いた。

「どうしました!?お嬢さん!」

クロロはさっと彼女の体を支え、わざと大きな声で騒ぎ立てる。
周りの視線が嫌でもこちらに集中した。

「お嬢さん!?お嬢さん!」

クロロは内心、にやりと微笑んだ。
彼女には悪いが、とことん最後まで利用させてもらうつもりだった。
クロロはネオンの介抱を理由に、なんなくマフィアの包囲網をくぐりぬける。


さあ…
レクイエムを奏でようか…


**


一方レイはアジトを抜け、いなくなったウボォーの行方を探していた。
ゴンとキルアのことがまだ心配だったけれど、クロロさんが帰ってくるまではとりあえず安全なはず。
去り際の彼らの瞳は強い光を放っていたし、きっと私が助けて事態をややこしくするよりいいだろう。

それよりもレイは一刻も早くウボォーを見つけ出し、ヨークシンから、クラピカのいるこの地から離れたかった。
これ以上は、仲間の心が離れていくのを見たくはなかった。



「ゴン達にバレちゃったね◇」

ゴン達が別室に連れていかれた後。
レイがアジトから出ると、後ろからそう声をかけられた。
彼の声に同情の色はない。
むしろ面白がっているような響きだ。

一瞬だけど、本気でキルアを殺そうともしていたし、皆がヒソカさんを嫌う訳が今日なんとなくわかったような気がする。

「そう、ですね」

レイはわざとぶっきらぼうに返事した。
けれども、彼はレイの冷たい態度にも動じず、にやにやと笑い続けている。

「どうするつもりなんだい?
彼らにバレれば、もちろん…」

クラピカにもバレる。
それはもう避けられない。
レイは八つ当たりとわかっていながらも、ヒソカさんを睨み付けた。

「…どうしようもないですよ。後はただ、一刻も早くヨークシンから立ち去るだけ…」

「いいのかい?友達なんだろう◇?」

「だって…そうするしか…」

「イルミにも捨てられ、友達には憎まれる…キミもつくつぐ可哀想な子だ…☆もし、生き残りの彼のことを蜘蛛が知ったら、キミはまた蜘蛛も裏切っていたことになる◆
キミはひとりぼっちだねぇ…◇」

彼は可哀想、と言いながら笑顔を絶やさなかった。
的を得すぎた言葉に、怒りよりも悲しみしか沸き上がってこない。
レイは黙って項垂れた。

「…キミは大事な皆から裏切り者だと憎まれるんだ☆」

「やめて…十分わかってますから」

「いや、わかってない◇」

不意に、彼は後ろからレイを抱き締めた。
もとからスキンシップの激しい人だったが、話と行動が合わなさすぎてレイは動揺する。
背中に逞しい胸板を感じて、レイはどぎまぎとした。

「なっ…何なんですか!いきなり!」

「わかってないよ、レイは◇
皆に嫌われたなら、ボクのとこに来ればいい☆ボクはキミの隠し事も全部知っているけれど、キミのことを絶対嫌いになったりしないよ◆」

「なっ…」

優しくそう囁かれ、レイは思わず泣きそうになる。
私には昔から居場所がなかった。
利用する目的でしか、必要とされなかった。
私がこんな人間だってわかった上で、それでもおいで、って言ってくれるの?

レイは泣いてしまわないように、少し上を向く。

「で、でも、ヒソカさんは気まぐれで…」

「レイへの気持ちは気まぐれじゃないよ☆」

ヒソカさんの体温は暖かかった。
彼はレイを抱き締めたたまま、あやすように話し続ける。

「キミには正直に話すけれど、おそらくボクはこの仕事が終われば蜘蛛を抜ける☆
だから…もしキミが蜘蛛にもいられなくなって、どこにも頼るところがなくなったなら、ボクのところにいつでもおいで◇」

「…ヒソカさん…どうしてそこまで…?」

「言わせる気かい☆?」

彼はククク…と笑うとレイを離した。
それから、優しくレイの頭を撫でる。

「とにかく、まずは今は、キミが出来ることを一生懸命やってごらん☆ボクは待っててあげるから◆」

彼はそれだけ言うとじゃ◇、と手をあげた。
遠ざかっていく背中が、涙でにじんで見えた。



だから、とレイは気合いをいれる。
ヒソカさんが言った通り、私は精一杯足掻かなきゃならない。

彼の優しさに勇気付けられ、少し元気が出た。
ヒソカさんは掴み所のない人だけれど、本当はとても人の心の機微に悟くて欲しい言葉を欲しいときにかけてくれる。
彼の良さがわかって、もっと蜘蛛の皆にもヒソカさんのことを好きになって欲しいと思った。

きっと、皆で前みたいに飲みかわしたら、仲良くなれると思うの。
鎖野郎なんてどこの誰かもわかんない奴に、あのウボォーが負けるわけないよ。
だから彼を早く見つけて、皆揃って仕事の成功を祝おうよ。

レイは探し回って歩き疲れた足をそれでも止めない。
すっかり辺りは夜だったが、そんなことはどうでもよかった。
街にいないのなら、もう後はゴルドー砂漠方面…。

だが、向かおうとしたレイの背後で

地面を揺るがすような激しい爆発音が鳴り響いた。

何…!?

あの方向はセメタリービル。
マフィアがたくさんいるところだ。

もしかして…今の音は蜘蛛の仕業?

レイは、咄嗟にセメタリービルの方向へ駆け出す。
クラピカはマフィアの護衛をしていると聞いた。
もしかしたら鉢合わせしてしまうかもしれない!

レイの足なら、いくらくたくたに疲れていたって、常人の何倍も早い。
しかも焦っているからか、まったく苦しくなかった。



早く、一刻も早くとたどり着いたセメタリービル。
周りを厳重に警備する黒服の男たち。
だが、ビルからは火の手があがり、銃声と悲鳴があちこちから聞こえてくる。

レイは足元に転がる男たちの死体の中にトランシーバーを見つけた。

《おい!そっちはどうなったんだ!応答しろ!!》

《応援部隊がすぐに駆けつけるからな!》

《とうとうゾルディックも、蜘蛛の頭の暗殺に動き出したそうだ!これで幻影旅団もお仕舞いだ!!》

ゾルディック!?!?

レイは驚愕して、トランシーバーを粉々に砕いてしまった。
手の中で無惨にもバラバラになる機械。
それは私たちの運命のようにも感じられた。

クロロさんが危ない!!!

レイは混乱のさなか、一人ビルの内部へとかけていった。


***


「ふぅ…終了」

今回の仕事は十老頭の暗殺。
イルミは長い髪をかきあげると、コキコキと首を鳴らした。

電話をもらってしばらくしてから、マクマーレン家の秘密、という言葉につられて依頼人のあの男には会っていた。
蜘蛛の団長というからどんな厳つい男かと思っていたら、そう年も変わらなそうな若い男。
オールバックに裸コートという奇妙な出で立ちは正直引いたけど、オーラの量からしてやはり相当の手練れだった。

そのあと結局、クロロとの面会は至極あっさりと終了した。
どちらも警戒しているうえ、口数が多い方ではない。
マクマーレン家のことを除けば、ただの顔合わせと言っても過言ではなかった。

でも…なんか嫌な感じ。
会ってみて、イルミは相手のやけに自信過剰な態度が好きになれなかった。
含みがある、とでも言うのだろうか。
ヒソカの気まぐれな嘘とはまた違う、策略めいた彼の言葉は、イルミにとって不愉快だった。

けれども実際、上客であるのは間違いない。
イルミだけでなくマハやカルトを雇ったのだから相当な金額になったが、そこはさすが幻影旅団団長。
あっさりと払う、と言ったのだから、こちらにも文句はない。

だがそれにしても、マクマーレン家に関する本はよくわからなかった。
特に後半の「殺せる者」というワード。

レイを殺せる人間なんて本当に現れるの?
レイを殺していいのはオレだけだよ?

ミルキに探させても、なかなか行方のわからない彼女に対する想いは日に日に強くなっていく。
初めは、それが自分の思い通りにならないことへの単なる苛立ちかと思っていたが、どうやら違ったようだ。

離れてみて、やっとわかった。
オレはレイのことを大切に思ってる。

こんな感情は今までになかった。
キルアへのそれに最も近いようでいて、でも何かが決定的に違う。
ヒソカがよく言う「壊したい☆」って感情に似ているのかもしれない。

イルミにとってレイは

大切で
壊したくて
傍に置いておきたくて
でも滅茶苦茶にしてやりたい

そんなたくさんの矛盾をはらんだ存在なのだ。
彼女がオレのターゲットである、というのも大きな理由かもしれない。

レイのことを想い、イルミは深いため息をつく。
後は親父に仕事が終わったことを伝えれば、クロロも安泰だろう。

そう思って携帯を取り出したイルミ。
その視界の端を、一人の少女がよぎった。


「レイ!!」

イルミの声に振り返った彼女の瞳が真ん丸になる。

「イルミさん!?ど、どうしてここに…!?まさか!」

たたた、とこちらに駆け寄ってくるレイ。
だが、彼女の口からは再会を喜ぶ代わりに信じられない言葉が出てきた。

「クロロさんは?まさか、イルミさんのターゲットだったんですか!?」

久しぶりに会えたというのに、第一声が他の男のことなの?
しかもやっぱりクロロはレイのこと知ってたんじゃん。
イルミは苛立ちながらも強引に彼女を抱き締めた。

「わっ!な、何ですか!離して!」

「久しぶりなのに、酷くない?」

「だって、私は急いで…」

腕に力を込め、レイが逃げられないようにすると、耳元で囁くように質問する。

「今までどこにいたの?」

「…旅団と、一緒にいました…」

レイはびくりと体を震わせ、小さな声で答える。
自分に怯えているのだとわかると、それはそれで満足だった。

「なんで?なんで勝手についていったの?レイはまだ一応ターゲットなんだから、行方をくらまされると迷惑なんだけど」

「ご、ごめんなさい」

イルミは責めるような口調のまま、話を続ける。
腕の中の彼女が困ったような顔でこちらを見つめた。

「イルミさん、お願い。クロロさんはどこなんですか?」

また

クロロなの?

狂おしいほどの嫉妬にかられながらも、無表情で返事をする。

「さぁ。今頃はこの下で、親父とじいちゃんと闘ってるんじゃない?」

クロロなんか殺されちゃえばいいのに。
あーあ、もう電話するの止めようかな

けれどもそんなイルミの考えとは裏腹に、レイはさっと青ざめた。

「そんな!助けに行かなきゃ!」

ばっ、こちらを突き飛ばすようにして離れると、彼女は勢いよく走り出す。
不意をつかれたイルミは思わず手を離してしまっていた。

「レイ!!」

「ごめんなさい、また後で!」

幼いとばかり思っていた彼女はいつのまにか強い意思をもち、美しい女性へと変わっていた。

どんどん小さくなっていく背中。
イルミはそれが見えなくなると、渋々携帯を取り出した。

気に入らなくたって、仕事は仕事。
私情を挟むのはよくないはずだ。
イルミは無意識にコール音を数えていた。

…もうあの男死んでるかもね。

***


「クロロさん!!」

ドォォォォン

衝撃の一瞬前。
レイの声が聞こえたような気がした。

携帯の着信音。
もうもうと立ち込める砂ぼこり。
砕けたコンクリートが上に覆い被さってきていたが、なんなくそれを受け止める。

「なっ、誰かと思えば…」

驚いたシルバの声が聞こえた。
まさかと思って瓦礫を押し退けると、目の前には今にも泣きそうな表情のレイ。

「ふぅ…どうやらお互い命拾いしたようじゃのう…おや、レイではないか」

「良かった!無事で!」

ゼノの言葉など聞こえていないのか、彼女はクロロにひし、と抱きついた。
咄嗟のことで驚いたものの、クロロもしっかり彼女を抱き止める。

「なんで来た?危険だからアジトで待ってるように言っただろ」

「だって…ゾルディックと闘ってるって聞いたからっ」

「俺が負けると思うか?」

「そんなの、わからないじゃないですか!」

安堵からか泣き出すレイに、クロロは「信用ないな」と苦笑する。
こんなに他人から心配されたのは初めてかもしれない。
胸の辺りがじんわりと暖かくなり、知らず知らずのうちに笑みがこぼれる。
ゾル家の二人はその様子を呆気にとられて見つめていた。

「ふぅ…やれやれじゃわい。帰るとするかの、シルバ」

「いいの?二度とないよ、こんなチャンス」

ゼノはもう仕事はおわったんじゃ、とすっかり緊張感のない様子で返事する。

「それに二度とないかはわからんぞ。ウチの孫の敵はゾル家の敵だからのう」

彼は髭を指先で弄び、ため息をつくと行ってしまった。
シルバも黙って後に続く。


二人きりになったクロロは、指の背でレイの涙をすくった。

「もう泣くなよ。いつまでもそんな顔してたら襲うぞ?」

自分のために泣いている彼女が、愛しくて仕方がない。
冗談めかしてそんなことを言ったが、だんだんレイに本気になってきている自分を感じていた。

「あ…そうですね、はい、血…」

しかしレイは何か勘違いをしたのか、首を傾け、自ら白い首筋を晒す。
そういう意味ではなかったのだが、クロロは遠慮なく顔を埋めた。

「…やっ」

舌を這わせると、レイはびくりと体を震わせる。
クロロの頭を支配したのは、癒されていく傷の心地よさか、官能的なレイの声か。

だが、このまま押し倒してしまいたい衝動にかられながらも、自分に向けられた強烈な殺気を無視し続けることはできなかった。


「…盗み見なんて、いい趣味してるな」

「え?」

レイから体を離し、誰もいないホールに向かって話しかけると、どこからともなく長髪の男が姿を現す。
その顔は至って無表情だったが、禍々しいまでのオーラがその体を包んでいた。

「…何してるの?レイから離れて」

「ふっ…男の嫉妬は見苦しいぞ」

「死に損ないのくせに…黙りなよ」

イルミはそう言うと、驚き固まっているレイにくい、と手招きする。
弾かれたように立ち上がる彼女を引き留めようと思ったが、間に合わなかった。

「レイ、さっきは言わなかったけど、オレが知らない間に随分と強くなったよね」

彼が怒っているのを感じたのか、レイは小さな体をより小さく縮める。
その様子から、恐怖がありありとうかがえた。

「え…まぁ、修行はちゃんとしてましたから…」

「ふーん、じゃあさ…」

イルミは怯えるレイに構わず、淡々と呟くと、ぐいっと顔を近づけ囁く。
感情など無いように見える彼の口許は、一瞬、意地悪く歪められた。

「もし、オレを殺さないとクロロを殺すって言ったら…

どうする?」

その声は、離れた位置のクロロにもはっきりと聞こえた。

「な、何を…!?」

レイは元から大きな瞳を、これ以上ないほどまでに見開く。
イルミの漆黒の瞳は不気味なほど真剣だった。

「レイってさぁ…ホントに自分の立場をわかってないよね。忘れてない?
レイはオレのターゲット。オレを殺さなきゃ、自由なんてないんだよ?
クロロと一緒にいたいなら、オレを殺さなきゃ」

わざとらしいまでの明るい抑揚は、レイをじわじわと追い詰める。
クロロは黙ってスキルハンターを取り出した。
こんなこと予定にはなかったが、こちらとしても大人しく殺されてやるわけにはいかない。

レイの肩は小さく震えていた。

「レイは悪い子だね。誰にでもそうやって体を許すの?
…ホント、死なない体って厄介だな」

そうじゃなきゃ
今すぐにでも殺してるのに

イルミの言葉に込められた、まっすぐな殺意。
クロロはその中に、歪んだ愛をみた。
そして、イルミの気持ちがわからないわけでもなかった。

「で、できません…イルミさんを殺すなんて…」

「そう?今なら特別に抵抗しないであげてもいいよ?」

「ち、違います…イルミさんが死んじゃうなんて嫌だから…もちろんそれはクロロさんも…」

イルミはまた短く、ふーん、と言った。
固唾をのみ、クロロはその様子を見守る。
だが彼はふぅ、と息を吐くと、レイの頭にぽん、と手をのせただけだった。

「う、そ、だ、よ、レイ。
本気にしたかい?
ハハハ、依頼もされてないのに、オレがクロロを殺すわけないだろう?」

「え…」

「でも、勝手にいなくなったのはまだ怒ってるからね…そうだなぁ…」

驚きで言葉を出せないレイに、イルミはすらすらと話始める。

「今すぐ連れて帰ってもいいんだけど、レイだって初仕事を途中で降りるのは教育に良くないよねぇ…
じゃあ、こうしよう。
蜘蛛がヨークシンにいる間は許してあげる。
その代わり、帰ったら何でも1つ、オレの言うことを聞くこと。いいね?」

自分で自分の提案に納得し、イルミは手を打った。
いや、有無を言わせぬ感じのそれはもはや提案などではない。
支配を目的とした、確固たる命令だった。

「…はい」レイは小さく頷く。

何でも1つ言うことを聞く…
クロロはそんな条件をのむなんて馬鹿げていると思ったが、この場は大人しく引き下がった方が賢明だろうと思い直し、口をつぐんだ。

「決まりだね」

イルミはにこりともせずそう言った。
憐れな男だ。
彼女を怯えさせることでしか、愛を表現できない。
クロロはその歪んだ愛の矛先を少しでもレイから反らそうと、一つ提案を持ちかけた。

「そんなに俺が憎いのなら、お前にいい話がある」

「…」

「もうすぐ俺の仲間がここに来て俺そっくりのコピーを用意する。それを好きなだけ痛め付ければいい」

想像しただけで身も凍るが、どうせコピーは傷つけるつもりだった。
イルミの目が怪しく光る。

「ただし、顔は後でわかるくらいにしておいてくれよ」

「いいよ。元からそのつもりだし。顔潰したら面白くないからね」

声に込められた強烈な憎しみに、返す言葉もない。
クロロは小さく肩をすくめた。

「ヨークシンを発つ時、連絡して。
レイを迎えにいくから」

「ああ」

返事をしたものの、本心ではレイを手放す気などさらさらない。
ゼノが言ったように、このままゾル家と全面戦争になんてなったら大変そうだな…と一人、自嘲の笑みをもらす。

だが、それもそれでいいさ。
俺は欲しいものは必ず手に入れる。

[ prev / next ]