- ナノ -

■ 22.小休止 どうしていないの

プルルル、と携帯が鳴る。

耳障りな機械音だ。
無機質で何の感情もこもっておらず、そのくせ他人との接触を強いてくる。

イルミは無視した。
相手は大体予想がつく。
こんなにしつこくかけてくるのは、あいつしかいない。

プルルル…

(はぁ…しつこい)

だが実際、こうも頻繁にかけてこられては仕事にも差し障りが出る。
相手もそれがわかっててやってるのだと思うと、尚更腹が立つが仕方がない。
イルミは不機嫌さを隠そうともせず、もしもし、と短く返事した。

「やあ◇ようやく出てくれたね☆」

「何?オレ、ホントに忙しいんだけど」

「せっかく人が親切で教えてあげようと思ったのに◇キミの弟、今天空闘技場にいるよ★」

「ふーん」

キルアが家を出たのは知っていた。
オレが仕事に行ってる間に、あのゴンとかいうガキたちが来て、親父も認めたらしい。
正直、全然納得できてなかったけれど、親父が決めたことならオレにはどうしようもなかった。
もちろんそれだって今のところは、の話だが。

「キル、天空闘技場にいるんだ。じゃあ200階で止めておいて。キルはまだ念を使えないから」

「いいよ◇ただし、ボクも有料★」

いつも自分が言う言葉をマネされて、イルミは少し苛立つ。
けれども大事なキルのためだから、我慢していくら?と尋ねた。

「お金はいいよ◇ボクが欲しいのは情報★レイはあれからどうしてるんだい?」

「…知らない」

「おやおや、キミがそんな態度をとるんならボクも考えさせてもらうよ☆」

ヒソカはイルミがしらを切っていると勘違いして、そんなことを言う。
レイの名前を聞いた途端、イルミはなんとも言えない気持ちになった。

「ホントに知らないんだけど。だってあのあと家に帰したからね」

「家って…マクマーレン家にかい◇?」

「そ。正確にはレイが幽閉されてたとこだけど」

驚いているのか、電話の向こうでヒソカはしばし黙る。
それから珍しく声のトーンを下げて、
「よかったのかい◇?」と言った。

「さぁ。あれだけ自傷行為してたら、案外もう死んでるかもね。そうなったらオレも仕事が減って楽だしさ」

「イルミ…キミ、わかってないんだね★」

「は?何を?」

むしろ、お前に何がわかんの?と言いたい気持ちになる。
が、おそらくあの奇術師はイルミがどうしてレイに怒ったのかを、当のレイより知っているだろうし、また、このイルミの苛立ちがなんであるかもイルミ自身より知っているように思われた。

「まあいいや◇天空闘技場に飽きたら、ボクが様子を見に行くよ★」

「別に行かなくていい。ヒソカは青い果実でも追ってれば?」

レイに関わるな。
そう思うのに、あんな形で彼女を置いてきた自分には、そんなことを言う権利は何もないのだと改めて痛感させられる。

「ん〜◇彼はまだ収穫どきじゃないからねぇ。ボクとしては早めにレイを手に入れておきたいところなんだ☆」

「…とにかく、じゃ、キルのこと頼んだから」

「OKだよ★」

半ば強引にイルミは電話を切った。
手の中で、携帯がミシミシと嫌な音をたてる。

レイ、今頃なにやってんだろ…。

帰ってこないってことはオレのこと、もう忘れたの?
謝りにも来ないしさ、一体なんなわけ?

イルミの中で言い様のない苛立ちが渦巻く。

だめだ、もう許してやらない。
修行もいままでの3倍ぐらいにしてやる。
久しぶりに会ったらレイは何て言うだろうか。

イルミは飛行船の行き先をマクマーレン家行きへと変更した。



***


本当に、いつ来ても閑散としたところだ。

最初の時はまだ一応護衛がいたので、殺気に満ち、それなりに賑やかな状態だった。
が、それもイルミが一掃してしまった後では、屋敷は不気味なぐらい静かだ。

到着してすぐ、レイの気配を探るが発見できない。

絶でもしてるの?
一体、いつのまにこんな精度をあげたんだろう。
探ってみてもまったくわからなかった。

この時点でイルミの頭には「レイが屋敷にいない」というケースは全く想定されていなかった。
ゾルディック家にも帰らず、他にどこに行くところがあるというのか。
ヒソカはずっと天空闘技場だし、どうせレイにはオレしか頼るものはないはずだ。

そんな思い込みとちょっとした自惚れが彼にはあった。

「はぁ…めんどくさい。いい加減にしなよ、レイ」

屋敷の中を順に見て回っても、ひとっこ一人いない。
だが、生活の痕はあるから、間違いなくここにいたはずだ。

「今すぐ出てこないと、お仕置きだよ」

暗い室内にイルミの声だけが響く。
しかし、レイからはなんの反応もかえってこず、彼女の寝室でイルミは途方にくれるしかなかった。

「どこ行ったのさ…」

あの体質があるから、たとえ誰かに襲撃されても死ぬようなことはない。
けれども見て回った屋敷は誰かと争った形跡もなく、綺麗なままだ。
まさかとは思うけど、自分からどこかに行ったの?

イルミは再び不機嫌になる。

レイのくせに、レイのくせに、レイのくせに…

イルミは壊した携帯とは別の携帯を取りだし、電話を掛ける。

「もしもし、ミル?」

「な、なんだよ、兄貴?」

「レイの行方、探して」

「はぁ!?何言ってんだよ、兄貴が帰して…ってまさかいないのか?」

「ミル、探して。報酬は出す」

電話越しに弟の荒い息遣いが聞こえる。
説明も全部かっ飛ばしてそれだけいうと、イルミは一方的に切った。

レイ、これはホントに許さないよ。
バカだね、大人しく反省してたら良かったのに。

それともまさか本気で、オレから逃げられるとでも思ったの?

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