- ナノ -

■ 14.どうして貴方が相手なの

四次試験の会場、ゼビル島。
私は今、ある人物を探している。

あのあと、私はイルミさんにお仕置きだと言われて、制限時間終了までずっと纏の修行をさせられた。
だから、時間ギリギリに到着したゴン達と私のどちらが疲れきっていたかというと、それは間違いなく私だ。
念の存在を知らない彼らに私が何をしていたかを説明するわけにもいかず、その上試験はヒソカさんと一緒だったと言ってしまったため、私の異常なまでの疲労困憊は全てヒソカさんのせいにされた。

ははは、ヒソカさん、ごめんなさい。

けれども幸い、トリックタワーからゼビル島までに時間があったため、かなり回復することができた。
もう、家じゃないから眠れないなんて言いません。
私はこの一件でイルミさんは鬼だと改めて確信した。

そして今、私は何の因果かその鬼を探している。

ゼビル島での試験内容は「狩るものと狩られるもの。」
クジでの引いた番号の受験生がターゲットというかなりシンプルな試験だ。
そして、ヒソカさんの番号44番を引いたゴンがキルアに慰められているのを尻目に、私は自分の運の無さに震えていた。

(301番…!?)

無理無理無理無理!!

あのギタさん、もといイルミさんからプレートを奪うなんて出来るわけない!
もちろん、師匠だから、知り合いだから無理というわけではない。

はっきり言おう、実力的に無理なのだ。
だがそれでも諦める訳にはいかなくて、私はまだ不馴れな円を用いて、島内を探す。
他の人のプレート3枚を集めるという手もあったが、ゴンの決意を聞いたあとではそんな「逃げ」はしたくない。
自分でもつくづくバカな性格だと思う。


じゅっ。
あ、何か飛んできた。

どうやら私は狙撃されたようだ。
離れた木の上に人影がある。
けれども私はオートで防御みたいなものだから、襲われる心配はない。
それだけでも救いだろう。
続いて2、3発飛んできたが、全て溶かしてしまった。

「ば、化け物だ!」

失礼だなぁ、と呆れるがそう思われても仕方がない。
私がその敵を無視してどんどん前へ進むと、諦めたのかもう、撃ってはこなかった。

良かった…


***


はぁ…どうしてオレがこんなことしないといけないワケ?

イルミはため息をつきながら、たった今倒した敵から針を回収する。
いくら殺されないからって無防備過ぎ。
オレはそんなふうには教えてないんだけど。

試験が始まってすぐ、イルミはレイを見つけた。
何やらきょろきょろして、誰かを探しているようだ。
先にターゲットを聞いても良かったのだが、あまり手助けするのもどうかと思うし、だからと言ってあんなに纏の修行させたあとでは心配だったりする。
仕方なく、ここは見守ろうと思って、イルミはしばらく彼女をつけていたのだ。

…それにしても誰をさがしてるんだろ。
まさかキル?

キルなら許さない、と言いたいところだが、あのレイが知り合いに攻撃するとは思えない。
第一、キルならレイぐらい振り切って逃げられるはずだ。

見つからないなら、適当にその辺のザコ殺っちゃいなよ。

イルミは受験者の番号を覚えているため、狩ろうと思えば自分の分はいつでも狩ることができる。だからといって、そう悠長にもしてはいられないのだが
……。
もうすこしだけレイに付き合ってみるか、とイルミは半ば呆れながら彼女の後を追った。


****


(あ、ヒソカさん!)

蝶々に誘われて来てみれば、彼の姿が。
久しぶりに知り合いに会ったレイは嬉しくなって彼の元へ行こうとする。
だが今、彼の目の前には私の知らない死にそうな人がいて、なにやら邪魔するのが悪い雰囲気だ。

私はそっと木の影に隠れた。

「ゴメンゴメン、油断してて逃がしちゃったよ」

男の人がヒソカに飛び掛ろうとした矢先、突然その人はどこからか攻撃を受けて地に伏す。
そしてその光景に呆気にとられれていたら、ずっと探し続けていたギタさんが現れたのだ。
私はハッとして、息を殺す。

「どうせ、最後の頼みだとか言われたんだろ☆」

「まぁね。てゆーか、こいつのせいでレイを見失っちゃってさ」

イルミさんは堂々と変装を解く。
もう必要がないのか。

「レイ?まさかキミ、ずっと追ってたのかい◇?」

ヒソカさんが驚いているが、それ以上に驚いているのはこの私だ。
まさか、探している相手が後ろにいたなんて思いもしなかった。
というより、どうして私をつけてたの?
もしかして私がターゲット?

レイは混乱しながらも、チャンスは今しかないと思っていた。

「うん、まぁ様子を見てただけなんだけど」

「へぇ〜、そうかい◇でも、あの子なら大丈夫なんじゃないかな」

ヒソカさんはそう言って、片手を後ろにやると、トランプをぴっ、とこちらに向ける。

(なっ…バレてる!?)

まぁ、本格的に気配を消したのはイルミさんが現れてからだ。
それまで私はヒソカさんに声をかけるつもりでいたのだから無理もない。
だが、あのトランプはどういうことだろう。

私はふと思い付いて凝をしてみた。

《協力するよ★》

勘のいい彼は私のターゲットが誰なのか、悟ったようだ。
心のなかで彼に手を合わせ、私は好機を待つ。

「それに、キミだって修行って言ってただろ☆甘やかすのはよくないと思うケド◇」

「まっ、それもそうだね。じゃあオレ、タイムリミットまで寝るから」

イルミさんは何を思ったのか突然ザクザクと地面を堀り始める。
私はポカーンとしていたけれど、気を取り直し、絶に集中しながら近づいた。

「それにしてもキミってば過保護だよねぇ☆」

もう少し…もう少し…

「弟が多いとそうなるのかなァ◇」

ヒソカさんは話しかけることで彼の注意を反らす気だ。

イルミさんが穴に入ろうとする。
すっぽり入って動きが鈍くなる一瞬が、GOサイン。

「キミの弟、99番だっけ☆?彼もすごくイイよね◇」

「は?」


─私は思いっきり跳躍した


****


一瞬だった。

ヒソカがふざけたことを言うから、殺気をとばそうとしたとき、何かがオレの前に現れ、そして去っていった。

驚いて胸元を見れば、プレートがない。
代わりにニヤニヤした顔のヒソカがこっちを見ていた。

「もしかして…ハメた?」

「ま、さ、か☆」

彼の顔は嘘をついている。
一瞬だったけれど今のは確かにレイだった。

ターゲットはオレだったの?
ふーん、レイはターゲットがオレでも関係なく襲ってくるんだね。

確かにそういう風には教育したけど、なぜか面白くない気分になる。
イルミは穴から出ると、円を使った。

「おやおや、取り返すのかい◇?
弟子の成長は喜ばなきゃ☆」

「別に。オレはまたプレートをとればいいだけだしね。だけど、ちょっと納得いかないから」

今度はかなり本気で探す。
あ、見っけ。

プレートゲットして、すぐ油断してるし。
オレはむかつくヒソカをとりあえずほっておいて、レイを追った。


***


「やった!ついにとれたっ!」

踊り出したい気分だ!
嬉しくて、嬉しくてたまらない!

私があの、イルミさんから
あの鬼のようなイルミさんから
ついにプレートを奪いました!

信じられない!

ヒソカさん!ありがとうございます!

レイは興奮冷めやらぬ様子で、森のなかを駆け抜ける。
いつ追ってくるともわからないから、結構なスピードを出していた。
けれども注意力の方はどうだったか、と問われればこれは間違いなく反省しなければならない。

私はいつの間にか目の前に立ちはだかるイルミさんの姿に戦慄した。

「うわっ…イ、イルミさん!?」

きききっ、とブレーキをかけUターンしようとするが襟首をがしっと捕まれる。

あぁ、短い夢だった。
さようなら。

今度はお仕置きではすまされないだろう。
私はぎゅっと、目をつぶる。

「レイ」

「は、はい!」

「ターゲット、オレだったの?」

「ええ、まぁ…その、クジですから」

私だって好きで301番を引いたワケではない。
むしろ、絶望したくらい。
イルミさんの声だけでは、怒っているのかそうでないのか判断しかねた。

「他の人の3枚を集めようとは思わなかったの?」

「え…いや、まぁ…これも修行のうちかと」

「ふーん」


なにこれ、怖いよ。怒るなら早く怒ってくれればいいのに、変に焦らされるのが一番辛い。

私は身を固くしたままじっと耐える。

「まぁ、いいや。ヒソカとつるんでたみたいだけど、度胸だけは認めてあげる」

「え、ホントですか?」

くるり、とイルミさんの方を向かされ、私は思わず顔を輝かせる。
だが喜んだのも束の間、彼はとんでもないことを言い出した。

「じゃ、それあげるから、オレが残りのプレート集めたらお仕置きね」

「お、お仕置き?なんでですか!?」

「むかつくから」

「そんな…!?」

彼は私をつかんだまま走り出す。
結局こうなるの?

ああ、やっぱり、クジを引いた時点で決まってたんだ。


どうして貴方が相手なの?

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