- ナノ -

■ 11.どうして大声あげちゃうの


ヒソカさんの殺気が怖い。
そう思って急いで離れようとすると

「おーい!キルアが出来るだけ前に来た方がいいってー!」

と、ゴンの声が聞こえてくる。
そして私の後ろからはレオリオの怒った声が。
案外近くにいるのかもしれないが、霧が濃くてよくわからない。
だがすぐさま後ろで悲鳴が聞こえ、続いて「レオリオ!」とゴンが叫ぶのが聞こえた。
…嘘。まさか。
どうしていいかわからずただ足を動かしていれば、ただっ、とゴンが私の横を通りすぎていく。

「あ、レイ!」

「私も行く!」

彼と目があって咄嗟にそう言った。
ヒソカさんに勝てるわけない。
それに、今戻ったら二次試験会場まで行けないかも。
わかっていたけれど、それでもゴンを一人で行かせるよりはいい。
私だって彼の盾になることぐらいは出来るだろう。
レイはくるりと向きを変え、ゴンに並んだ。




たどり着いた先にはヒソカさんとレオリオがいた。
クラピカもいたが、彼にもどうしようもないのだろう。
ゴンに続く形で私も草むらに身を隠す。
…これはまずい。
レオリオは完全に捕まってしまっている。
このままでは殺されてしまうだろう。
だが、私がなんとかして助けられないかと出ていこうとした時、

――あっ

ゴンの釣竿が見事にヒソカさんの顔面にヒットした!

(な、なんて綺麗に顔面に…)

私が呆気にとられている間に、ゴンがもう一度攻撃をする。
かと思えばそれは外れ、今度はヒソカさんがゴンを捕らえていた。

「ま、待って!」

「おや、誰かと思えばレイもいたのかい★?」

「放してあげてください!顔が痛かったのは察しますけど、そんなに怒らないで!」

レイが真剣にそう言うと、ヒソカは楽しそうに笑った。
それからゴンを放すと、反対に殴られて伸びているレオリオを担ぎ上げる。

「キミも合格◇」

彼は今まで見たことがないくらいにやにやと満面の笑みだった。

「キミ達は自分で行けるね?じゃあレイ、行こうか☆」

「えっ?」

驚いた顔をするクラピカとゴンを残したまま、私は強引に連れ去られる。

「「レイ!」」

「あっ!心配しないで!大丈夫だから!」

私一人ならば、いくらヒソカさんでも殺される心配はない。
それより私は彼らの方が二次試験会場にたどり着けるか心配だった。
もう先頭集団とはだいぶ離れてしまっているだろうし、なによりこの霧では右も左もわからない。

「待っててね、レイ!助けにいくから!」

それでも霧の向こうでゴンの力強い声が聞こえると、彼らならどうにかするのではないか、と思えた。



****


二次試験会場には拍子抜けするほど、簡単についてしまった。
彼は始めからイルミさんに道を教えてもらう約束をしていたらしくて、迷うことなどなかった。
私を連れていったのは、確実に会場まで送り届け、あとでイルミさんに文句を言われるのを避けたいかららしい。

ヒソカさんはレオリオを木の幹に寄りかからせると、じゃあ彼をよろしくね☆と笑い、さっさと行ってしまった。

「うわ、お前ら辿り着けたのか…ってどうしたんだよ?」

キルアが私たちに気づいて走りよってくる。
私は今まであったことを簡単に説明した。

「ヒソカか…こりゃ、ひどいな」

確かに、レオリオの顔は腫れ上がっている。
冷やした方がいいだろう。
まだ時間はありそうだったのでキルアに彼を頼み、私は小川を探しに少しだけ会場を離れた。


「よかった…」

いくらもいかないうちに、綺麗な川が見つかった。
魚も泳いでいるのも見えるくらいだし、使っても問題ないだろう。
私はハンカチを取りだし、冷たい水につけた。
ついでに顔も濡らす。

その時、かすかな気配を感じて私は振り返った。

「レイ」

見れば、木の影にギタさんがいる。

「よくわかったね。感心感心」彼は無表情のままそう言った。

「し、喋れたんですか!?」

てっきりカタカタしか言わないのかと思っていた。
だが彼は悪びれることなく、うん、と頷く。

「それよりさ、キルにはもちろんバレてないよね?」

「はい」

「そう、なら良かった。レイがバレない程度にキルと居てくれたら、情報こっちに入るしね」

さらっと私をスパイに仕立てあげてたにもかかわらず、表情に変化はない。
彼はそれから少し考え込むような仕草をした。

「あのさ、レイ、一つ約束してほしいんだけど」

「…何でしょう?」

命令、されることはあっても約束は初めてだ。
何事かと私は少し驚いて首をかしげる。

「死なない自分のこと、過信しすぎないでね。事故とかなら死んじゃうんだし」

「…え、あ、はい」

「レイを殺すのはオレだから。忘れないで」

彼はそれだけ言うと、すぐに消えた。



****


「レイ!無事だったんだね!」

「ゴン!クラピカ!」

会場に戻ると、既にゴンとクラピカがたどり着いていた。
私達は再会と互いの無事を喜び、レオリオには出来る限りの手当てをする。
幸い、医者を目指しているらしい彼の鞄にはたくさんの薬や包帯が入っており、気がついた彼もすっかり笑える位に回復していた。


さて、ようやく二次試験。
突然、地鳴りのような奇妙な音が鳴り響き、何かと思えば人影が2つ。
今のはどうやら試験官のお腹の音だったらしい。
大きな体のブハラという試験官が出したお題は「豚の丸焼き。」

私達は協力して、グレイトスタンプと呼ばれる豚を倒し、試験官へと提出することができた。
むしろ、先程のヒソカさんの方が厳しかったぐらいだ。
しかし、次のお題をもう一人のメンチという試験官が発表したとたん、会場は騒然となった。

「スシ…?」

私はそんなもの知らない。というか、そもそも私は世間のことなど何も知らないのだ。
だが、スシに関しては周りも私と同じように知識がないらしく、皆どうすればよいのか途方にくれている。
何やら米を使う料理らしいのだが、それだけでは情報が少なすぎる。

「ねぇ、クラピカも知らない?」

私はこの中で最も博識そうな彼に尋ねる。
やはり見たことはないそうだが、彼は持てる知識を惜しげもなく披露してくれた。



「魚ァ?!」

「おい!レオリオ声が大きい!」

結局、レオリオの言葉に皆こぞって外へ出掛けるハメになった。
クラピカはムッとしていたがレオリオにはちっとも悪びれる様子はない。
仕方がないので私達も慌てて魚を取りに行こう。
私は先程の小川で魚を見つけていたので、皆をそこに案内した。

「やるじゃん、レイ」

「よかったー!これで魚は手に入ったねー」

にこにことするゴンにつられて、ついついもう合格した気分になるが、いやいや試験はここからだ。
なにせ、クラピカにも魚が使われるということしかわからないのだ。
ここからは試行錯誤して形にしていくしかない。
私がとにかく鱗で苦戦しているうちに、レオリオができた!と声をあげる。
驚いて思わず彼のを見たけれど…

結果はまぁ、試験官が下してくれるはず。
案の定、何でだよ…とぼやく彼の次に名乗りをあげたのはゴンで、彼も結局クラピカに心中を察されていた。

「あれ、キルアやめちゃうの?」

「だってよ…やってらんねぇよこんなこと」

唯一期待できたクラピカですら、作り上げたものを見ればレオリオと同じ。
本人は非常にショックを受けているようだったけれど、正直あれは食欲をそそらない。

そのうちに、試験官とスキンヘッドの人が口論を始め、スシの作り方がわかるも試験官はなかなか合格を出さない。
結局、お腹が一杯になったとかで、二次試験は合格者0のまま終了してしまった。

(イルミさんどうするんだろ…仕事でいるって言ってたけど…)

やはり他にも納得できない人たちがいるみたいで、一人の人が小柄な試験官にくってかかる。
ボカーン、と飛ばされた彼はブラックリストハンター志望らしい。
文句を言っていた他の者も、彼の清々しいまでの飛びっぷりにしん、となった。

「ブハラ、余計なマネしないでよ」

「だってさー、オレが手ェださなきゃ、メンチあいつを殺ってただろ?」

「まぁね。どのハンター目指すとか関係ないのよ!ハンターたるもの武術の心得があって当然!武芸なんてハンターやってたら、嫌でも身に付くのよ!あたしが知りたいのは未知の物に挑戦する気概なのよ!」


「それにしても合格者0はちと厳しすぎやせんか?」

彼女の言葉は一理あるが、それにしても難易度が高すぎる。しかし先ほどぶっ飛ばされた男を見て、皆どうしていいかわからないようだ。

不満だけが渦巻くなか、そんな困った状況の私たちに天からの声がした。

――ハンター協会!

周りがざわざわとする。
空からごく自然に降り立ったのは壮健そうなお爺さんで、皆が驚いているが私には彼のすごさがわからない。
けれどもあのメンチが敬語を使って、なんと再試験まで許可されたのだ!

ありがとう。天から降ってきた人。神様じゃないのかと思った。





そして最終的に決まった再試験の内容は「クモワシの卵。」
ゴンとキルアは嬉しそうに崖から飛び降りていった。
もちろん私にとっても、知識を問われるよりは何倍もマシ。

「レイ、君は本当に大丈夫なのか?」

「え?平気だよ」

イルミさんの修行を考えたらね、と心の中で付け足す。
だが、クラピカは真剣に私を心配してくれていた。

「これは私の推測なのだが…君の肌の白さはかなり目を引く。加えて性別などの基本的な知識もない。
君は…どこかに幽閉でもされていたんじゃないか?」

「え…」

私が驚いていると、彼は謝った。
余計な詮索だった、と頭を下げる。

「ううん、気にしてないよ。いや、すごいなと思ってビックリしただけ」

「ではやはり…!?」

「ありがとう、クラピカ。でも、私は大丈夫だよ。これが終わったら話すね」

そう言ってにっこりと微笑みかけると、クラピカは困ったような顔になる。
私は勢いをつけて崖へとジャンプした。

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