- ナノ -

■ 9.どうしてハンターになりたいの

「ハンター試験?」

なんだろう…すごい偶然…
イルミさんは私に一緒に受けようと言ってくれた。
なんでも、キルアはその試験を受けにいったとか、仕事でライセンスがいるんだとか、よくわからないけど行かなきゃならないらしい。

奇しくも、私はその2日前にヒソカさんに誘われて、断ったところたなんだけれど。
もっとも、断ったといってもヒソカさんは迎えに来る気満々だった。
私がいくら行きません、と言ってもじゃあ、次はハンター試験でね☆と一方的にウインクされた。

だから、イルミさんがそう言ってくれてホントによかったと思う。
最近、うやむやになりつつあるけど、私は一応軟禁されてる身なのだから。

それにしても、キルア…
貴方はまるで私自身を見てるようだね。
私にはそんな勇気はなかったけれど、貴方のことを正直応援したい。
だけど、貴方や私を受け入れてくれる世界なんてあるのかしら…
それが怖くて、私はいつまでも囚われてたの。

キルア…私とイルミさんは貴方を迎えに行きます。貴方がここを嫌っていると知っていてそれでも迎えに行くのだから、酷いと思う。

だからせめて…
それまでに早く友達を作ってね。


**


ザバン市にある、定食屋さん。
いらっしぇーい、という威勢のいい声。
私は何もかも初めてで、外に出たことが嬉しくて、嬉しくて…涙が出そう!
嬉し泣きなんてしたことなかったから戸惑ったけれど、私以上にイルミさんが困惑してた。

それもそうだよね。
私の今回の目標は、実践経験をすること。
そして、その中から必要を見いだして、念能力を編み出すこと!
イルミさんはキルアにバレないように、ギタラクルっていうカタカタのおじさんに変装してるけど、常にサポートしてくれるらしいのが心強い。

…うん、でもやっぱりちょっと怖いな。


中に入るとたくさんの人がいたが、普通に食事をしているように見える。

「ステーキ定食2つ、弱火でじっくりで!」

私は前に教えてもらった通り、合言葉で注文した。途端にわかり易く店主の肩がはね、私達は個室に通される。目の前にはじゅうじゅうと美味しそうなステーキがあるがギタさんは食べないみたい。
いや、食べられないのかな。
それなら申し訳ないと、レイは手を止める。

エレベーターになっていた個室はすぐに、チン、と扉が開いた。

「どうぞ」

渡されたプレートは302番。
豆が喋ってる。そもそもあれは人?
ギタさんはカタカタしか言えないのに、あの豆は喋るなんてすごい。

着いた会場は薄暗く、熱気でムンムンしてた。
男?と聞くと、ギタさんは頷く。
缶ジュースを持った小さな人がこちらに近づきかけたけれど、何を思ったか不意に踵を返していった。
というか、誰も私たちに近づいてこない。
せっかくだからお友だちが欲しいな。

そんなことを思いながらぼーっと歩いていると、ギタさんがいなくなっていた。
はぐれたんだろうか。
あんなに目立つ格好なのに、なんでだろう。
私がキョロキョロしていると、聞きなれた声が私の名を呼んだ。

「おいっ、レイじゃん!
お前なんでここにいんだよ!?」

「キルア…」

早速会っちゃった。キルアの気配を感じたからギタさんは隠れたんだろう。
練習したんだけど、なんていうんだっけ。

「お前、一人?まさか俺を連れ戻しに来たのかよ?」

「修行だよ…いきなりハンター試験なんて、貴方のお兄さんスパルタすぎ」

「なんだ…、ビビったぜ。
兄貴もレイには甘いよな、お前軟禁されてなきゃダメなんだろ」

「うん、でもどうせ逃げられないし、逃げる気もないし」

嘘はついてないが質問にも答えてない。
でも、素直に安堵するキルアの顔を見ていたら罪悪感で心が痛い。
ごめんね、キルア。

私は…

「おいおい、ホントに大丈夫なのかよ?ハンター試験って死人も出るんだぜ?」

「なんとかなるよ」

「お前なぁ…」

呆れたように彼は笑ったけれど、結末が予想できてしまう私は悲しい。彼が試験後も笑っていてくれればいいが、きっとそう上手くはいかないのだと思った。

「じゃあまた後でね」

キルアとこれ以上一緒にいるのが辛くて、私はそう別れを切り出す。「なんでだよ」彼は不服そうだったけれど、修行だからキルアに助けてもらうわけにはいかないと言うと、ちぇっと言いながらも納得してくれた。
我ながらナイスアドリブだと思う。
しかし彼と離れられてホッとしていたら、数歩も歩かないうちに悲鳴が上がる。

「アーラ不思議、腕が消えちゃった★人にぶつかったら謝らなくちゃね◇」


何か聞こえた気がしたけれど、ギタさんに怒られるの嫌だしスルーしよう。そう思ったのに、粘り気のある視線に耐えきれずに顔をあげてしまう。
目が合うなりヒソカさんはにやぁ、と笑ってこちらに近づいてきた。

「やぁ、レイ。来てくれたんだね◇」

「修行です」

「そっか、キミの師匠をさっき見かけたんだけど無視されちゃってね☆」

(イルミさん…さすが!)

ヒソカさんは嫌いではないけれど、なんだかどう対応していいかわからない。
今だって堂々と腰を抱いてくるし、男だってわかったからにはちょっと無理…。
せくはら、と言う単語を最近教わったのだけれど、彼のは絶対そうだ。

「ん〜セクハラじゃないよ、これはスキンシップ◇」

(しかもエスパー!!)

体を撫で回されてレイが硬直していると、ビュンっと針がヒソカさんめがけて飛んでくる。
危ない。もし私の方に投げてたら、ヒソカさんは黒焦げじゃ済まなかったよ。
軽々と針をキャッチした彼はその事に気づいているのだろうか。



ジリリリリリリ……

とりあえずなんとかこの状況から逃げようと画策していたら、ベルが鳴っていよいよ試験が始まるらしい。

「ただいまをもって、受付時間を終了します。では、これよりハンター試験を開始します」

これ幸いとばかりに私はヒソカさんの注意が反れた隙をついてダッシュでギタさんの所へ戻る。
針の飛んできた方向をたどれば…あ、いた!
くいくいっ、と手招きしてる!
私は嬉しくなって彼の横に並んだ。

会場にはざっと見たところで400人近くいるだろう。
こんなにたくさん人を見るの初めてで落ち着かない気持ちになる。
その結果私ははしゃぎすぎてサトツさんという試験官の話を全然聞いていなかったため、何もわからないままギタさんについて走り出すことになった。
まぁ走るのならさんざんミケとやったから、心配ない。
ギタさんもちゃんと見つけたし、滑り出しとしてはなかなか好調じゃないかな。

あ、でも、一つだけ残念だなぁ…

…カタカタすごく気になる。 やめてなんて言えないけど。

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