あのですね、私はですね。こう言ってはなんなんですけど、初期のころのゴンには全然共感できなかったんですよ。

だってゴンって最初から結構スーパーな主人公じゃありませんでした？
大人ですら釣りあげられなかった池の主を釣ったり、人を恨んでもおかしくなかったキツネクグマの子供と心を通わせたり、自分を置いていったジンも恨まずハンターへの興味を示し、ミトさんに感謝しつつも自分の意思をしっかり持って旅に出る。これ全部原作始まったばかりの、１１歳の子供なんだぜ？？信じられます？？

ハンタ試験編も会場にたどり着く前からその溢れるセンスと才能を示して、正直これといって苦戦したというイメージがなかったです。そりゃ確かに波乱万丈ではありましたよ。一次試験ではヌメーレ湿原でのヒソカの介入、二次ではまさかの料理テストで合格者０、三次試験だってほんとに時間ギリギリだったし、四次ではせっかくあのヒソカから奪ったプレートをゲレタに奪われるし、ちゃんとそこで悔しさも味わってるんです。でも我らがゴンちゃんは（突然の呼び方）やっぱりそんじょそこらの子供とは違うんですよ。最終試験のトーナメント、見てください。

「資質でオレがゴンに劣っている……？」

確かに“ハンターの資質”となると審査基準は変わるのかもしれませんけど、物心ついた時から血のにじむような特訓をしてきたゾル家の天才キルアくんと、島育ちすくすくゴンちゃんが普通並び立てると思います？化け物ですよ、ゴンちゃんは。ハンゾーとの最終試験も、まさに勝ち目のない敵じゃないですか。なのになのに、ハンゾーは負けを宣言する。こんなの私でもハンゾーに詰め寄るわ。なんでなんだよ！！！こんなの聞いてた話（勝ち目のない（ｒｙ）と違うやないか！！

だけどそれがやっぱりゴンちゃんのすごさと溢れる主人公パワーなんですよ。だってこの子、運動神経とかセンスとかだけじゃなくって、性格も死ぬほどいいんだもの。素直で、ひたむきで、好奇心も向上心もあって、仲間思いだし一本筋の通ったところもある。天性の人たらしなんですよ。いいハンターってのはやっぱ動物に（人含む）好かれちまうんだよ！！

ゴンに関しては欠点が見当たらないというか、頑固ささえも魅力だし、せいぜいなんだこの化け物スペック……世の中不公平かよ！と思うくらいで（でもやっぱりちゃんと努力もしてるし）、この先のヨークシンもGIもいつだって前を向いて頑張ってる。最高に可愛くてかっこいい主人公なんです！

でも一方で、ゴンに共感した回数と、ゴンに驚かされた回数を比べると、圧倒的に後者の方が多い。ゴンは確かに主人公だけど、読者が物語を読むときの視点になるキャラではないと思うんです。すごすぎて。いや、他の周りの皆もすごいんだけど、私は結構キルア視点で、ゴンやべーな、こいつマジかよって見てることが多いです。

昔、銀魂の空〇先生が、読者目線となる平凡めなキャラを入れると主人公や他のキャラが立ってよく表現できる、と企画かなにかでおっしゃってた記憶があるんですけど、ハンタではそれがキルアなんですよ！新八＝キルアなんですよ？？すごくない？イルミさん、おたくの愛弟が平凡目線枠のときあるんだぜ？？（ごめんなさい）

いや、親近感目線枠では確かにレオリオやズシ、ヨークシンでのゼパイルさん、GIではビノールトさん、ゴレイヌさん、ツェズゲラさんといっぱいいるんですが、やっぱり一番ゴンと一緒にいるのがキルアなので、キルアの目線でもってゴンの無茶苦茶ぶりを目の当たりにすることが多いと思うんです。親近感枠でも実際相当レベル高い人々なのに、もう〜ゴンちゃん怖い！なんなの！？メンタルも鬼のように強いし、君が眩しすぎて君の光にライジングサンされそう！

……と、GIまでは私も思っておりました。ゴンちゃん、向かうところ敵なし。挫折も秒で乗り越えるハイパー超人主人公。

だがしかし！！

あたらしい冒険にわくわくしてたら、カイト置き去りで始まる不穏な蟻編。ここでもキルアに感情移入してる普通メンタルの私たちはカイト……と不安に駆られていたら、「カイトは生きてる！」と鬼メンタルゴンの力強い言葉に励まされます。あぁ、やっぱりゴンちゃんだ！よかったうん、大丈夫！と思ったところでピトーに抱えられるカイトの生首が“読者にだけ”公開される。えっ、ちょっ、待って……ゴンちゃんこれ……一体どうなるの？？
あ〜蟻編は思い出すのもつらいぜ……。

一人で背負ってキルアに「関係ないから」と言い放つ彼は、やっぱり読者目線のキャラじゃありません。あそこ死ぬほど抉られました。私たちは蟻編ではキルアだったんです。キルア目線で、どんどんと固く閉ざされていくゴンの心に焦燥を感じて、頼ってほしくて、でも何もしてやれなくて、無力な自分が悔しくて……。自分はゴンに光を見せてもらったから、今度はゴンを助けたい。力になりたい。でも、ゴンはそれを受け取ってくれないんです。相変わらず前だけを見ているくせに、同じ景色を見せてはくれないんです。こんなんもう、パームに泣きながらお願いするしかないでしょ。オレにはゴンを救えない……。キルアじゃなきゃ駄目なんだって言ってくれたゴンはいないんです。こんなん死ねる……。キルアがいざとなったら心中の覚悟決める気持ち、ほんとにわかります。だってもうそれくらいしか、自分がゴンのためにしてやれることないんだもん。ゾル家はギブアンドテイクで育ったから、無償が、献身が、究極の行動なんだもん。ふつうの友達がどこまで友達のために行動するのか何もわからないから、持ちうるすべてを捧げて理想とする“友達”の行動をしないと（誰かが脳内で揺さぶってくるから）ちゃんと友達でいられてるのか不安なんだもん！！！！あかん、話逸れた！！！！！ゴンに戻ります！

とにかく！一度ゴンちゃんは強烈に私たちから遠い存在になってしまいました。光属性のときも十分遠かったのに、蟻編で闇の方に振り切っても、恐ろしいまでの覚悟を持って私たちを置き去りにした。カイトに対する責任とか、彼をよみがえらせられない絶望とか、わからないわけじゃないんです。だけどゴンはみんなの前で弱い姿を見せてくれない。くそっ、なんで一緒に戦おうって言ってくれなかったんだよ、ゴン！それだけで、その一言だけで、オレは命だって喜んで賭けたのに……！

まぁ結局、ゴンに対するキルアの献身は、ゾル家のインナーミッションを成功させるという形で成し遂げられました。話逸れるけど、アルカとキルアのやり取りもほんと泣けるよね……。美しい兄妹愛と、美しい長兄で、もうどっちを応援したらよいのやら。アルカに優しいお兄ちゃんは、ナニカにも優しくしなきゃだめ！！！イルミさんを好きな夢女は、暗殺家業も大事にしなきゃだめ！！……パン！私、どうかしてた！やっぱりキルが帰ってきて家を継ごう。キル自身の意思で家業をやって、アルカに仕事をふったら、家族仲良くこれまで以上にゾル家が発展できるよね？
えへへ〜ゾル家の発展？笑いが止まんないくらいうれしい〜（そろそろキルア＆アルカファンに怒られそう）

……はい。
ナニカの力で復活したゴンちゃんは、病院の服のまま選挙会場にて念願のジンと出会います！！ここ！ここなんだよ、この長々としたゴン語りで一番私が話したかったのは！！ものすごく道草してしまったけど、ジンなら楽しんでくれる？んじゃ、まぁいいな。
とにかくこれまで後ろなんて振り返らねぇぜ！！という前向きゴンちゃんが、初めてジンに会って、最初に発した言葉が「ごめんなさい！オレのせいで！オレのせいでカイトが！」なんですよ？？？

ずっと追い求めてた親父に会えて、喜ぶわけでも戸惑うわけでもなく、まるで昔から親子として過ごしてきたみたいに臆面なく話しかけるんです。この辺は必死さゆえか元々の強メンタルゆえかはもうわかりませんけど、わ、私、こんなに堰を切ったように誰かに向かって泣きつくゴン……見たことなかった！！！！これまで散々書きましたけど、ゴンはどんな苦境でも前を向いていたし、絶望の淵に立たされてもそれでもすべてを投げうってカイトの仇を取ろうとした。そのゴンがこうして（会ったことなかったとはいえ）父親を前にして初めて見せるこの年相応の弱さとか未熟さとか……！！そして涙で顔をぐちゃぐちゃにして極め付きの「オレが！！本当は！死ぬべきだったのに！！」の台詞。

あぁ、ゴンもやっぱり普通の子なんだ……って思ったら、急にこれまでは遠かったゴンの感情が流れ込んできたんです。ゴンだって後悔もするし、自分も責めるし、苦しいし、辛いし、弱い部分も抱えて、間違うことだってあるんだ。そしてそれを取り繕うこともせずに、さらけ出して人に縋ることもあるんだって。涙が止まらないですよ、ここ、ほんとに。これまでだってゴンはたくさんつらい経験をしてきたし、それについて何も感じてこなかったとまでは思ってません。だけどピトー戦の絶望も見たうえで、それでもやっぱり私には３２巻のこのシーンがゴンも人間なんだ、まだ１２歳の子供なんだって一番強く感じた部分でした。もちろんまたこの後ジンの言葉をもらい、カイトと約束をし、ゴンはまた前を向きます。その心の強さは今でも健在だけれども、彼の光指す人生の中で「死ぬべきだったのに！！」と心の底から思ってしまった負の経験は、これ以上ないほどに彼の精神を成長させてくれたんじゃなかろうかと思います。

強くて明るくて太陽みたいな主人公は少しだけ影も知っている。だからこそこれからもっと人の気持ちに寄り添えるし、人のためにもっともっと一生懸命になれるんじゃないでしょうか。今はオーラが見えなくなってしまいましたが、きっと彼なら今できることに全力を尽くして、笑っていてくれるだろうと思います。今回の短編の時間軸はここなので、そういうゴンの姿が上手く描けていたらいいなと思いました。

これからのゴンちゃんに幸あれ！！

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