誕生した365日のうち1日だけの記念日
白く吐き出された吐息。大きくて黒い目からは見事な涙が流れ落ちていく。黒い宝石が落ちてきそうなお前にどきりとするけど、お前はどうやらそれどころじゃないらしい。しゃくり声をあげて泣いているのだから当たり前だ。
「留三郎、」
冷たい空気に晒される言の葉。烈風が吹いているなかで靡いているかのように耐えている。なんて、可哀想なのだろうか。幸せにできなかった、ごめんよ。俺はやっぱりかっこよくなんかない。守れるほどの力もメンタルもないのにどうしろというのだろうか。
もう、無理なのかな、?
文次郎の誕生日を忘れていた、と文次郎は勘違いしているが、それは全くの嘘で本当はプレゼントを買うのにはほんの少しだけお金が足りず、空いていた時間に入れさせてもらったのだ。これのお陰で金銭的には余裕を持てた。しかし文次郎は誕生日に来てくれなかったといじけてしまいついには喧嘩という良くない道に走ってしまったのだ。
謝らなければ。よぎる決意が、消えて、また出され、消える。波のようにゆらゆらとはっきりしない視界は、文次郎をさらっていくように感じて背筋が凍った。まだまだ先が長いのにと、身を震わせた。
「ごめん、文次郎、待たせたな。これを買ってやりたくて」
「こ、れは?」
「キャラメルムースだよ、忘れたのか?前にケーキ屋寄ってったときに食べてみたいって」
「…あ」
ふと、揺らぐ黒。文次郎は留三郎を見上げそして涙した。いつもの厳格な態度は一体何処へいったのか。泣きながら笑う文次郎をみて、途端に息が苦しくなる。文次郎が生まれていなくて、ここにたっておらず文次郎に出会ってなければきっと俺は恋の病にはかかっていなかったのだろうか。いやきっとそれは違う。友達に合わせて恋人という名のものは遊び道具にでもしているのだろう。それでも恋の病のウイルスには侵されていないのはお前にしか対応しないからだろうか。
「おめでとう」
「留三郎、ごめん、ごめ…」
「いいよ」
また、また、
こうして誕生日を祝ってくれるか?
文次郎の不安げな声に微笑むのはきっと、お前の純粋な初々しさが堪らなく好きだからだろう。俺も誕生日をこれから先も祝ってやりたい。お前の生涯を俺で満たしてやりたい。
「あ、あとこれ」
「これは」
「問題集と…こっちは秘密。開けてみろよ」
「おお…」
がさがさ、紙の音だけがこの場に流れていく。もっと高めの包装紙に包んでやりたかったがプレゼントだけで(ケーキは親に借金をしてでも買ったんだが)精一杯でもう13円しか残っていなかった。ため息をつきたかったがこれも文次郎の生誕のためと考えてみると自分のことがちっぽけだと感じたから、震えながら買ってやった。
「これは、」
「懐中時計、お前は必要だろう?塾の帰りも遅いって聞いたし、塾はケータイ持っていっちゃダメだし」
「しかし、これは…相当なお金が、」
「お前そう考えてくれてるならさ、俺のためにも喜んでくれよ。折角の努力が水の泡はいやだぜ」
「…そうだな、ありがとう留三郎。感謝している」
懐中時計には薄い桜色が施されていて、男が使っていてもおかしくない模様だ。気に入ってくれるならば何万円しても気にしない。なんたってずっと貯めてきた金だったから。幸せと考えたら安いだろう、文次郎。
---以下コメント---
Elegyの のあ様より誕生日プレゼントをいただいてしまいましたよオオオオオ!
まさか誕生日に気づいてもらえるなんて感激です///
ちなみに1月20日でした(笑)←聞いてない
とりあえず誕生日に会えなくて拗ねるもんじに脱毛ですね
そして借金してでも懐中時計買う食満にトドメを刺されましたとも。
私の毛根のHPは既に0です(^p^)
素晴らしい誕生日プレゼントありがとうございます!
これからも頑張ります^^