2年目OLの恋愛譚 | ナノ


 3−3



まさか噂の部署のトップ2人に会う事になるなんて思っていもいなかったが、なんとか与えられた使命は果たせたようだ。これで失敗してみろ。犬猿の仲であるうちの部署がなんと言われるか、考えるだけでも恐ろしい。なんとも濃い数十分だったと緊張を解きほぐすかのように深い溜息をついてエレベーターを降りる。しかし足を踏み出そうとしたその瞬間、目の前に立っていた人影にぶつかりそうになる。

「申し訳ございませ、」
「新坂さん!」
「あ、ジャーファルさん!」

端に避けて頭を下げた所で名前を呼ばれれば、こちらを驚いた様子で見つめるジャーファルさん。その手には鞄も何も持っていなくて、外回りではなく他部署へ行くのかな、と思っていれば何故だかもう一度慌てた様子で名前を呼ばれた。

「新坂さん!」
「はい!」
「無事ですか!?」
「ぶ、無事? 無事だと思われますが…」
「あなたに仕事を頼もうとしたら、上の部署の方に連れて行かれたと聞いて、」
「あ、すみません。急ぎですか? 今から、」
「そんな事より!」

え、大事な仕事をそんな事呼ばわり? と驚いた眼でジャーファルさんを見返すと、彼は見る見る間に眦を釣り上げて恐ろしい顔に変貌していくではないか。ひっ! この人のこういう所はいまだに慣れない! そのまま一体何をしていたのかを、まるで尋問されているかのような気分で聞きだされる。

「あの紅い連中め。自分の所の客なら、自分の所の人間を使えよ」
「ま、まぁ、それほど大事なお客様だったみたいですよ」
「他に何かされた事はない? 変な契約書にサインさせられたとか、脅されたとか、」
「上の営業所をなんだと思ってるんですか。それじゃあ悪徳商法ですよ」
「いえ、悪徳なんです」

うわっ、言い切ったよこの人! なんなの、なんでうちの部署の上の人たちってこんなに上の部署が嫌いなの!? まぁ、成績上はうちの部署と上の部署のトップ争いみたいな感じになっていて、どうにかお互いを蹴り落としたいのは分かるのだが……言っておくけど同じ会社内だからね? そう思いながらも話を逸らして見ようかと頑張る。

「で、でもご兄弟で部長と補佐ってすごいですね。確か他にも弟さんと妹さんが同じ部署内にいるとか」
「そんなのコネで入社させてるだけだよ。まぁ、それでも一人一人の能力が高いからコネで入ってこようが、何も言われないんだけどね」
「へぇ、そうなんですか」
「ちなみにその中の何人かの妹たちは人事部にいてね、それとなく自分たちのいいように動かしているんだよ」
「え、………それ、いいんですか…?」
「勿論駄目だね」
「…ですよね」

しかもそんな話を私にするという事は、ほとんど周知の事実という事なんだろう。それでもお咎めを受けない上の部署は一体何なんだろうか? 眉間に皺を寄せながら恨み言を漏らすジャーファルさんを見てそう思う。というか、

「ジャーファルさん、前に大学時代の後輩が人事部にいるっておっしゃってませんでした?」
「うん、言ったね」
「………もしかして、」

もしかしてうちの部署も、そこまで言いかけた所でジャーファルさんがとってもとっても綺麗な笑みを見せるので、そこから先は何も言えなくなってしまった。あ、こっちも周知の事実なのね。というか他の部署もこんな事をやっているのだろうか? そう考えながら何だか会社の闇を見た気がした。ひっ、怖い! これ以上、上の部署の話題には触れない方がいいのだろう。とりあえず話を戻しておこうと思い、心配をかけたであろう謝罪をする。

「ご心配かけて申し訳ございませんでした」
「いえ、何をするか分からない連中なので。うちの事務を捕まえて、何か部署の事でも聞き出そうとしているのかと思いましたよ」

あ、そっちの心配ね。それが心配で慌てていたのか。まぁ、確かに些細な事でも漏らせばそれがトラブルの元になってくるし、信用問題にも関わってくる。そんな事になれば我が部署だって大変な事になってしまうのだ。きっとそれを心配したのだろう。分かるけどね。だけどたとえ同じ会社内だとしても、他部署の人に簡単に話したりしないんだけどな。そうちょっとだけ、ほんのちょっとだけ悲しく思っていると、

「でも、あなた自身に何もなくて良かったですよ」

そう笑顔で言ってしまうからずるいと思う。そんな事を言われたら、さっきの言葉なんてどうでもよくなってしまうから、本当にずるい。そう思いながらも2人でオフィスに戻るため歩き出す。だって私がこの階に戻って来たとき、ジャーファルさんはエレベーターに乗ろうとしていたのに何事もなく戻ろうとしているという事は、本当に私が同期の友人に付いて行ったのを知って、私の事を迎えに来てくれたって事でしょ? たとえさっきみたいに部署の心配だとしても、私自身を迎えにきてくれた事は本当だし。ああ、本当にずるいな。そしてこんな事で嬉しくなっちゃうなんて、私はおかしいな。

「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそお菓子をありがとうございます。確かにほんの数分休むだけでも、頭の回転が違いますね。いつも以上に仕事が出来て、大変効率的だ!」
「いや、いつも以上の仕事をなされたら意味がないんですけどね」

そう輝いた瞳でいう彼に呆れ返る。それじゃあ何のために休んでいるのかって話だよ。そう思いながらポケットの中に常備しているお菓子をつまみ出してジャーファルさんに押し付ける。

「ありがとう」

にっこりと綺麗な笑顔。やっぱりずるいなぁ。




(2014/08/09)



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