2年目OLの恋愛譚 | ナノ


 3−1



「そういえば今日のジャーファルさんはいつも通りに戻ってたね」

そういってレンゲでスープを飲むニーコ。本日のお昼ごはんはしょうゆラーメン。こってり系も好きだけどやっぱりさっぱりが好き。何故か無性に食べたくなるんだよね、そう思いながら口の中に入っている麺を飲み込み、ニーコの視線を辿る。そこには部長とジャーファルさん、マスルールさん、シャルルカンさんが端の席で食事をとっている姿が。どうやらこの時間、4人は特に外へ出る仕事もなかったのだろう。私やニーコ以外にもこの食堂にいる者たちの視線がそこへと一点集中しているのがよく分かる。

「それにさっきはコーヒー飲みながらマドレーヌ食べてたし……一体あのお菓子は誰からの貢物だ!」
「………」

ニーコはぎりぎりと先ほどの状況を思い出しているのか拳を握りしめる。ニーコの言うさっきとは、私が今日のお茶くみ当番でコーヒーをジャーファルさんに渡した際、皆にばれないようジャーファルさんのデスクに置いたマドレーヌの事だろう。


昨日、2人で話した時にちゃんと5分休憩はとるって言っていた。ジャーファルさんが倒れたら大変っていうのも本当だし、少しでも休んでほしいし、だからお菓子を置いてみたのだ。最近見つけたマドレーヌなのだが結構美味しかったし。するとそれに気付いたジャーファルさんは本当に私がお菓子を渡すと思っていなかったのか、一瞬驚いた顔をした。でもすぐにその表情を笑みにかえた後、声には出さずにありがとう、と言って下さった。昨日の事だってジャーファルさんは優しい人だから部下の無礼に怒らなかったが、本当はどう思っているかまでは分からない。でも、それでも、ジャーファルさんの悲しい顔が何故かしらないけど気になって、ついあんな事を口走ってしまった。まぁ、完璧にお節介だろうが、でも嬉しかったのだ。嘘でも本当でも、どちらでもまた笑ってくれたのが嬉しかったのだ。

片付けを終えて自分のデスクに戻ってみるとそこにはコーヒー片手にマドレーヌを食べるジャーファルさんが。あの仕事大好き仕事人間のジャーファルさんが、休憩をとっていい時間とはいえ、あのジャーファルさんがお菓子を食べている! と、一時、部署内は大騒ぎとなった。一番慌てていたのは部長だろう。

「どうしたジャーファル! どこかおかしいのか!? 頭か!? 頭がおかしいのかっ!?」
「頭がおかしいのはお前だろ」
「あ、いつも通りだ」

そんなやり取りを繰り広げていた。結局部長とのやり取りのせいで5分が経ってしまったのか、その後は直ぐに仕事に戻ってしまったのだが、そんな少ない時間でも休んだだけましだろう。なんせパソコン作業がほとんどなのに画面を見続け、1日中座りっぱなし。いつか何かの病気を発症させるか、過労死か、どちらが先だろう? と他部署の人たちが話していたのを聞いた事がある。うん、だって目の下に作ってる隈の濃さは尋常じゃないもん。だから皆心配していただろうし、たったの5分だけでも休憩はとってほしいと思っていた。けれど実際に今までなかった状況だけに、その姿を見ると我が目を疑ってしまうんだろう。その証拠に、

「まぁ、休んでくれた事は嬉しいけどね」

そうニマニマと笑顔と呼んでいいのか微妙な笑みでイケメンたちを見つめながら言ったニーコの言葉は、部署内全員の心の声だと思う。

「それにしても、まーた楽しそうにご飯食べてるねー」

ニーコの言葉は一瞬、自分に向けられたものかと思ったがどうやら違ったようだ。ニーコの見つめるその先、イケメンたちだ。部長とシャルルカンさんがジャーファルさんに何やら絡んでいるらしく、絡まれている当人は鬱陶しそうにその顔を歪ませている。ちなみにマスルールさんはその輪には加わらずにから揚げを口いっぱいに頬張っている。ああ、から揚げも美味しそうだ。しかし今はラーメン、そう思いながら私も麺を口いっぱいに頬張っていると、隣にいたニーコが声を上げる。

「あっ!」
「ん?」
「イ、イケメンたちがこっち見てる! え、え、え、なんでっ!?」

その言葉に口の中に麺が入ったままイケメンたちへと顔を向けると、確かに4人の視線がこちら側に集中している。どこを見ているのか知らないが、一斉に此方を見ている状況はちょっと怖い。そして隣で奇声を発してテンションが最大級に上がっているニーコも怖い。しかし次の瞬間、飲み物に口を付けていたジャーファルさんが、

「あ、」
「ちょ、」

それを吹き出した。
前にもなかったかこれ。




(2014/08/08)



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