2年目OLの恋愛譚 | ナノ


 2−5



木曜日。仕事を定時で終え、ニーコと一緒にオフィスを出る。ニーコとは線が違うために駅の改札手前で別れ、ジャーファルさんとの待ち合わせまでの時間を潰すべくコーヒーショップへと入る。新メニューのフラペチーノと携帯があれば時間なんてあっという間だ。そのまま待ち合わせ場所へ。予め教えて頂いた連絡先で合流した。新人歓迎会の時とは違い、いつだか送って頂いた時の車に乗ってご登場。

「えっと、お疲れ様です。定時で上がっていたよね? 待たせてしまってすみません」
「お疲れ様です。そんなに待っていないので大丈夫です」

そんなやり取りをした後、手元にあった袋を手渡される。中を覗き込めば透明の袋に入れられて綺麗に畳まれた見覚えのあるスカートが。

「一応確認させて頂きましたが、染みは残らなかったようです。本当に申し訳ありませんでした」

その言葉と同時に頭を下げるジャーファルさん。袋を覗き込んでいた私はそんな彼の姿に慌ててしまう。

「謝罪なら何度も伺いました! 本当に気にしていないので頭を上げて下さい!」
「…ありがとう」

私の言葉に顔を上げて少しだけ困ったような顔で笑うジャーファルさん。やっぱりそこにはあの笑顔はない。ちょっと悲しい。しかしちらりと視線を外した後に今度はしっかりと視線を合わせて口を開く。

「もしこの後もお時間があれば一緒に食事でもどうです?」

食事? 私とジャーファルさんが? え、この人、私と2人きりで食事なんて平気なの? そんな事を思いつつ、しかし最近の挙動不審さも気になる。オフィスであんな態度を取られたら気になって仕方がない。もしかしたらその原因が分かるかもしれない。そう思ったら断る理由はなかった。

「はい。私でよろしければ」
「そうですか。それではどうぞ」

そういって助手席の扉を開けてくれるジャーファルさん。やっぱり紳士だ! そんな事を考えながら助手席に乗り込む。そして反対側へと周り、ジャーファルさんが運転席に乗り込んだのを確認して私もシートベルトを締めた。するとジャーファルさんは視線だけをこちらによこして問いかける。

「新坂さん、食べたいものはある?」
「食べたいもの……」
「なんでもいいよ」

と、言われてもなんと答えたもんか…。私は基本何でも食べるし、美味しければ本当に何でもいいのだ。他の事には即決型なのだが、食べ物に関しては選択肢が広ければ広いほど悩む。メニューを覗き込めば好きなものをぽんぽん頼めるのに…。ちなみにジャーファルさんに好き嫌いはないのだろうか? というかジャーファルさんって普段何を食べるんだろう? え、これ本当に私が選ぶの? そんな感じで眉間に皺を寄せながら脳内会議を始めてしまった私の隣から、小さく吹き出す声が聞こえる。え? 不審に思い隣へと顔を向けるとジャーファルさんが小さく笑っていた。そして私の視線に気づくと、彼は質問の仕方を変える。

「和食と洋食どちらがいい?」
「和食! が、いいです」
「それじゃあ和食の美味しいお店があるからそこにしよう」

にこり、と綺麗な笑顔を浮かべるジャーファルさん。うわぁ! 久しぶりに見たこの笑顔。男性には失礼かもしれないが、やっぱり美人だ。最近はご無沙汰だったその笑みに少しだけ嬉しくなった。そして行先が決まった所で車を走らせる。それにしても迷ってたから選択肢を絞ってくれたんだよな。以前に付き合っていた男はこういう時一緒に悩み始めて、決めるのに物凄い時間がかかった。先ほどのようにさらりと女性への気遣いが出来るのが本当に素晴らしいと思う。手馴れているんだろうか? まぁ、まったく女性との噂がない人だが、それでもまったくないという事はないだろう。この上司が選ぶ女性はどんな人なのだろうか?

ちなみにお昼ご飯にパスタを食べたから和食と咄嗟に答えてしまったが、外人であるジャーファルさんを考慮して洋食と答えるべきだった! と後悔するのは車が走り出して5分後の事である。




(2014/08/07)



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