2年目OLの恋愛譚 | ナノ


 2−4



なんだかジャーファルさんの様子がおかしかった月曜日。それからも視線は感じ続けよく分からないままに水曜日になってしまった。一体どれだけ迷惑かけた事を心配しているのだろうか…? それとも他に何か言いたい事でもあるのだろうか? しかし私たちが話す機会があるわけもなく、ここまで来てしまったのだ。どーしたものか、そう考えながら当の本人であるジャーファルさんへと出来上がった書類を届けに行く。

「ジャーファルさん、会議用の書類出来上がりました」
「ありがとうございます」

私が差し出した書類を受け取るジャーファルさん。しかしやっぱり挙動不審。上司にこういうのもなんだが、ちょっと不審者みたいだ。いや、イケメンだから何しても犯罪には見えない所が凄いのだが。そんな事を考えつつ、自分の姿を視界に入れるだけで視線を逸らし、若干顔色を悪くするジャーファルさんを見ていると何だか悲しくなってくる。苦手意識を持たれているというか、私の存在が彼にとっていいものではないのではないのかと思えてくる。やっぱりこれは私に迷惑をかけた事を心配しているのではなく、他に何かあるのではないか? だって今も視線を合わせてくれないし。仕事では厳しい姿を見せる時は多々あるが、それでもやっぱり優しくて、部下への気遣いもしっかりしてくれて、辛い時には営業とか事務とか関係なく皆に励ましの言葉をかけてくれる。そんな素晴らしい上司が、ただの事務にこんなに挙動不審になるはずがない! やっぱり私が何かしてしまったんだ! こんなにお優しい上司に嫌われる何かを…そ、尊敬している上司に嫌われるなんて……。

「………」
「………」
「…え、っと、それでは仕事に戻ります」

しかしきっと原因はあの金曜日にあるのだろうが、ここは勤務時間中のオフィス。こんな所で何か話せるわけもなく、結局は自分の席に戻ろうと背を向けようとした所で、新坂さん! と声がかかる。

「はい?」
「…少し待ってください」

そういってジャーファルさんはデスクの端にあるメモ用紙を手繰り寄せペンで何かを書き込み、それを私へと差し出した。

「この書類作成を頼みたいのですが、」

そう言われて手元のメモ用紙を覗き込むと、


スカートを渡したいので
明日の7:30に駅前広場


と、書かれていた。下の方には数字とアルファベットの羅列がある。これはどうみても携帯番号とアドレスだろう。そしてこれは今、目の前の彼が書いたもの。という事は間違いなくジャーファルさんの番号という事になる。

「…よろしいですか?」

座っているので此方をちらりと見上げるジャーファルさん。先ほど書類と言っていたが、今の問いかけはこのメモに対してだろう。というかすっかりスカートの事を忘れていた! あの日はスカートを預けた際、自分のせいなので自分が支払いと受け取りをする、と一切の口出しを許さずに引換の紙を奪い去って行ったのだ。自分にとっては高い品物なのに忘れてるとかありえない…。しかし自分を見上げてくる視線に、明日の予定を頭に浮かべる。これといって特に用事があるわけもなく、18時退社なので多少の残業があっても間に合うだろう。

「はい。大丈夫です」
「それじゃあお願いします」

そういってぎこちない笑みを浮べるジャーファルさん。先週までは綺麗なにっこり笑顔を見せてくれていたのに、今の笑みはその面影がまったくない。そりゃあ送って貰った時の車内も、一緒に天ぷらを食べた時も、ほとんどお仕事の話や部長の失態の話がほとんどだったけれども、それでも普段話す事のないこの上司とああやって話せたのは楽しかった。それが今目の前の彼は、ちょっと不審者みたいな状態。ちょっぴり悲しい…。ジャーファルさんは金曜日の事をほとんど覚えていないと言っていたし、という事は私が泊まった事は知らない。しかし私に迷惑をかけてしまった事を心配しているという状態には見えない気がするし…。あの金曜日の事で思い浮かぶことは他にない。一体何がここまでジャーファルさんを不審者にさせるのか。

明日、明日になれば分かるだろうか? 金曜日の事を説明して、そうしたらこの不審者具合の謎が解けるだろうか? ああ、早く明日にならないかなぁ。




(2014/08/06)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -