2年目OLの恋愛譚 | ナノ


 2−3



おかしい。パソコンの画面から顔を上げれば交わる視線。だが次の瞬間には違う方向へと向けられる。それを繰り返す事、朝から数えられない数。一体どういう事だろうか?

昨日はあれから部長とジャーファルさん、マスルールさんがオフィスに戻って来る事はなく、残りの指示はいつも通りヒナホホさんとドラコーンさんが出していた。こちらの2人もジャーファルさんと同じく優秀で、上からの評価も高い。どちらかといえばヒナホホさんは営業向けで、ドラコーンさんは後輩の育成に力を入れているのだが、それでも2人の仕事は完璧で部長とジャーファルさんが外出中の時でも問題が起きることはなく、とても頼りになる上司である。そんな訳で昨日の資料庫から顔を合わせる事なく朝の朝礼を迎えたのだが、どうも先ほどのように視線を感じるのである。最初は自分の勘違いだと思った。しかしそれが1時間の間に何度も続けば、どうしても偶然とは思えない。もしかしてまだ私に迷惑をかけたかもしれないと、心配しているのだろうか? 確かにジャーファルさんは真面目だし、きちんとしているからそういうのが気になるのかもしれない。でも本当に気にしなくていいのになー。そんな事を思いつつ、やっぱりジャーファルさんからの視線を感じながら仕事を続けていればお昼を迎えた。






「やーっとお昼御飯だ」
「とか言いつつ、デスクの引き出しからお菓子出してつまみ食いしてたじゃん」

そう言いながら先ほど渡したお金で、私の分と一緒に2枚の食券を買うニーコ。そのままカウンターへと流れ、おばちゃんへとそれを渡した。

「だって新商品なんて書いてあったら買わないわけにいかないじゃん」
「だからって常備してるお菓子の量が半端ないんだよ」
「あんたのイケメン先輩たちの隠し撮りには負ける」
「未央ちゃん、Bランチのデザートあげるね!」
「ありがとー!」

そんなくだらないやり取りをしながらご飯を受け取り、予め取ってあった席へと座る。

「いただきまーす」
「いただきます!」

やっぱりここの和風ハンバーグは美味しい! デミグラスも好きだが、この大根おろしとタレが堪らない! 大満足で1日の内の一番の楽しみを堪能していると、出入り口の方が騒がしく感じる。それでも構わずにハンバーグを楽しんでいると、我が友人ニーコが奇声を発する。

「ちょ、なに? うるさい」
「だって我が部署きってのイケメン集団、部長、ジャーファルさん、マスルールさん、シャルルカンさん、スパルトスさんだよ!!」

うるっさいニーコのその声に出入り口を見ると、確かにイケメンが勢ぞろいである。

「ヒナホホさんとドラコーンさんもいらっしゃる! ドラコーンさんは奥さんがいるから仕方ないとして、ヒナホホさんも渋くて素敵よね!!」
「……あんた部長が好きなんじゃないの? あれ、ジャーファルさんだっけ?」
「部長もジャーファルさんもマスルールさんもシャルルカンさんもスパルトスさんもイケメンなら皆好き」

そう真顔で言い切る友人の今後が心配になった。でも確かに6人勢ぞろいするのは珍しい。食堂内はそんなイケメン集団を見て隣のニーコ同様、大歓喜である。これで6階のイケメンたちまで降りてきたら大変な事になりそうだ。そんな事を考えつつ付け合せのサラダを食べる。各々で食堂に来ることはあっても、6人が揃う事は珍しいだろう。部長は外にいる事が多いし、時間が合わなければ仕事を進めながら携帯食で済ませてしまう。もっと酷いのはジャーファルさん。彼は食事をするより書類を片付けたいらしい。一種の病気である。しかしそのままやつれていくジャーファルさんをこうやって食事に連れ出すのが、周りのイケメン集団の役目なのだ。

「ああ、目の保養……」
「熱い視線を送るのは構わないけど、よだれ出すのは止めて」

ぶっ壊れているニーコはとりあえず放置して、残りのデザートを楽しむことにする。今日のBランチのデザートは果肉が沢山入った、白桃ゼリーである。ニーコの分も合わせて二つも食べられるなんて幸せだ。まずは一つ目を楽しむ。

「あー幸せー」
「私も幸せー」

そうイケメン集団を見つめながら食事を終えたニーコ。その顔は締まりがない。しかし何かに気づいたかのように、目線はそのままで口を開く。

「そういえばさー今日のジャーファルさんって、なんかおかしくない?」
「……なんかって何が?」
「んー……なんか、挙動不審っていうか、落ち着きがないっていうか…」

今日の出来事を思い出すかのようにそう呟くニーコ。鋭い。という事はやっぱり私への視線も勘違いではなかったという事になる。まぁ、ニーコが視線には気付いていなくて良かった。それにしても、そんなに金曜日の事が気になるんだな。そんなに気になるなら説明して上げたいけど、私がお忙しいジャーファルさんを呼び出すなんて真似出来ないし…。一体どうしたものか。

「ん?」
「どうしたの?」

イケメン集団を見つめていたニーコが不思議そうな声を上げる。気になってその視線を辿るとやっぱりイケメン集団がそこにいる。なんだかとても盛り上がっているようである。だが次の瞬間、

「えっ!?」
「なっ!!」

ジャーファルさんが飲んでいた飲み物を口から吹き出した。え、本当に昨日から何事なの?




(2014/08/05)



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