2年目OLの恋愛譚 | ナノ


 2−1



「ちょっとー! 金曜日、いつの間に帰ったの!? ジャーファルさんも気づいたらいなくなってるし!!」
「あー…飲み過ぎて気持ち悪くなったから、先に帰らせて貰ったんだよ」
「未央が自分の限界以上を呑んじゃうなんて珍しい!」

そう言いながら私の体調を心配をした後、金曜日の部長について語り始めるニーコ。朝から本当に元気だ。しかし申し訳ないのだが、話は右から左だ。

結局あの後、たまたま通りかかったタクシーを拾い帰宅。お風呂に入ってもう一眠りするとやっと頭の中がしっかりしてきた。何故逃げてしまったのかと! あの時にジャーファルさんの下敷きにされていたリボン。帰宅後の夜に気づいたのだが、そのリボンを下敷きにしたまま置いて来てしまったではないか。意識が朦朧としていたとはいえ、私が送ったことは覚えているだろうし、リボンが部屋の中にあるのだから、部屋の中に入った事にも気付くであろう。しかも私がそのまま泊まった事に気づいていなければ良いのだが、もし気づいていたら? お礼も言わないまま逃げてきた事になる。なんて人として最低なのだろう。出来れば私がジャーファルさんの家に泊まったと気づいていない事に賭けておこう。

「それでねー部長ってば、」

それにしても今さら恥ずかしくなってきた。同期や同年代の人たちと雑魚寝するのとは違う。だってジャーファルさんはイケメンで、優しくて、仕事も出来て、皆から尊敬されていて。一種のアイドルのようなものなのだ。恋愛とも違う、憧れ。そんな人と一晩、同じベッドに寝ていたなんて恥ずかしいに決まっている。だがジャーファルさん本人はそんな事なんて知らない訳で(多分)、知っていたとしても私なんかが相手じゃそれこそなんとも思わないだろう。そうだ。ジャーファルさんはきっと何とも思っていない。きっと私が泊まってしまった事に気づいたとしても、お優しいジャーファルさんの事だ。笑って許して下さる。仕事場で公私混同はよくない。普通に、普通にしなければ。

「ちょっと、聞いてるー?」
「うんうん。あの天ぷらは美味しかった」
「誰が天ぷらの話をしとるか!!」






それでもやっぱりいつも通り仕事は回ってくるもので。数字を入力したり、書類を会議用にデザインし直したり、上への提出用に構成したり、お茶くみに、コピー用紙の補給。やる事はまだまだあるのだ。それに珍しくも朝からジャーファルさんは外に出ているようでいないし、特に何も考える事なく仕事に励んでいた。が、

「新坂さん」
「ジャーファルさん! お帰りなさい」
「はい、戻りました」

なんといつの間にか戻って来たのか、私の背後にジャーファルさんがいらっしゃった。驚きのあまり少しだけ大きな声が出たが、いつも通りに挨拶をする。するとジャーファルさんは手元にあるファイルを私へと差し出す。

「これを明日のお昼までにお願いします」
「はい」

いつも通りの何てことない仕事だ。私はそのファイルを受け取り体をパソコンの方へと戻そうとするが、ジャーファルさんはその場から動かない。まだ何か頼みたい事があるのだろうか? そう思いながら見上げる。するとやっぱり頼みたい事があったのだろう。私にもう一つ仕事を頼む。

「作成して頂きたい書類があるのですが、今平気?」
「はい」
「それでは資料を用意するので、手伝ってください」
「分かりました」

私は明日の午後と付箋に書き込み、それを受け取ったファイルに貼る。一連の流れを確認したジャーファルさんは資料庫に向けて歩き出した。この時の私は、朝まで覚えていたリボンという存在をすっかり忘れていたお陰で、この頼みごとが本当に書類作成だと信じて疑わなかった。




(2014/08/05)



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