2年目OLの恋愛譚 | ナノ


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朝日の眩しさに意識が浮上する。何だか首の辺りに違和感を感じて寝返りが打てない。はて、ベッドの上に何か物を乗せていただろうか? 無理やり動こうにも、少しでも動くと首が閉まって苦しい。一体何がどうなっているのだ。私は寝起きで開ききらない瞼を無理やり上げる。眩しい。

「…え?」

眩しいのは朝日のせいだと思ったがそれはちょっと違ったらしい。朝日と朝日に反射した銀髪が眩しかったのだ。そう銀髪……

「ちょっ!!」

私はその銀髪の持ち主が分かり咄嗟に離れようとする。しかし先ほども感じた首の苦しみと頭痛を感じて動きを止めてしまった。どうやらブラウスの首元に結んでいるリボンが、目の前にいる彼の肩の下敷きになっているらしい。どれだけ引っ張っても、意識のない人間から奪い返す事は出来なかった。

「………」

勿論目の前にいる彼とは、ジャーファルさんの事である。ちらりと視線を下に移すと、可愛らしい寝顔が目に入る。年齢の割には幼い顔立ちなのだが、寝顔はそれよりも幼く感じさせる。って……そんな事を考えている場合じゃない! 私は仕方なく、ジャーファルさんの下敷きにならなかった方のリボンの片側を摘まんで解いた。そのまま自分の首元から外せば、やっと起き上がる事が出来た。そこで部屋を見渡せばとっても綺麗に片付いた、自分の部屋とは比べ物にならないぐらいの広さの場所だという事に気づく。

「さっすがジャーファルさん」

ベッドの下にはジャーファルさんのジャケットと、2人の鞄が落ちている。腕時計を覗き込めば6時を15分ほど過ぎた所だった。私は昨日の事を思い出すべく、ベッドの端に座る。

確かあの後、2人で天ぷらを食べながら部長の話や仕事の話をして、その後にジャーファルさんの元へと2杯目のウーロン茶が来た。しかしそこからおかしくなったのだ、ジャーファルさんが。どうやらウーロン茶だと思っていた物がウーロンハイだったらしく、それを気づかずに飲んでしまった。直ぐ後に来た店員さんの説明で気付いたのだ。しかしウーロンハイなんてそこまで強い物ではないため、お酒の飲めないジャーファルさんでも平気だろうと高をくくっていたのだが、数分後ジャーファルさんがぶっ壊れた。

「部長はね、本当にどうしょうもないんれすよ!」
「でもね、私はあの人に付いて行くと決めたんれす!!」
「くっそ、人が先に目を付けた取引先を奪いやがって! 上の階の紅い連中め!!
「ちょっと新坂さんも飲んれます!?」
「あははははははっ!!」

これがぶっ壊れていると言わないで何と言う? 止める間もなくどんどんお酒を飲んでいくジャーファルさん。そして進められるがままに飲んでいく私。2人ともべろんべろんである。しかしお会計時にはしっかりジャーファルさんが払い、私には1円も出させてくれなかった。だがそこで安心したのだろう。べろんべろんのジャーファルさんは真っ直ぐ歩くことが出来ない。私だって辛いが彼ほどではなかったので仕方なく肩を貸しタクシーを捕まえて、自分の家の住所を言わせる。そしてタクシーで熟睡。だがお会計時は起きる。何なんだこの人! 酔っぱらっててほとんど意識が無くても紳士かよ! 

だがタクシーから降りれば、私の肩に掴まらないと歩けない。仕方なく部屋まで送る事になるのだが、見上げた先は高級マンション。やっぱり凄いわ…。そこから鍵を出させ、部屋があるという5階まで向かう。その間中ジャーファルさんは、部長の酒癖と女癖の悪さ、上の階にあるもう一つのイケメン部署の恨み言を呪詛のように吐き出していた。結局ほとんど意識のないジャーファルさんをこれまた仕方なくベッドまで運び込んだのだが、ついに私も力尽きてベッドに倒れ込んでしまったのである。それでもなんとか立ち上がり帰ろうと頑張ったのだが、起き上がろうとする私の腕をジャーファルさんが掴み熟睡。そこで私も本当に力尽きた。

「相当飲まされたからな…体力使って酒が回ったのかも……あー完全に二日酔いだわ………」

はぁー、と深い溜息をつく。 私たちの間に何もなかったのは当たり前だし、ジャーファルさんに腕を掴まれてそこで力尽きてしまったにしても、それでも仕事場の上司と同じベッドに寝てしまうなんて。こんな事がジャーファルさんのファンにばれたら串刺しだろう。私は恐ろしくなりながら、背後でいまだに眠り続けるジャーファルさんを振り返る。

「………」

本当に綺麗な顔。まつ毛が長くて、肌は白い。そばかすが幼さを助長させるが、それも似合っているから不思議だ。でも顔の近くにある手のひらは男の人のもので。一般男性に比べたら細く、小さくて白いのかもしれないが、やっぱり自分の手と比べると大きいのだ。そういえば昨日ジャーファルさんの事を支えていたが、見た目に反して体はがっしりとしていた。明らかにひょろっとしていて、吹けば飛んでいきそうなのに。やっぱり男の人なんだなー。こんな人の隣に並ぶ女の人は、同じように綺麗で淑やかな人なんだろうな。そりゃあ私なんかがジャーファルさんみたいな人の隣に並ぶなんて烏滸がましいけれど、それでもやっぱりこんな人が彼氏だったらニーコの言うように死んでも良いくらいに幸せなんだろうか? そんな事を考えながらしげしげとジャーファルさんの顔を覗き込んでいると、段々と眉間に皺が寄せられていく。

「ぅ、うぅ、ん……っ…」
「っ!?」

どうやら私と同じで朝日の眩しさで目を覚まそうとしているようだ。しかし私は一瞬前までなんだかとっても恥ずかしい事を考えていたような気がして、ジャーファルさんの瞼が開ききる前に咄嗟にベッドの下の鞄を拾い上げ、気づけばジャーファルさんの部屋を飛び出してしまっていた後だった。




(2014/08/05)



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