2年目OLの恋愛譚 | ナノ


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急に私の手を取って立ち上がるジャーファルさん。え、なになに?

「新坂さん、ジャケットと鞄は?」
「え、あー、あっちに」

そう言って自分が最初に座っていた席を指さす。そこには開始当初、事務の人たちが中心に座っていたのだが今は誰もいない。群れの移動先は部長のお膝の上とその周り。本当に王様か! そう心の中でツッコむのと同時にジャーファルさんが口を開く。

「先に店を出ていて下さい」
「え?」
「私はヒナホホさんとドラコーンさんに声をかけてくるから。店の前にいてね」
「はい?」

そう言って私が手にしていたストラップを抜き取り、自分の後輩たちと飲んでいるヒナホホさんとドラコーンさんへと近づいて行くジャーファルさん。というか今、店の前にいて、と言った? 何故? よ、よくは分からないけれども、今の会話から推測するに、私とジャーファルさんは此処から抜け出すみたいだ。いや、本当によく分かんないけど。皆既に出来上がっており、それ以外は酔っぱらいに絡まれているか、介抱、王様(部長より王様の方が合っている気がする)に夢中な状態で、先ほどのワイン事件には気付いていないらしい。まぁ、端にいるしね。しかしこんな大勢の居る前でジャーファルさんと抜け出して見ろ。大変な目に合う。簡単にそんな光景が思い浮かび、背筋に氷が走った気がした。それならいっそジャーファルさんの言う通り、先にお店から出ていた方が良いかもしれない。

私はそう考えて自分の席へと戻り、ジャケットを着こんで鞄を肩にかけた。そのまま周りに気づかれないように、そうっと店から抜け出した。外は人で溢れかえっているとはいえ、店内の騒がしさに比べればどうってことない。そこで私はスカートの染みを思い出し、肩にかけていた鞄を腕にかけてそれを隠した。でも上の方もかかっちゃったし、電車に乗るのも恥ずかしいな。これじゃあ座れないし、扉周辺に避難しないと。それにしても去年のしゃぶしゃぶ同様、天ぷらも最後まで食べられなかった…。

「お待たせしました」
「あ、ジャーファルさん」

天ぷらを食べられなかった悲しみに暮れていると、店からジャーファルさんが出て来る。そのまま道路へと出て、タクシーを停めた。

「はい、乗って」

そう言って私をタクシーに乗せるジャーファルさん。え、どこに行くわけ!? そう思っていたら、運転手に告げた行先は私の家の最寄駅。もしかして私の家? こんな格好になってしまったから送って下さるのだろうか? しかしそれは合っているようで違うらしい。

「家に着いたら直ぐに着替えて下さい。スカートは直ぐにクリーニングに出そう。仕事帰りの人のために、遅くまでやっているクリーニングがあるんだよ」
「え、今から行くんですか?」
「そうしないと染みになってしまうよ」

するとジャーファルさんは私のスカートの染みを見て、自分が来ているジャケットを脱ぐ。そのまま私の膝へとそれをかけた。

「ジャーファルさん!?」
「おしぼりでも拭いたし、冷たいでしょう? 本当に申し訳ありませんでした」

そのまま私へと深く頭を下げる。確かに冷たくなってしまったスカートに、足は冷えていた。かけてくれたジャケットにはジャーファルさんのぬくもりがあり、冷えていた足がとても温かく感じる。

「いや、あの! 頭を上げて下さい、ジャーファルさん! それにスカートのワインの臭いとか、色がジャケットに付くかもしれないし、」
「そんな事気にしなくても大丈夫だよ。それよりスカートもストラップも駄目にしてしまって、食事だって中断させてしまったし…本当にすみません…」
「いやいや、だから謝らないで下さい! 私が先に気づいてもっと中央に寄せて置けば良かったし、あんな所にいなければ!」
「それなら私が先に気づいていれば良かったし、気づかなかった私が悪い。すみません、新坂さん」

私の言葉に対して一歩も引かないジャーファルさん。上の方々からも一目置かれ、下の方々からは尊敬のまなざしで見られるジャーファルさんが、私みたいな2年目のぺーぺーに頭を下げているなんて居た堪れない!! おまけに眉は八の字、とても悲しそうな目で見られたら、こちらが悪い事をしたような気分になって来るから不思議である。しかしそんな押し問答をしている間に最寄駅に到着。私が何か言うよりも早く、ジャーファルさんが家までの道順を伝えていく。膝にかかっているジャケットといい、スマートすぎる。出来る男はやっぱり違う。なんて考えていれば家まで到着。タクシーは私がスカートを持って来てクリーニングに行くため、このままアパートの前で待たせて置くらしい。先にジャーファルさんが降りて、その後に私が続く。

「ジャケットは腕にでもかけて持って行って。そうすれば染みも見えないし」

住宅街の中にあるアパートのため、アパートに入り込んでしまえばほとんど誰ともすれ違わないのだが、こういう事をさらりと出来るのが本当に素敵だと思う。しかし私は次の言葉に驚き目を見開く。

「クリーニングに行ったらその後、ちゃんとどこかでご飯を食べに行こう」

え、2人で!?




(2014/08/05)



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