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あと九十七本...「怪談」




結局、何も言えずに丸井と帰ることになってしまった。テニス部ファンなら嬉しいんだろうけど、私はこんなの勘弁願いたい。そしてなぜか丸井は玄関を出た後からずっと無言だ。私は自分から話を振るタイプじゃないし、むしろ騒がしいのはあんまり好きじゃないから有り難い。それになんだか考え込んでるっぽいし。さっきの本棚から出てきた手の事でも考えてるのかな。しかし本当におかしい。なんで本棚から手が出て来る? 昨日の女の子といい今日の手といい、今まで霊感のなかった私が二日も連続で見るなんてこんな事あるの? そもそも幽霊ってこんなに頻繁に出てきたり、見たりするものなの? 分らないことだらけで頭がパンクしそう。すると今まで無言だった丸井が口を開く。


「俺さ保育園に弟迎えに行くって言っただろぃ?」

「言ってたね」

「…弟迎えに行くまでに時間があるんだけど」

「家でテスト勉強するって言ってなかった?」

「…もう一人弟がいるんだけど、そいつは友達と遊んでくるって言ってたから、家帰ったら一人なんだぜぃ」

「集中して勉強が出来るね」

「そうじゃなくて、家で一人とか怖いだろうが! あの手が出てきたらどうするんだよぃ!?」

「男だろうが!」

「男だって怖いものは怖い!」


昨日から思ってたけど、女の私より反応が女じゃない? いや、私も怖いけど、今の所学校でしか見てないし、なんとか耐えられる。しかし丸井はこのまま帰り、家に一人でいる状況が耐えられないらしい。知らないよ!


「どっかで時間を潰せばいいじゃん」

「一人だと色々考えちゃう」

「…誰か呼び出せば」

「俺の周りなんてテスト前で慌ててる奴らばっかりで、来るわけねぇ」

「……結局、どうしたいわけ?」

「朝岡これからケーキ食いに行かね!?」


とてもいい笑顔で言いやがった。


「この近くにめっちゃ美味いケーキ屋があるんだぜぃ!」

「…私家に帰って、テスト勉強するから」

「いやいや本当に美味いんだって!」

「家で勉強するから」

「最近出た新作のケーキ、あれ一度は食べておいた方がいいって!」

「だから家で勉強するんだってば!」

「なんなら俺がご馳走する!」


話がかみ合ってねぇー!! どんだけ一人でいたくないわけ? 丸井にプライドはないの?


「昨日の今日だし、マジで怖いんだけど! 今日だけ! マジでケーキ代出すし、弟を迎えに行くまでの間だけでいいから!」

「…」

「昨日も見て今日も見てるんだぜぃ? 一人でいたらまた出て来るかもしれねぇ!」

「…」

「なぁ、頼むってば!」


丸井は手を合わせて必死に頼み込んでくる。まぁ、今日は私の家も夜まで誰もいないし、一人であれこれ考えちゃうよりかは良いか。ケーキ代も出してくれるって言ってるしなぁ。流石に私も夜まで一人だと色々考えちゃうだろうし、丸井が頼むから仕方なく行くって事で、利用させてもらいますか。


「仕方ないな。今日だけだからね」

「サンキュ! 助かる! 」


そう言って笑顔を浮かべる。バス停から少し逸れた所にあるらしいケーキ屋さんに丸井の先導で向かう。五分ほど歩くと可愛らしい雰囲気のお店にたどり着く。聞く所によるとたまに一人で来るらしいのだが、こいつはこんな可愛いお店に男一人で来るのか…。しかし奥まった場所にあるため、学校からほとんど離れていないのに全然知らなかった。丸井がお店の扉を開くと、店員さんが近づいて来る。人数を確認すると二人掛けの席へ案内してくれた。店内を見渡すと外から見た時よりも、それなりに広いことが分かる。まだ三時を過ぎた頃という事もあり、お茶をしている人が結構いる。丸井に渡されたメニューを見て、とりあず最近出たという新作のタルトとアイスミルクティーに決めたことを伝えると、丸井はとっくに注文するものが決まっていたのか店員さんを呼び、まず始めに私のケーキとアイスティーを頼んだのだが…その後自分で食べるケーキを三つも頼んでいた…。確かに教室内でお菓子を大量に食べている姿を頻繁に見かけるけど…。マジでありえない。

店員が奥に引っ込むと丸井はテーブルに肘をつき、こちらに視線を向ける。


「ところで昨日の女といい、今日の手といい、どう思う?」

「…どうって?」

「俺って霊感とかまったくないんだけど」

「私もないよ」

「それなのに二日も連続で見るとかおかしくねぇか?」

「それは私も考えてた。人間にはとても見えないし、どう考えてもやっぱり幽霊っていう結論に至っちゃう」

「そもそも何で急に見えるようになったのか分らねぇ…」


分らないことが多すぎる…。


「ねぇ、立海に怪談とかなんか、ないわけ?」

「は? かいだん?」

「昨日も今日も学校で起こってる事だしさ。立海の怪談話とかに昨日の女の子とか図書室の手の話とかないのかな?」

「立海の怪談話ねぇ…二宮金次郎が動くとか、階段の途中にある踊り場の鏡に霊が映るとかなら聞いた事あるけど」

「どこの学校にもありそうな怪談だね」

「学校の怪談なら何かしら対処法も噂されてるだろうし、明日調べてみるかな」

「放課後に教室に残る可能性もあるし、図書室に行かないっていうのも無理な話だしね」


そのまま対処法を見つけて女の子と手を追い払ってくれればいいな、なんて簡単に考えてみる。すると先ほど頼んだケーキとアイスミルクティー、そして丸井が頼んだケーキ三つとジュースがやって来た。私も甘いものは大好きだが、丸井の食いっぷりは見ているだけでお腹一杯になるほどだった。そのままケーキを食べながら霊の話や丸井の弟たちの話など他愛もない事を話していると、時間はあっという間に過ぎて行った。時間にしたら一時間半ほど居座っていたらしい。丸井が自分の携帯の時刻を見つめそろそろ行くか、と伝票を片手に立ち上がる。そのまま丸井がお会計を済ませお店を出る。


「ご馳走様でした」

「いや、俺が頼んだんだし。マジで助かった、ありがとな」


そう言って笑う丸井。丸井ってこうやってちゃんとお礼言える所が偉いよね。話してて思ったけど、上から目線で我が儘だけど、弟がいるからかしっかりしてるし。まぁ、テニス部ファンの嫉妬を買いたくないから、こんなのはこれっきりにして欲しいけどね。丸井だって仕方なく一緒にいた私なんかと噂されたら堪ったもんじゃないだろうし。

お店を出た後、行きに通った道を通りバス停に向かう。そこで数分待ちバスに乗る。丁度空いていた席に二人で座り、揺られる事十分ほど。バスを降りて駅に向かう。二日連続で幽霊を見た後、という事で当分電車で行き帰りすると決めた。まぁ、学校外では大丈夫だと思うけど一応ね。どうやら丸井の降りる駅は私の次らしく、保育園はその駅近くにあるらしい。電車に乗り込み入り口付近に立つ。一駅という事もあり直ぐに到着した。


「それじゃあ」

「本当にありがとな。気を付けて帰れよぃ」

「丸井もね」


お互いに手を振って私は電車から降りた。


今回は二人で謎の手を見てしまい、仕方なく一緒にケーキを食べる事になってしまった。だけどそれは偶然に偶然が重なっただけで、明日になれば昨日までと同じく学校で挨拶をするだけ。いつも通りの毎日に戻ると思っていた。










ブン太は今後、男前になるんだよ!
(2013/06/24)



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