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あと八十二本...「海」





ねぇ、ねぇ、知ってる?


コレをやればきっと来てくれる


でもね、男子には絶対に秘密








「何その噂」


私はあまりの突拍子のなさに目の前にいる友達2人に疑惑の目を向ける。すると2人は周りを見回した後、口の前で人差し指を立て静かに、という合図をする。しかしあまりの馬鹿馬鹿しさに溜息をつき、目の前にあるクッキーを摘まみ口の中へと放り込んだ。お弁当を食べたばかりだが甘い物は別腹だ。しかしそんな私の反応に不服なのか、その顔を不機嫌ですと言わんばかりに歪め騒ぎ始める。しかしその噂とやらはあまり人に広めてはいけないものらしい。その証拠に机に身を乗り出し、周りに聞こえないよう声のトーンを落とす。


「本当なんだからね!」

「そーだよ! ほらデートスポットでも海は上位ランクに入るしさー」

「うんうん。ここからもそう離れてないじゃん」

「…デートスポットと今回の噂ってまったく関係なくない?」

「どっちも恋愛ごとじゃん! なんていうか海って神秘的でそんな不思議な話もあるかもしれないって思わない!?」

「いや神秘的っていうか、その噂事実ならめっちゃ禍々しいじゃん。不思議な話じゃなくて怪奇的な話だからね」


そう言ってもう一度クッキーを口の中に放り込んだ。あまりのくだらない噂話だ。そもそもこの噂話が回りだしたのは夏休み明け頃。今は10月ももう終わりなので、約2ヵ月感もの間、この噂が出回っている事になる。しかしそれにしては実際の噂の信憑性はとても薄く、とてもじゃないが信じられるような話ではないのだ。それでも今、私の耳に入ってくるぐらいには有名であり、いまだに信じている人もいるらしい。くだらない。そもそも最近はそんな本当にあるのかもわからい噂話よりも、なぜか遭遇する怪奇現象をいかにして避けるかが重要だ。



しかし私はこの時、その噂話を馬鹿にしていた事を後悔する事になる。












「あ、朝岡」

「ぅわあ」

「腹立つ、慣れたけどすっげー腹立つ」


放課後、友達とケーキを食べに行った帰り道、私の名前を呼ぶ声に視線を向ければ赤髪と銀髪が視界に入る。丸井と仁王だ。丸井の表情は私の発言のせいで不満そうだ。確か何日か前にもこんな事があった気がする。他のレギュラーメンバーの姿は見えないが部活帰りなのだろうか、テニスバッグを肩にかけ此方に向かって歩いて来る。しかしそれにしては2人が歩いて来た方向は駅の改札なのでおかしい。本当ならばこの改札を抜けて電車に乗らなければいけない。忘れ物だろうか? しかしその疑問はすぐに解ける事になる。


「お前まだ学校にいたのかよぃ?」

「まさか。友達と遊びに行ってた」

「いーなー。俺なんかこれから飯食いに行くっつーのに、部室に財布忘れて取りに来たんだぜぃ」

「ふーん」

「どーでもよさげー」

「どーでもいー」

「腹立つ、すっげー腹立つ」


そういって口に含んでいるガムを噛みながら、男にしては大きい瞳を細め睨みつけて来る。いや、知らねーよ、あんたのだらしない話なんて。そう思いながらも面倒なので無言で受け流す。そのうち丸井も諦めたのかそのまま学校方面へと向かうバス停へと歩き出す。


「やっべ、もうすぐバス来るわ。じゃーな朝岡。仁王、てめーは帰んなよ。戻ったらすぐ飯だぞ、そこのコンビニにちゃんといろよな!」


そのまま行ってしまった。というかこの状態で私と仁王を置いて行くのかよ、そう思いながら聞こえないように小さく溜息をついた。テニス部レギュラーである仁王となんて普通に会話をする仲でもなければしたいとも思わないし、それは向こうも同じだろう。斜め前にいる仁王へと顔を向ける。


「それじゃあ」


全然話したことがないとはいえ、一応同じクラスだ。一言でも、と思い声をかける。図書館で丸井から聞いた話によると女の子が苦手らしい。聞いた時は意外だと思った。なんせ他校の女の子と遊んでるとか他校の彼女が何人もいるとか、そういう噂が絶えないからだ。まぁ、どっちにしろ立海の女の子とは絡んでいる所は見たことがないしきっと無視されるだろうと思ったのだが、以外にも仁王は此方に視線を向け返事を返した。


「おう」


まさか返事が返って来るとは思わず驚きに一瞬だけ動きが止まる。しかし無視されるよりかはいいか、と思い直す。そのままお互いに背を向け、私は駅へと向かい歩き出した。まさかこの出来事がきっかけであんな大事件になるとは知らないまま。












3時間目の英語が終わり、最後に教師に頼まれたワークを回収し職員室へと運んだ。もう1人の係りは授業初めに教材を運んだため、1人でワークを運ぶことになってしまった。しかも次は家庭科で家庭科室を使うため、皆は特別教室棟に向かっていて教室には誰1人としていない。教室前にかけてある時計を見ると後5分で授業が始まる時間だ。やばい、と思い急いで机から教科書とワーク、ノート、筆記用具を持ち廊下に出た。そのまま廊下中央にある階段を通り過ぎ、特別教室棟へと繋がっている渡り廊下を駆け足で進んだ。


「朝岡」


すると後ろから声をかけられる。足を止め振り返ると、そこには私と同じように教科書類を持ちながら此方へと足を進める仁王の姿があった。まさか仁王に声をかけられるとは思わず、驚きに目を見開いた。


「仁王」


そのまま仁王は私の前まで歩いて来ると左手を付き出した。しかし人差し指と親指で摘ままれている物を見ると私はあ、と短く声を上げ自分の持っている筆箱を確認する。そこには友達がお菓子のおまけに付いていた、と言って私の筆箱に付けた猫のキーホルダーは無く、代わりにそれは仁王の手の中にあった。全然気が付かなかった。もしかして先ほど急いでいた時に落としたのだろうか?


「ごめん、わざわざありがとう。」

「…いや、たまたま落ちたんが見えただけじゃ」


そう言って私にキーホルダーを渡すと仁王は家庭科室に向かうため歩き出した。意外だ。なんだか落としたのを見てもそのまま放置してしまうタイプだと思っていた。勝手なイメージだが。そんな事を思いながら私もその後に続く。その後はお互いに何も話す事なく家庭科室まで向かった。幸いだったのは授業開始直前という事で人も少なくまた、特別教室棟は実験や作業系の授業がない限り使われないのだ。そのため家庭科室に向かうまでの間、誰にも会う事はなかった。もちろん落とした物を拾ってもらった分際で、テニス部レギュラーがどうのとか言えるほど失礼ではない。ただ多少は距離を置きながら進む。すると一足先に仁王が家庭科室に着き扉を開け、入っていく。扉はそのまま閉められることなく開いている。少しおいて私も家庭科室内へと入った。教室内を見渡すとほとんどの生徒は席に着いている。私も扉を閉め、自分の席に着こうとした所で扉近くに座っていた女子グループと目が合う。ん? と思いながらも見返すとそのまま目は逸らされ、普通に会話を始めてしまった。なんなんだ、とは思ったが口に出す事無くそのまま通り過ぎた。しかし自分の席へと向かうと、いつもの友達2人がなんだかとても苦い顔をしながら此方を見ている。え、何かがおかしい、と思った。それでもそれは顔に出す事なく、あくまでも冷静を装いながら友達が既にいる自分の席へと足を進めた。






ねぇ、ねぇ、知ってる? 


好きな人に自分とは違う好きな人がいたとして、どうしても自分に振り向いてほしい時に海でお願いをするの


コレをやればきっと来てくれる


邪魔な人間を排除して、自分とその人を結ばせに来てくれる


でもね、男子には絶対に秘密


約束を破ったら海から来たそいつに殺されちゃうよ










仁王編スタート
(2014/02/05)



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