「マスターお誕生日おめでとうこれでまたひとつ寿命が縮んだね」
部屋に入って来ていきなり顔面に向けてクラッカーを鳴らされた。
「ふざけるな***、全く祝われてる気がしないぞ」
頭や肩に降りかかったクラッカーの中身を払いのけながらシーザーは言った。
「失礼な!おめでたい日だからちゃんとケーキまで焼いたんだよ」
そう言って一度部屋を出て行った***はすぐにまた戻ってきた。
得体の知れない何かを持って。
「おいこれは何の冗談だ***」
何とも言えない異臭を放つそれはよどんだ緑色をしていた。
まさかとは思うがこれが***が口にしていたケーキだとでも言うのか。いやそんな筈がない、とシーザーは自問した。
しかもそれには誕生日仕様という事だからか、真紅のリボンが、何を血迷ったか直接巻かれている。
何故、箱に入れた上でリボンを巻かないのか。
リボンは所々ケーキ(?)に食い込んでいるし、その緑色と混じり合って毒々しい色に変わってしまっていた。
円形をしていて辛うじてケーキの形をとどめてはいるが、あちこちからこれまた得体の知れない何らかの骨だとか、尻尾だとかが飛び出している。
「***、これは食えな」
「マスターの為に作ったんだよ」
「いや、流石にこれは食え」
「マスターの事を想いながら頑張ったの」
「…だとしてもだ***、これは」
「食べれないって言うの…?」
くそ、この女。
何でこんな時に限って無垢な瞳を自分に向けてくる。
「……頂こうか」
そんな瞳を向けられて、もはや断れるわけなどなかった。
「嬉しい。頑張った甲斐があった。料理は苦手だけどこのケーキは上手く作れたの」
え?聞き間違い?
「…上手く?」
「上手く出来たの」
これでか、という言葉をシーザーは必死で飲み込んだ。
「まあ確かに、見た目はすごく悪いけど、味はこれが一番マスター好みに出来たんだよ」
「…なるほど」
そうかわかった。
これはあれだ。見た目は最悪だけど食べたら思いのほか美味しいとかいう、物語とかで使われるよくあるパターンのやつというわけだ。
そう思うと行ける気がしてきた。
「はいどうぞ」
差し出されたフォークを受け取り、ケーキの端に差し込んだ。
「え?」
途端、フォークの先が蒸発した。
一瞬何が起きたのか理解出来なかったが、一呼吸置いてみてわかった。
これ、食べたら駄目なやつ。
「どうしたのマスター」
***が小首を傾げた。
いや、どうしたのって。
フォークがどうなったか、見ていなかったとでも言うのか。
「…いや、そういえば、用事が」
「食べてくれるって言ったよね?」
そう言って恐ろしい程に綺麗な笑顔を見せた***の脇をすり抜けて、シーザーは全力で逃げ出した。
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