大広間の隅にある、バーカウンターさながらの一角に***は居た。

ここの施設の人間はあまり酒を飲まないようで、こんな風にわざわざここで飲むのは***一人ぐらいのものだった。

「ここに居たのか」

後ろから掛けられた声に気付いて、***は椅子を回した。

「シーザー。どうしたの」

「部屋に居なかったらな」

その口振りから、どうやらシーザーは自分を探していたようだ。

「私に何か用事だった?」

そう尋ねてみたが、いや、とだけ言ってシーザーは***の隣の椅子に腰掛けた。
どうやら大した用があったわけではなさそうだった。

「飲む?」

「もらおう」

シーザーの分のグラスを出し、そこに半分ほど酒を注いでやった。
澄んだ琥珀色の液体が、グラスの中で揺れた。
シーザーはそれを思い切り煽り、そして咳き込んだ。

「大丈夫?」

飲み慣れないくせにそんな事をするからだ、と***は思った。

「あまり旨くないな、これは」

「十分美味しいと思うけど」

だとしても、きっと普段から酒を飲まないシーザーにわからせるのは難しいかもしれない。

「何故こんな物を好むのか理解出来んな」

怪訝な顔をしてシーザーは言った。

「飲んだらよく眠れるようになるの」

「不眠か」

「そんなに酷いわけでもないけど」

手元にあるグラスに僅かに残った酒を、やはり苦い顔をしてシーザーは飲み干した。

「後で俺の部屋に来ると良い」

「シーザーの部屋に?」

静かに席を立ったシーザーが、口元だけで笑った。

「今夜はよく眠れるようにしてやる」

「薬でもくれるの?」

「馬鹿言え。もっといい物だ」

「子守歌でも歌ってくれたりして」

「さあ、どうだろうな」

来ればわかる、とだけ言い残してシーザーは部屋を出て行った。


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