「雑煮をよこせ」
「新年の挨拶がそれですか」
はぁとため息をつきつつ、雑煮が入った鍋をかき混ぜる。
「挨拶ならば日付が変わると同時に言ったであろう。何故二回も言わねばならぬ」
「いや、でも…何でもないです」
何を言っても無駄なのは幼い頃からの経験上分かっている。
「ほら、餅焼いて」
「む」
普段は「何故我がせねばならぬ?」と唯我独尊を貫く彼だがこの時ばかりは動く。
最初の頃は納得がいかなかった棗だが何年も繰り返していると微笑ましく感じてくるものだから不思議なことだ。
「棗」
「ん―?」
「 」
「え、なんて?」
「っ!一度で聞け阿呆が!!」
「えぇ理不尽!!元就がはっきり言わないからでしょ!」
「もう良いわ」
ふいと顔を逸らしトースターの中の餅をじっと見つめる元就。
「…今年もよろしく頼む、棗」
「……うん」
いざ言われるとこそばゆいもので棗も元就耳まで真っ赤なのだがお互いに背を向けているためその様子は見えない。
「こちらこそよろしく」
‡あけましておめでとう‡
(何故餅を煮込む!)
(煮込んでないわ!お雑煮の餅は汁につけて柔くするでしょ!!)
(餅はそのままでも柔かいわ!食す直前に入れよと言ったであろう)