文 | ナノ

お市と別れて蒼空は自分の教室に入った。
席は自由…と言うことはなく決まってるようだ。
黒板のに貼ってある座席表を確認すると窓際の一番後ろ。


ふと、蒼空は入学前の濃姫との会話を思い出した。




『蒼空ちゃん、高校に入ったら何かしてみたいことってあるかしら?』

『やってみたいこと、ですか…』

『ええ。何でも良いわ』

『う〜ん…学校というものがいまいちピンとこないんですけど、あ!』

『何かあった?』

『私っ、窓際の一番後ろの席に座ってみたいです!』

『…なんとも安上がりな願いね』




あ れ か 




蒼空は頭を抱えたくなった。
確かに、確かに座ってみたいとは言った。だがまさかこのような形で叶えられるとは思ってもみなかった。…いや、考えなかったの方が正しい。
なんせあの夫婦だ。




「(それならお市ちゃんと同じクラスって言えばよかった…)」




内心溜め息をついて、窓際の一番後ろの席に荷物を置く。




「お、ここの席の奴か!」




話しかけてきたには前の席に座っていた黄色いパーカーを着た男子。
蒼空はコクリと頷いた。




「そうか!ワシは徳川家康。家康と呼んでくれ!」

「邦坂蒼空です」

「蒼空か!よろしくな!」



差し出された手を握ろうとしたが、蒼空は動きを止めた。




「蒼空?」


「あ、う、」




彼女は顔以外に包帯を巻いている。
今差しだそうとした右手ももちろん巻いてあるわけで。

もし、家康君が不快な思いをしたらどうしようとぐるぐる考えだしてしまった。





「(うわーん!どうしようお市ちゃん!)」





半ば本気でお市にテレパシーで助けを求めている蒼空。救いの手は意外にも隣の席からのびた。



「手を怪我しているのか?」




鋭い目つきで見られ、一瞬ビビったがこくこくと頷いた。



「包帯巻いてるから嫌じゃないかなって」



「ワシは気にせんぞ!」


「よろしくね家康君!」




ぶんぶんと腕を振られ、なんとか乗り切った蒼空。

本来の調子が出てきたのか、先程助け船を出してくれた隣の男子にも話しかけた。



「邦坂蒼空です。名前聞いても良いですか?」


「…石田三成だ。敬語は要らん」


「よろしくね、石田君!」


「石田君、だと……?」



名前を呼んだ途端、三成の背後に禍々しいオーラが現れた。



「(えぇ!石田君はアウト!?様なの?石田様なの!?)」

「貴様ぁ…なぜ家康は名で私は氏なのだ!」


「え?」


「氏で呼ぶことは許可しない!わかったな!」


「は、はい!!」



†クラスメイト†


(はははっ、なんだ三成も名前で呼んで欲しかったのか!)

(黙れ狸!貴様の名前呼びは許可していない!むしろ私の視界に入るな!!)

(それは無理だ三成!席が近いからな!)

(秀吉様ァァアア!この者を漸滅する許可をぉぉおおお!!)

((”い”と”と”じゃ離れてるのに…何順で席が決まってるんだろう…))

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