ゆきました、の続き



全く、年末年始だからってみんな気が緩みすぎです!まあ毎年のことですけどね!慣れてますけどね!いつもいつも俺ばっかり世話役で……あれ、何か目から汗が。



「……」

山崎の涙ながらの愚痴を黙って聞いていると(言い返す元気は無い)、さすがに病人の前では悪いと思ったのか、すみませんと一言おいてやつは部屋から出ていった。少しくらい愚痴を言ったって気にするやつなんていないのに。山崎が山崎である所以は、ここらへんにあると思う。

枕元には薬と水がきちんと置いてあった。
さっき朝の分は飲まされたから、あとは昼と夜と飲めばいい。そう聞いた気がする。
山崎の話によると、他にも具合を悪くしたのが少なからずいるらしい。あの寒い中布団にも入らずに寝て、そのせいで風邪を引いてしまったおれも人のことは言えないが、こんなんで大丈夫か、真選組。

しかし漫画やドラマで風邪を引くやつらは、どうして風邪を引いているにもかかわらず目が潤んで頬が赤くなるくらいですむんだろう。
実際は鼻がつまって息は苦しいし、頭も足もポヤポヤして、歩くこともままならない。目だって何となく腫れぼったくて、ちゃんといつも通りに開かない。視界が狭い。

いつか漫画みたいな風邪の引き方をマスターできたらいいなあ、とかなんとか考えて、ぼーっと自分の薄茶色い髪を目の端に見ているうちに。
頭のズキンズキンという鈍い痛みがぶり返してきた。
布団をひっかぶって寝る体勢になる。寝て、この痛みをやり過ごすしか方法を知らない。

(くそ、)

ばか土方







いつの間にか寝られたらしい。目が覚めると、痛みはずいぶんマシになっていた。
人の気配を感じたのでのろのろと視線を動かす。山崎だろうか。
やっと視線がその誰かにたどり着いて、やっとその顔を見る、と

「おはよう」
「……」

あいつがいたような気がした。いや、「ような」とか「気がした」とか、そんな曖昧で適当な表現はおかしかった。訂正。
だって今だ。今の話をしているんだ、俺は。

今、土方さんが目の前にいた。

過去形になってしまうのは、土方さんを認めた瞬間にビックリして思わず目を閉じて、そして今もそのままだからである。いやちょっと待て。なんで俺がビックリしなきゃいけないんだ。なんで目を閉じていなければいけないんだ。原因を究明してしかるべきところに謝罪と賠償を申し入れたい気持ちでいっぱいだ。
なんで、なんでなんで、どうして!

なんだかよく分からないけれど、涙が出そうで、しかも恥ずかしい、とかそんなことを思ってるんだけど。何?何かの病気?
病気といえばそういえば俺は、風邪っ引き真っ盛りなわけですが。

布団を引き上げて頭まですっぽり隠した後に、そうっと目だけ出してみる。
土方さんは目をまん丸にして(あの人の切れ長の目では「まん丸」なんて不可能だけど。それくらい見開いてたってこと。)、それからあろうことかこちらをのぞきこもうとした。

「…くんなニコチン!」
「ぶっふぉ!?」

ので、まあ俺は当然の如くアッパーカットをお見舞いしてやったわけです。
土方さんはそのまま後ろに倒れ込んで。畳に仰向けになってしばらく静かになったと思ったら、すごい勢いで起き上がった。どんな腹筋してやがる。

「てめっ…久しぶりだってのにこれはないんじゃないの!?」
「ひっ、久しぶりとか!そんなん知りやせんよこっちは!そのまま死ね土方!」

あ、やばい。
しくじった、と思った。
今の土方さんの言葉から「久しぶり」だけ取り上げて絡むなんて。知らない、なんて。
気にしていると言っているようなものだ。

(あぁああ…!!)

なんだか顔が熱い。もちろん微熱があるからもともと熱かったけれど、たぶんそれ以外の理由で熱い。
顔なんて上げられたもんじゃない、だからずっと土方さんの黒い着流し(の、たぶん膝らへん。動揺していたせいか確かではない。)を見ていたら、いきなり頭に衝撃が降ってきた。衝撃といってもポフ、とかパフ、とかそんな感じで、つまり土方さんに頭を撫でられていた。

「…悪かった」
「……」
「仕事、今日までに終わらせたくてよ」
「……」
「……それで、もう仕事は終わったから、…」
「……」
「……」

いつの間にか手が離れていた。言葉が続かなくなったので不信に思い顔を上げると、土方さんと目があった。そしたら「あー」とかいいながら目線を斜め下にそらして、今にも消え入りそうな声で。

「……一年の計は元旦にあり、とか言うしな」

そういえば土方さん、着流しを着てた。つまり今日は非番で、たぶん朝一にこの俺の部屋に来たんだろう。そしておそらくこの人は、俺と今日一日を過ごすつもりだ。

『一年の計は元旦にあり』

つまりつまり、今年一年も一緒にいたいとか、そんな、馬鹿みたいなことを、この人は、

「総悟、」

久しぶりに名前を呼ばれた。

「今年もよろしくな」







こちらこそとか何とか言う前に視界が真っ黒になって、あぁ抱きしめられてると思ったら言葉なんか出てこなかった。


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