今日もまた、いつもの放課後。
授業を受けて、終わって、周りのクラスメイトと談笑ごっこをして、うん、全くいつも通り。
ただ、いつもと違うのは、視界に蜂蜜色が入らない、それだけ。
教室のどこを見回しても、いない。
しかしそれは欠席、早退、などのどれでもなく、いたって簡単な理由。
さっき、後輩の女子生徒に呼び出されて、それで。
だから、今この教室に総悟はいない。
それだけ。
それだけ、だっていうのに。
何だってこんなにも落ち着かない。
「…あんた、待ってたんですかィ」
総悟が呼び出されてから数十分、いつも一緒に帰っていたから、何とはなしに教室で待っていた。
そうだ、だって、確かノートを貸していた。
物理のノートを一昨日貸して、そろそろ返してもらわないと。
そうだ、だから俺は待っていたわけで、別に総悟が告白されて何て返事したのか気になったとか、そんなんじゃない。はず。
「…帰るぞ」
言いたいことや聞きたいことがいっぱいありすぎて、逆に何も言えず、聞けず。
へぇ、と生返事をする総悟を背に、いつものように教室から出た。
そう、いつものように。
ふいに外を見れば、ムッとするような、むしろ清々しいような、そんな曇天が空を隠していた。
「……何だった、さっき」
「は?」
曇天を頭上に歩きながら、とりあえず話題をふってみる。
他に話題がなくて、それで。
「ああ、さっきの呼び出しですかィ?なら、王道的なとこをイメージしてもらえば」
「告白?」
「…まあ、」
言われて、先ほどの女子生徒を思い浮かべてみる。
セミロングの黒髪で、小柄で、可愛らしかった、ような。
ちくり、心に、棘。
「で?」
「は、まだ何かありやした?」
「いや、オッケーしたのか?って」
「…何でそんなこと聞くんですかィ、あんたには関係ねーでしょう」
関係ねーでしょう。
気分を悪くした風でもなく、さも当たり前のように。
「…とりあえず、返事はのばしやしたよ。いきなりで、分かんなかったし」
困ったように笑いながら、そんなことを言ってのける。
周りには、誰もいない。
辺り一面、だんだんと黒を濃くしていく中で。
その唇を、唐突に塞いだ。
「ーっ!?」
そうだ。
彼は振る舞いのわりに、打たれ弱い。
いきなりの事態に、対応しきれない。
「ッ、土方、さんっ?」
ほら、俺が唇を解放しても、目を見開いて固まっている。
「…関係あんだろーが」
抱きしめて、耳元で一言。
こんな、俺たちはこんな関係じゃなかったはず、なのに。
好きだとか、そんな基準でもってこいつを見たことなんて、一度もない。
ただ、嫌だと思った。
俺以外のやつと、俺の知らないところで、関与できないところで、笑っている総悟は、嫌だ、と。
「好きだ」
笑える。
これが「好き」でなくて、何だと言うのだ。
さらに固まる総悟の肩越し、雲の切れ間からわずかに日光が射し込まれるのを見た。