「ぁー、なんか、すいやせん…」
「いや、別に。俺も見たいし」
「はっ?」
俺は今度こそ目をむいた。
「こーんな高校生だった総悟が、」
「その手は何ですかィ。もし俺の身長を表してるんだったら明日の朝日は拝めませんよ」
「…こんな立派になって」
そこで土方さんは一旦言葉を切ると、いぶかしげに睨む俺の頭にポンと手を置き、不敵に笑ってみせた。
「おめでと」
「ーっ!、手ェ離せ!むかつく!」
「はいはい」
最後に蜂蜜色の髪をくしゃくしゃと撫でて、あと五分で出るからなと声をかけると、土方さんは再びキッチンに戻っていった。
「〜〜〜っ!!」
何か土方さんを罵倒する言葉を探すも、上手いものが見つからず、俺は全くこの感情をもてあましてしまう。
然り気無い抵抗としてネクタイを弛めてみたりして、五分後、ジャケットを着た土方さんと部屋を出た。
同じ時間に出るなんて、今まで無かったことだから、不思議な感じがした。
どんな顔をすればいいのか分からない。
「いってきます?」
それは彼も同じだったようで、曖昧にそう呟く。俺は咄嗟に、つい長年の癖で
「い…いってらっしゃい」
と言ってしまったのだが、自分で言いながら意味が分からない。
それ以上に、言われた側が妙に嬉しそうなのが気にくわない。
前途多難
まだ始まってもいない大学生活を前にそんな四字熟語が頭を過り、俺は心底ため息を落とした。