(もうやだ、この人…)

何故だか泣きたいくらい情けない気持ちになって、ぎゅうと目を瞑る。
こんなに人と接近したのはいつぶりだろう。少なくともこの人とは初めてで、だからなのか何なのか、息も上手くできなくて、時々息を止めてみたりして。
早く終われ、しかるのち死ね土方、と理不尽なことを考えていると、終わったぞと言う声が聞こえた。
パカリと目を開けてみると、さすが社会人、ネクタイがきちんと結ばれていて、俺は口の中でありがとうございますと言う。

「お前、目ェ瞑ってたろ。覚える気あんのかよ」
「……」
「…無視?」

無視、じゃない。いや、実際無視したのだろうが、事実とは少し違う。
つまるところ、呆けて突っ立っていたのだ。
熱でもあるのかもしれない、さっきからボーッとしてしまう。

「…へ?あ、ええと、……そーいや、あんた何でスーツ着てんです?仕事、休みでしょう?」

ハッと現実に戻ってそう聞き返せば、彼はため息の後にデジカメを掲げて見せた。

「お前の両親と近藤さんに頼まれてんだよ」
「…何を」
「入学式で、総悟の写真撮ってこいって」
「はァ?」

全く、呆れて物も言えないとはこのことか。親バカなんてもんじゃない、俺は男だしもう大学生なのだ。どこの国に、同居人に写真撮影を任せる親がいるのだ。


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