「ったく…何ですかィ朝から…」
「いや、お前の用事だから。俺、今日休みだし」

あぁソウデスカー、と棒読みで返せば、ひくり、口の端が不自然に歪むのが見てとれる。
変わっていない。
この人は昔から(とはいっても知り合ってまだ数年だが)苦労性だ。

「…朝御飯できてるから、食うならさっさと着替えてこいよ」

変わったとすれば、少しは俺の挑発のかわし方を知ったらしいこと。個人的には至極気に入らない。
大学一年生になる俺、社会人二年目の彼。
やはり大人としての分別がついたのだろうか。俺からすればむしろ、俺にナメられないように、つま先立ちしているように見えなくもないが。

今日は大学の入学式で、俺だってそれをサボるほど馬鹿じゃない。
だから仕方なく起き上がり、母親がいつの間にか選んでいたスーツをクローゼットから引っ張り出す。
真新しいシャツに腕を通し、ズボンをはけば、今更ながらに緊張を覚えて、それを誤魔化すように、ネクタイに手をかけた。

そこで、大学生一年目の俺は、ふと思うわけである。


(ネクタイの結び方…分かんねぇし…)


ぁーあ、とため息をはきながら、気に入らないけれど彼に頼むしかないだろうと、無駄に良い香りが立ち込めるリビングに向かった。


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