すました動作で近藤さんの手から逃れ、自分の足で地面にたつ。
ワイシャツの襟を正しながら、自分の勘も捨てたもんじゃない、そう思っていた。

初対面のやつの前で失態するほど気に入らないことはない。それからの関係に先入観を与えてしまうじゃないか。
やはりこいつと居ると良いことが無いのかもしれない、そう思考が行き着いたところで、近藤さんが総悟、と呼んできた。

「昼飯は今からか?」
「へ…え、あぁ、今からですけど…」
「だったら一緒に食ってかねぇか?トシも俺も今からだからよ」
「はぁ…」

まぁ、断る理由もない。

「いいですぜ。あ、ひじかたさんの奢りですかィ、そんな気を使わなくても…」
「ちょ、おまっ、誰がんなこと言った!?」
「今流行りの以心伝心でさぁ」
「お前なぁ…初対面の人にそれってどーなの」

近藤さんがニコニコしながら俺たちを見ていて、ひじかたさんはちょっと複雑そうで。
ひじかたさんにはまだ警戒心満々だけれど、こんな光景っていいな、と俺も笑った。




「あー食った食った」

結局ひじかたさんは俺の食費も出すはめになり、俺は万々歳でファミレスから出る。
クーラーの効きすぎた店内から一転、太陽の光が降り注ぐ外。
しかしクーラーで冷えた体には、その暖かさが心地よい。

じぃんと体に染み渡る暖かさに目を細めながら、先程食べたビッグパフェの味を反芻していると、耳に入る奇声。

「お、お妙さんんん!お久しぶりですぅぅぅぅ!!」

懐かしい名前に驚いて振り向けば、女子大生になった姉御が涼しげな面持ちで近藤さんをぶん殴っていた。

(あーあ、こりねぇなぁ近藤さんも)

呆れながらも、やはり変わらない人たちが嬉しくて、静かに笑った。


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