分かりきった結末


分かってはいたけれど

分かってはいたけれど


こんなに早く、来るなんて


ああ、クリスマスなど
壊れてしまえ


第四夜


「土方さーん、メリークリスマス・イブ」

俺が夕飯の支度をしていたとき、総悟が思い出したように言ってきた言葉。
キッチンからリビングを覗けば、その目はテレビに釘付けで、どんだけ気まぐれだよとため息。
しかし、もう明日がクリスマスとは。思って、ふと不思議になった。

「総悟、何でクリスマスに来ようと思ったんだ?」
「ハァ?…ああ、俺が初めて来たときのこと?」

そう、彼が初めて俺の前に現れたときのこと。確かに、「メリークリスマス」といいながら飛び出してきた。

総悟は何だかくすぐったそうに笑いながら、えーだのうーだの繰り返している。
その姿があんまり可愛かったものだから、俺は夕飯をテーブルに並べながら、くしゃりとその髪を撫でてやって。…ちなみに、魔術師といえども腹は減るらしく、俺がこいつの分も作っている。一人分だけ作るより経済的だから、特に不便はしていないのだけれど。

「…クリスマスには、プレゼントをもらうらしいじゃないですか」
「まあ、な」
「クリスマスのプレゼントですーって現れた方が、信じてもらえそうだなぁと」
「そんな理由かよ…」

呆れつつ、今の言葉を反芻してみる。
プレゼント。誰が?
総悟が。
誰に?
俺に。

サァっと血の気が失せたような気がした。

「おまっ…それ誰にでもそう言うのか!?」
「…へ?まぁ誰にでもってか、たまたま当たった人にでさぁね」
「よし、もう二度とその文句は使うな」
「え!何ででさぁ!」

クリスマスに「プレゼントは俺」って、何だ!
どこぞの都合のいい小説か漫画か何かみたいじゃないか!

「…何か、俺でよかったよなぁ、お前」

ため息まじりにそう言い、何だかナルシストの発言みたいだなと反芻。
総悟からどんな反応が返ってくるやら頭を抱えていると。

「うん!」

(っ、)

満面の笑みで、本当に嬉しそうに返されて、俺は本当に頭を抱えたくなった。

あと一つ。

総悟は俺の願いを叶えなければいけない。
俺は願いを言うことで、彼の力になれる。

しかし、叶えたらどうなる?

そこにあるのは、分かりきった結末。

永遠の別れ。

当たり前だ、住む世界が元々違うのだから。
運命の悪戯。
この一言に尽きるのだから。


でも、

「…総悟、それ食ったら、出かけようか」

少しでいい、側にいて、一緒に過ごしたい。


本当は、ずっと一緒に。

思うのは、罪だろうか。






「土方さーん。どーこ行くんですかィ?」
「…人間てのはな、用がなくても外に出たくなるもんなんだよ」
「何それ」

暗くて、人通りのない道を、目的地もないままにフラつく。
時々目につく街灯がかえってもの悲しい。
ブツブツと文句を言いながらもついてくる総悟は、それでもどこか嬉しそうで。
胸の辺りが、いやに軋む。

「…えいっ!」
「どうわっ!?」

沈黙に耐えられなかったのか、助走をつけて左腕に飛び付いてくるのは総悟。
何が面白いのか、そのまま腕を抱き込んで、こちらを見上げてくる。
そうして、土方さん暖かいね、なんて言ってくるものだから、本当に。

抱きしめたくてたまらない、その衝動を、焦って逃がした。

息が白い。
暗闇にポッポと白が浮かんで雪みたいだなぁと、頭が現実逃避を始めたところで、聞こえてくるのは車の音。
俺は車道側を歩いていたから、気持ち総悟に寄りながら後ろを振り向いた。


瞬間。





視界を埋める、白。

トラックのライトだと理解した時には、もう。



(轢かれ…っ)





「危ねーなァ」





響いたのは、この場に合わない、気の入らない声。


それから。


爆発音。


「―っ」


何が起こったのか分からなかった。
ただ、目の前にある光景だけが、結果として映る。

俺を轢くかと思われたトラックは、妙な方向転換の後、街灯に突っ込んでいた。
運転手は奇跡的にも怪我一つなく、焦った様子でトラックから降りると、俺の無事を確かめて。そして警察に電話して。

俺といえば目の前の惨事にボーッと突っ立っていて。そうしたら唐突に腕を引かれて、声をかけられた。

「どうしたんですかィ?」

と。
まるで、この事故が何でも無いことのように。
まさか、思いながら振り向いて、邪気の全くない総悟に問うた。

「お前が…やったのか?」

彼は、にっこり笑った。
そうして、俺の大好きな笑顔で、コクンと頷いた。

「これで、三つ目の…」



パシン



最後まで、言わせなかった。
真っ赤になった頬。
俺が力の限り叩いた、から。

「馬鹿かお前…怪我人が出たらどうするつもりだったんだ!?」
「っ…」

胸ぐら掴み上げてそう言えば、一瞬キョトンとした後、彼の目にはみるみる水がはっていく。
少し頭冷やせ、言いながら解放して、先ほどの運転手のもとに向かった。
一通り話終えて後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。

(…先に帰ったか…)

それもそうだよな、と自問自答のようなことをして、とぼとぼと家に向かった。






「…え……」

いなかった。

家にも、その周辺にも、鈴を買ってやったアーケード街にも。

いなかった。

総悟は、どこにも、いなかった。


(家出かよ…?)

確かに理不尽だったかもしれない。
結果、自分は生きているのだから。


罪悪感に襲われながら、ふいに頭をよぎるのは最後の言葉。

『これで、三つ目の…』


三つ目の、何?


(…う、そ…だろ…)

貧血になったときのように、手足の先が冷たくなって、立っていられなくて、カクンと座りこんだ。


三つ目、最後の願いを叶えたら、総悟は元いた世界に帰る。

三つ目、それは車に轢かれたくない、つまりは死にたくない、という生理的欲求。


(こんなのって…ッ!)


ガバリ、起き上がって駆け込むのは寝室。

ベッドの、ちょうど彼が寝ていたあたりをそうっとなぞると、何だか彼の体温が感じられた気がして。

寒い、寒いと言いながらくっついてきた彼のはにかんだ笑顔が、見えた気がして。


ポスン、と拳を埋めた。

ハタハタ、とシーツに涙が染みる。
ポスン、ポスンと、何度も繰り返した。

ただ、彼が恋しくて。


ただ、ただ。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -