街は、腕を組んで歩く男女と家族連れとでごった返していた。
冗談でも比喩でもなく、イルミネーションの光が目に染みる。
ツリーに引っ付いて光るものやトナカイや柊の形をつくって光るものや、それはもう様々だけれど、どれもキラキラとしていて、綺麗だなぁと月並みなことを思わせる。

しかし。

「うっわぁ…すごいすごい!土方さん、アレ見て!」

今横にいる存在が何よりもキラキラと輝いているように見えるのは、どうしたことか。


第三夜


休日の良いところの一つに、目覚ましをかけなくていい事がある。同じ時間に起きるにしても、自発的に起きるのとそれ以外とでは、身体的にも精神的にもだいぶ違うものだ。
今日は休日であるから、今朝はこの前からダブルサイズになったベッドにて、ゆっくりと意識が浮上した。
目はまだ閉じたままで、朝日から逃れるように寝返りをうつと、鼻をくすぐるシャンプーの香り。
そのサラリとした感触が心地よくて、もう一眠りしようかとそれを抱き込んだところで、

「……おさわり…は、きんしでさ…」

呂律の回っていない寝起きの不機嫌な声に制止された。

(……あ…?……)

言われて、はてと自分の今の状況を頭に描く。
と同時に、ガバリと跳ね起きた。

「わ…悪い!」
「う…あ…さみいっ!馬鹿土方っ、布団返しなせえ!」

言われた通りに布団をかけてやると、総悟はんー、と唸りながら頭の定位置を探す。
対して俺はまだ心臓が復帰していなくて、カチンと固まったまま彼を凝視して。
その視線に気付いたのだろうか、彼はモゾモゾと身を捩ると、スポンと顔だけ出してきた。
パカリと開かれた紅い目。

「目、覚めちまいやした」
「それは…その…わ、悪かった」
「寒くないの?」
「え?あ、いや…」

問いかけを聞いてるんだか聞いてないんだか分からない返事に、総悟は怪訝そうにこちらを見てくる。

だって、危なかった。

(何だってんだ…)

何も、そんな目で見ていたわけじゃ、なかったのに。

思って、既にその言い訳すら過去形になっている事に、軽い目眩を覚えた。

距離を縮めたのが間違いだったのかもしれない。でもあんな話を聞いて、放っておけるほど他人事にも思えなくて。

「聞いてんのかよひじかたー」

てしてしと、それこそ猫がじゃれついてくるように拳をぶつけてくる総悟に、そっとため息。
何だかんだ言っても、この状況が嫌いになれない自分が一番の原因か、と思って。
くしゃりとその髪を撫でた。

「出かけるぞ」
「え?あ、街に?」
「本格的に雪が降ってくる前に、買うもん買っとかなきゃなんねーし」
「ふーん、お土産頼みまさぁ」
「は?」
「へ?」

バサバサと、箪笥から服を手当たり次第山積みにしながら、今さら何をと言った口調で一言。

「お前も行くんだよ」

それを聞いて、目を真ん丸に見開くのは総悟。
目ぇ落ちんぞ、言いながら再び頭を撫でてやれば、やけに頼りなく服を掴んできて。

「…ホントに…?」

期待したいけど、しちゃいけない。
欲しいオモチャを前に、必死にその気持ちを悟られないように抑えている子供の表情。

そんな表情で見られて、一体どこの誰が否定できるというのだろう。

「…本当」

先ほど箪笥から引きずり出した服を渡してやる。

「それに着替えとけよ。でかいかもしんねーけど我慢しろな。…高校の時のやつだけど」
「なっ!ば、馬鹿にすんじゃねーや!俺、これでもあんたの倍は生きてるんですからねィ!」


……とまぁ、随分威勢のいいことを言ってくれたが、五分後玄関に現れた彼を見て、思わず吹き出してしまったわけで。

「肩…余ってんな。袖は捲っとけ」
「……それ以上言ったら二度と朝日は拝めやせんよ」
「へーへー。あ、これ」
「…コート?」
「外、寒いから」

フード付きのコートを渡してやれば、不思議なものを見るような目でそれに視線をあてる。

「魔法で暖かくできるのに」

本当に。
何でもないことのようにそんなことを言われるのが、一番痛い。

「…俺が着せたいんだよ」

だから着とけ、とそれを押し付けると、今度は黙って受け取った。
その顔が泣きそうに歪んでいたものだから、今すぐ抱き締めたい衝動にかられて、ギリギリのところでその気持ちを殺した。






本当にもう。

駄目かもしれない。






街につくと、総悟は終始笑顔で、ヘタな子供より騒いでいた。

それなのに、全く俺の横から離れないものだから、こちらも馬鹿みたいに楽しくなってしまって。

買い物を済ませると、しばらくアーケード街を歩いて、結局家路に着いたのは夕飯時。
辺りもすっかり暗くなっていた。

鼻唄でも歌い出しそうな様子の総悟を見て、連れてきてよかったと思う。
こいつにはもっと、柔らかくて暖かいものに囲まれていて欲しい。

「総悟、」
「何です?」
「あのな、これ」

人通りの少ない道に入ると足をとめて、ポケットから、綺麗に包装された小さい箱を取り出した。

「お前、さっき見てたろ?」
「へ…お、俺に?」
「うん」

中には、クリスマスらしく柊と赤いリボンが飾られた小ぶりの鈴が入っている。
いわゆるキーホルダー。

「ちょっと早いけど。…メリークリスマス」

総悟の手をとってそっとのせると、彼は両手でそれを胸に抱えた。

「…あ、あり…がとう」

その姿に、俺はいよいよ目眩に襲われた。




どうしろというのだ
こんな厄介な気持ち抱えて、俺は





そこには、分かりきった結末しかないというのに



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