何してるんですか?

躊躇いがちにそう聞くと、彼はそこで初めて俺という存在に気付いたような顔をして、そして、

「これ、止まんねぇかなーって」

と、心臓に手を当てたまま、何でもなさそうに呟いた。


わけがわからない。
とりあえず、全くTPOをわきまえていない。
今は、草木も眠る午前二時、にはまだ遠いけれど深夜であることには間違いない。そんな時間にこの人と寝転がってやることといえば、一つしかない。
先の接吻で思考回路を切断された俺は、これから彼のなすがままになってしまうのかと、少しの不安と悔しさと、それからほんの少しの期待で胸をはやらせていた。着物を丁寧に脱がされて、いよいよこれからという時になって、ぴたりと動きを止めたのは彼。
静かに目を開けて見てみれば、俺の胸のあたりをじっと見ていた。


「……えっと…」

しかしその言葉はないんじゃないか。
悲しいとかむかつくとか、感情なんてトロすぎてこの状況に追い付けるわけがない。
意味がわからない。
遠回しに、死ねってこと?

「何バカなこと言ってんだ」

聞いてみたら、怒ったような口調で即、否定された。
そうですよね。土方さんが俺に死んで欲しいとか、そんな負の感情を抱くはずないですものね。
あんた俺のこと、大好きだもんなァ。

可哀想に。

「心臓って、動く回数が決まってるらしいんだよ」
「へぇ」

話の道筋は見えないし、身体も今からまたヤるような状態ではなかったから(早い話が、萎えた)、黙って相づちをうってやる。

「俺、総悟のこと好きだよ」
「うん」
「たぶんお前が思ってるよりずっと」
「…ふうん」

今日の土方さんは、ずいぶん饒舌だ。

「だからさお前、寝てるときくらい心臓止めとけよ」
「……」
「そしたらお前、長生きできるよ、万々歳じゃねぇか」
「……ひ、」

呼ぼうとして、途中で思い止まった。

「…いいよ」

代わりに、近くに投げておいた菊を渡す。
俺がこの世で唯一、絶対の信頼をおいている、菊一文字。
真っ暗で光もないはずなのに、それは人の血をたくさん吸ってきたとは俄に信じがたいくらい、清らかに光ってみせた。

「とめてよ」

言って、すうっと目を閉じた。
訪れる沈黙。
それは直ぐに破られるのだけれど。

「俺が、お前を傷つけるとでも思ってんの」

冷たい刃はおりてこなかった。おりてきたのは、暖かい体温。
抱きしめられる。

「なんで?とめたいんでしょう?」
「とめたいけど、死なれちゃ困る」

何言ってんだろ、この人。

「俺は、生きてる総悟が好きだよ。生きてて、暖かくて、笑ったり動いたりする総悟が好き」

俺も、生きてる土方さんが好きだよ。
でもね、ごめんなさい。
俺は分かっているんだよ。
生きている間は、二人は一つにはなれないって。

「…土方さん、つづき、しよ」

だからこうして、一つになろうともがくんでしょう?
おままごとみたいだ。だって俺とあんたの間にある空間が、空気が、皮膚が、別々に与えられた体が、邪魔で。

「ア、」

でもね、俺は願っているんだよ。
いつかこんなおままごとなんかしなくても、あんたと繋がれるように。


もっと、深いところで繋がれるように。



……………………
(触れられたところから、溶けてしまいたい。混ざってしまいたいよ)


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