プルル・・・プルル・・・

ピッ

「あ、起きてっか総悟。今日は」
「死ね」

ピッ

ツー、ツー

「・・・は?」







高校生ってのは休みが多いようで、長期休暇には必ず登校日があるもんだ。
こと春休みに関しては、卒業式に離任式に新入生説明会に、こちとら全く関係のない(と言うと不躾だろうが事実なんだから仕方がない)行事に巻き込まれるもので。

そしてまあ今日も上記したような行事があるわけなのだが。
だから絶対この事をすっかり記憶の彼方に追いやってるだろう奴に電話をしてやったんだけれども。

何これ。
俺、何もしてない。
いや何もしなかったのが悪かったのか?
いやいやでもアイツはそんなキャラじゃねーし。
いやいやいや案外寂しかったのかもしれない。
つーか何にしても、せっかく起こしてやったのに『死ね』はねぇだろ・・・?

なあ、総悟。

「・・・」
「・・・はよ」
「チッ」
「っえぇぇえぇ!?何、何なのコイツ!何で舌打ち!?出足挫かれたっつーか複雑骨折した気分なんですけれども!!」


今日の総悟は朝からやたらめったら機嫌が悪い。
俺の幸先もだいぶ悪い。

起きがけの電話に然り、総悟の家に寄って顔を合わせた今も然りだ。

はぁーとため息をついて、自転車に乗る。
総悟も不機嫌ながら後ろに乗る。

「・・・」

何なんだこの空気は。
なんだなんだ俺か?俺のせいなのか?そうなのかいや違うよな違うと言ってくれ総一郎君。


俺は、総悟が無言のまま腰に手を回してきたのを確認して、自転車のペダルをこぎ始めた。







俺と総悟は幼なじみで、家がそう遠くなかったことも手伝い、俗にいう腐れ縁って仲だったりする。
・・・建前上は。
実際は幼なじみで腐れ縁で二人とも男、そんな情報からはまさか予想できないであろう仲だったりするわけで。
つまるところ・・・つき合ってたりする。

総悟は可愛い面して(いやノロケとかそういうんじゃなくて)腕っぷしがむやみに強いもんだから、おちおち目が離せない奴で。
その面に引き寄せられてくる節操のない男どもと殺傷事件を起こさないだろうかとヒヤヒヤしたものだ(なるとしたら加害者は純度100%で総悟だ)。

それでも、アイツはアイツなりに男どもから自分に向けられる視線ってやつを怖がって、嫌悪して。
唯一そんな視線で見ない近藤さんや山崎、そして俺なんかといつもつるんでたワケなのだが。

人見知りってやつ?
人通りの多いところに出ると、無意識だろう、服の裾をキュッと掴んだり。
二人きりになったときだけ、見たことの無いような笑顔をふと浮かべたり。

そんなことが積み重なって、同じことを近藤さんや山崎にもしているのかなどと黒い気持ちが沸いたりして。
非常に受け入れるには苦労したが、俺は総悟に惚れてしまっていたのだ。

中学生の間は、まだ俺らは中学生中学生中学生義務教育義務教育と呪文のように繰り返すことで、最大の難関である修学旅行もなんとか突破して。

高校にあがったら、もう、無理だった。

悩んで悩んで悩んだあげく(告白とキスの順序が逆になってしまったりもしたが)理性をこれでもかとフル活用して、なんとか押し倒す前に気持ちを繋げることが出来た。
アイツの、キスした時の柔らかい唇の感じとか、告白したときに溢れた涙とか、何度も何度も頷いて小さな声で『俺も・・・』と呟いてくれたこととか。
もう絶対墓まで持っていこうと思う俺は末期だ。

今では体を繋げるまでに至っていたりする。
総悟のドSも腹黒も毒舌も、つき合ってどうこうなるわけでもなく健在だ。


・・・それでも。

俺は自転車を漕ぎながら、後ろをチラッと振り返る。
二年前に告白したときと大差ない外見を保っている総悟。

俺はため息と共に視線を前に戻す。

・・・それでも、理由も無く機嫌悪くすることはなかったんだけどな・・・。











死ね死ねよ土方朝から土方さんとか最悪マジでもう顔も見たくない触んな変態いいから俺のことはほっといて下せェよバカ土方略してバカ方


「・・・・・・」
「ふ、副会長・・・」

駄目だ。
心が複雑骨折した。
絶対した。
なんか心中どす黒い感じがするし。

「何だってんだコノヤロー・・・」

結局今日1日、ずっとあの調子だ。
いや、もっと酷かった。
けなされ避けられ・・・。

今日予定されていた新入生説明会もやっとこなして、今すべて終わった所だ。
近藤さん、総悟、俺は剣道部に所属しているが、近藤さんも俺も委員会と生徒会をかけもちしている。
したがって総悟が部の紹介をする事になって、今日連れてきた。

部の紹介はきちんとやっていた。
来年は男子も女子も入部が増えそうだ、何だか新入生の方から黄色い歓声が聞こえたから。きっと思いきり愛想を振りまいてきたのだろう。しかし何で男子の方からも歓声が上がるんだ?
いや確かに総悟は中性的な顔をしているけれども。
なんかムカつくんですけど。


そして追い討ちのような冷たい態度。
イラつきはすなわち生徒会書記の山崎に向く。
さきほどびくびくしながら話しかけてきた奴だ(怖いなら話しかけなきゃいいのに)。

「山崎ィ・・・」
「はっ、はひっ!」

あからさまにビビって返事をした山崎は、それでも逃げずにこちらを見てきた。

「生徒会の合同会議まではあとどれくらいだ・・・?」

新入生説明会の後は、生徒会執行部とその他委員会とで会議がある。まぁ予算やらなんやらの。

「そっ、そうですねえ・・・えーと、あと30分くらいで始ま」
「トォ〜シィィ〜!」

山崎の言葉を途中で遮って生徒会室に入ってきたのは、風紀委員長である近藤さんだ。剣道部の部長でもある。
それにしても・・・

「あっ!山崎もいたのかぁ!まあいい!トシィ〜聞いてくれよ〜」
「・・・なんだ」

なんだ、このテンションは。
何でこんなに喜色満面なんだ。
近藤さんは更に目をキラキラさせて。

「お妙さんにな〜、俺のこと死ぬほど好きだってぇ〜言われた!」
「ッはあぁぁあぁああ!?」

・・・嘘だろオイ。
突然すぎる吉報(なのか?)に、しばし呆然とする俺。
何故か苦笑いをする山崎。って何でそんなに冷静なんだ山崎、てめえジミーの分際で。

俺の視線を感じたのだろうか、山崎がそっと耳打ちをする。

「副会長、アレですよアレ。今日はエイプリルフールじゃないですか」
「エイプリルフール!?」
「何でアンタが反応するんですか委員長ォォ!?ちょ、どんだけ地獄耳!?」
「・・・ということは・・・お妙さんが言ったことは・・・嘘だから・・・」
「『殺したいほど嫌い』ですね。正しくは」

サァーと音がなりそうなほど顔色とテンションを落とす近藤さん。
乾いた笑いをもらす山崎。

俺は俺で、暫し呆ける。

4月1日・・・エイプリルフール・・・嘘・・・ってことは・・・?

「あんのクソガキ・・・っ!」

謎が解けると共に立ち上がり、山崎に『サボる。後は頼む』とだけ告げて生徒会室から飛び出す。
後ろで何やら声が聞こえたが、かまうものか。







「・・・オイ」
「・・・・・・」

夕焼けに染まる空、色素の薄い髪とマッチしてとても綺麗だ。
その夕焼けのような紅い目が俺を映す。

コイツがいる場所なんて限られている。俺はすぐに屋上に向かったが、果たして正しかったようだ。

呆けたように座っている総悟を後ろから抱き込む。
前よりか成長したとはいえ、まだ俺の腕の中にすっぽりとおさまる。

ああ・・・駄目だ。

腹の底から何か気持ちがのし上がってくる。
いとおしい。


「なあ、今日が何の日か知ってるか?」
「さあ・・・土方さんの命日?」
「待てコラ。勝手に殺すな」

エイプリルフール。
嘘をついて良い日。
というかコイツはそういう悪ノリな行事が大好きだから、絶対参加していたに違いない。
そうだとするならば。

今日コイツは、朝から熱烈なラブコールをしていたわけだ。


「お前がそんなに俺のこと好きだったなんて知らなかったな」
「ばっ!誰が―――」

勢いよく振り返って向けられたその唇、二の句をつぐ前に塞いでやった。

一瞬固まり、そして諦めたように首に回された腕にいよいよコイツがいとおしく思えてきて。
唇を離して至近距離で濡れた紅を見つめる。
困ったようにそらされるそれにくらくらする。

「・・・大嫌いでさぁ。この万年発情期」
「ほー、そりゃどうも。言っとくがあいにく今日はエイプリルフールなんでな、ありがたくそのラブコールもらっとくぜ」

こう言えば負けず嫌いなコイツは必ず言ってくるだろう。
主導権はもらったな、そう思った直後につむがれた言葉。

ああ、やっぱり駄目だ。

主導権は何処へやら、俺はいつもコイツに振り回されっぱなしだ。
それでも惚れた弱みというやつか、俺の頭が幸せに出来てるのか。



「大好きでさぁ土方ァ!!」

売り言葉に買い言葉で返されたその言葉に、咄嗟に返事ができないなんて。


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