それは、柔らかな光溢れる、昼下がりのことだった。

昼下がり、つまりお昼ご飯も食べ終わって、心地よい日光の下で眠たくなるころ。
適当に入ったミスドでうつらうつらしていた俺は、目の前の通りがにわかに騒がしくなるのを聞いて、ぱかりと目を開いた。
ちなみに今日は休日で、だからこうして昼間から出歩いていても、誰にも注意されない。
ついでに言えば土方さんはバッチリ出勤日で、一人で家に居るのも暇だったから、こうして外に出てきたのだけれど。

ゆるり、気だるげに開けた目は、次の瞬間パッと見開かれた。

(……、うそ)

このミスドは大きな通りに面して建っていて、だから視線の先には人でごった返す通りが見える。
いつもだったら、それだけ。
なのに。

(ひじかた、さん?)

そう、目に飛び込んできたのは数人の警官。
通りに等間隔で立ち並んでいる。
もちろんその中には近くの交番に配属されている、土方さんもいて。
青いシャツに紺色のズボン、しっかり警官の帽子まで被っているその姿に、一瞬、心臓が跳び跳ねる。

(え、ええ、うそ、だって、)

自分でも分かるくらいに混乱するものの、口角が上がるのを隠せない。
バタバタとドーナッツやらジュースやらをのせたトレーを片付けると、そのままの勢いで通りに飛び出した。






「だーっ、暑ぃ!」

何が嬉しくてまだまだ暑い中、きっちりしっかり制服を着なければいけないのか。
しかも、

「なんで祭りの警備なんてしなきゃなんねーんだ…」

日本人ってのはどうも祭り好きらしく、夏が終われば今度は秋祭り。その信念には感服する。
俺だって祭りは好きだし、夏だろうが秋だろうが大いに結構だ。勝手にやってくれ。

重ねて言うが、

頼むから勝手にやってくれ。

どうもこの秋祭りでは山車を使うらしく、いざというときの為に、こうして俺たち警官がつく。
警備内容はいたって簡単。山車と一緒に歩くだけだ。
ダルい、が、しかしこれも警察官としてのつとめであるからには、しっかりこなそうと立ち直した。

瞬間。


「だーれだっ」


いきなり背中に、ことん、と衝撃を感じたと思ったら、目の前にひょこりと現れたミルクティー色。
紅い瞳がいたずらっぽそうに見上げてくる。

「そっ…」

総悟!?と、叫んでしまったからには仕方がない。
うんうん、と満足そうに頷き笑う総悟とは裏腹に、背中を冷たいものが伝う。
そろ、と周りを見れば、思った通り、ニヤニヤと嫌な笑いを顔に貼りつけた同僚たち。

(…しまった…)

帽子をギュ、と深くかぶり直しながら、ため息をはく。
深く、深く。

「…ひじかたさん?」
「ん?」
「迷惑、だった?」
「ん?え、あぁいや、迷惑じゃないけど…」
「…」

「総悟?」
「俺、帰るね」
「ぇ、」
「ごめんなさい、急に…」

さっきの元気は何処へやら、急速に元気を無くしたらしい恋人を前に、自分でもらしくないと思いつつ焦りまくる。
だから、咄嗟に。

「そっ総悟、迷惑じゃないから、だから…」
「…」
「その、何だ、」

そう、あくまでも咄嗟に。
目に入ったのはきらびやかな山車。

「…祭り、見てかねぇか?」

言ったと同時に、総悟が抱きついてくる。
そろり、顔を見てみれば目には涙がたまっていて。

「馬鹿土方…」

だのに溢れた言葉には、全く可愛いげがなくて。
ああ、可愛くて仕方がない。

周りの視線には気付かないふり、動き始めた山車と共に歩きながら、そっと総悟の手を握った。






「あー、楽しかったですねィ!」
「そうか?歩いただけで疲れただろ」

手を繋いで歩くのは誰もいない帰り道。
辺りはすっかり暗くなり、もう人が出歩くような時間ではない。

こんな夜遅くまでつれ歩くのには気が引けるが、本人はわりと楽しんでいたらしい。

「えー、歩いただけじゃないもん。わたあめ食べたし、フランクフルトも…」
「ああ、気付いたら食ってたな。いつの間に買ってたんだ?」
「俺じゃなくて、…えっと、さいとうさんとか、ながくらさんとか?あ、あと、近藤さんとかが買ってきてくれやした!」
「あいつら、いつの間に…っ!」

近藤さんは良いとして、斉藤や永倉は良からぬ下心で買ってやったに違いない。
というか、本当にいつの間に。

「ねー、俺、来年はアレに出たいでさ」
「ああ、その方がいいかもな…」

やつらとの接点を無くすには、その方がいいのかもしれない。
思って、ふと祭に出ていた人たちの服装が頭をよぎる。

(はっぴと同じくらいの長さの、短いズボン…)

「総悟」
「何?」
「やっぱ駄目。来年もいつでも出るの無し」
「え!何ででさ!」
「駄目ったら駄目だ!」

あいつらに総悟のそんな姿を晒してたまるか!とは言わない。
頑なに許可しない俺に、総悟は何を思ったか、そっと寄り添ってきて。

そうしてチラリと見上げて、甘えるようにこう言われてはたまらない。

「ねぇ…じゃ、来年も一緒に見よ?」
「…そう、だな」

来年も、再来年も、その先だって。
総悟が望む限り、いつまでも。




だってほら、今日も満天の星が、俺たちの道を照らしている。




*****
ゆうさんに捧げます!
ゆうさんの土沖文サイト「Because」の数ある素敵パロの中から、レジスタンス設定をお借りしました。
斉藤さんや永倉さん等の真選組メンツが同僚ってのはMY設定です、すみません!


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