羞恥の為かほんのりと頬を赤く染めてすぐに視線を逸らす名無しの真っ直ぐな想いに、どう答えれば良いのだろう どうもこうも 例え想い焦がれた所でどうにかなる問題では無いのだ。 (初めて会った時から…) 初めて会ったのは確か3年程前…主、北条氏政に孫娘だと紹介されたのが最初だったか。 季節が変わる毎に「御機嫌如何ですか」と祖父を訪ねて小田原城に来る名無しをよく目撃していた小太郎は、年を重ねてより美しく成長してゆく姿を見守ってきた。 優しさに溢れ 優雅さを身に纏い 知識と教養を兼ね備え それでいて控え目な性格は麗しい容姿と相俟って、氏政が忍の己にさえ自慢する気持ちも多少は仕方無いかと半ば呆れていたが。 特別な感情を持った事は 一度たりとも無いし あってはならない、と どんなに願っても決して避けられない身分の差が、否が応でもそれを証明する。 「ごめんなさい、急に変な事を…でも、縁談が正式に決まる前にどうしても貴方に伝えたくて」 儚く微笑む名無しに何と返せば良いのか。己はその健気な想いに報いる事など出来ないと言うのに。 完成された運命の中で 胸の奥が チクリと痛んだのは 何故だろう [prev|next] |