―――――――――――…


「…という訳なんぢゃ。大切な孫娘の縁談にケチはつけたくないがのぉ…評判通りかどうかをその目で確認して儂に報告してくれんか」

名無し姫に縁談

申し分無い良縁ではないか

それでも可愛い孫娘が少しでも不憫な思いをしない様にと、殊更気を掛ける主。今の時代、武家の女が心から幸せになれる婚姻など稀な事だというのに。

「………………」

雇われている以上は命令に従うが大抵の要件は下らない事が多い気がする。今回の任務も己が出るまでもない様な…

「これは名無しから頼まれたんじゃ。風魔に行かせて欲しいと」


(俺に…?)


その意図は理解出来なかったがコクリと頷いて依頼を引き受けた。


―――――――――――…


夜の帳が降りて
辺りを暗闇が包む頃

月の光がほんのりと
部屋に差し込み
名無しは虚ろな瞳で
それを見つめていた


(縁談…)

断る事は出来無い

所詮、政略結婚なのだ。好いていようがいまいが従う他無いと分かっていながらも心の奥底で抗う気持ちがあるのもまた事実。

初恋は実らぬのが常

諦めてしまえば楽になるのに、と何度も言い聞かせた。


でも


こうして姿を見れば
益々募る想いに気付く

はしたないと思いながらも
貴方に近づきたいと願う



跳ねた鼓動で想うのは



せめて輿入れの日までは
想う事を許して欲しい…




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