『忘れて…お願い…』


忘れたいよ
綺麗さっぱり

出来る事なら

俺の存在さえも


赤に染まる身体を抱き締めて


そう願ったのは
いつだったっけ



――――――――…



今日は目覚めが悪い

毎晩見る夢の所為か
体調の所為か



「どうした佐助!顔が赤いぞ?」

「うん?ああ…ちょっとね」

心配そうに佐助の顔を覗く幸村の表情が曇る。最近の佐助はどこか変だ。どこが、と言われればただ漠然と感じるだけなのだが…

何時もの調子でへらりと笑うその顔には、やはり元気が無い。

「熱でもあるのか?」

近づく幸村の姿がぐにゃりと歪む。

「大丈夫だって…熱なん…か…」


真っ暗闇の中に引き摺り込まれる様な、でも意外に悪くないその感覚に佐助は身を任せた。



―――――――――…



「あ、気がつきました?」

目の前には名無しの顔。心配そうに見つめる彼女は佐助の額に乗せていた生温い手拭いを冷水に浸し、絞ってまた乗せる。


(冷たくて気持ち良い…)


もしかして
ずっとこれを?


辺りを見回すと外はすっかり夕焼け色に染まっていた。長い時間寝入っていたようで、お陰で熱はだいぶ下がった様だ。

「名無しちゃん…ありがと…今までずっと看ててくれたんでしょ」

「お気になさらずに。たまには私達に甘えて下さってもいいのですよ。大体佐助さまは普段から働き過ぎではありませんか?」

そりゃあ旦那の忍び使いが荒いからね、と笑って言うと名無しは少し困った顔で御免なさいと謝った。

「ですから、幸村様はとても御心配なさっていました。最近の佐助さまの様子も些か気になる、と」

さすが旦那
鋭いねぇ

でもさ

「大丈夫だって。俺様の事は心配ご無用、それよりこんなに付きっきりで看病してたら旦那がやきもち妬くんじゃないの」


こんな気持ちなんて
わからないだろうな


「や、妬くなんて、そんな事ありません!佐助さまの御世話を命じたのも幸村様ですし…」

頬を赤く染めながら否定する姿に
ふ、と想うのは


「名無しちゃん、今、幸せ?」


微熱を帯びた視線の先で
最初は少し戸惑いながら
やがて力強く、そして
満面の笑みを浮かべて



「はい、とても」



君の幸せ、俺の痛み



その笑顔を見るたびに
嬉しくて悲しいんだ


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