『ねぇ、佐助…本当に私の事…』 ぼんやりと微睡む意識の中で アイツは笑って言った 『ずっと一緒だよね』 そんな、遠い昔の記憶 ――――――――――… 名無しと旦那の縁談は大将が持ち掛けたものだ。いくら奥手な旦那だって、あの信玄から言われれば断る訳にもいかない。最初は余り乗り気じゃなかったみたいだけど、何度か会うたびにお互い気に入ったらしい。 二人の馴れ初めなんて 聞きたくも無い様な なんてね 俺様が任務で留守の合間に 旦那もやるねぇ 最近、頻繁に上田城へと顔を出す名無しを見かける。その度に重なる面影を必死で拭い去り、自身に言い聞かすのだ。 忘れろ、と 「佐助!どこに居る」 聞き慣れた主の声に何事かと駆けつけてみれば、その隣には嬉しそうに寄り添う名無しの姿。 「ま〜惚気ちゃって。俺様妬いちゃう」 冗談と本音の入り混じったこの言葉を幸せな二人はどう捉えただろうか。 「の、惚気てなどッ!名無し殿も何とか言って下され」 「もぅ、佐助さまったら…ふふ」 顔を見合わせ頬を赤く染める二人に ただ笑うしかない自分がいた だって 二人の間に入り込む余地など 最初から無いのだから だから笑って祝福するよ 錆びついた心に蓋をして 何もかも閉じ込めてしまおう [prev|next] |