天地学園の最寄り駅付近の小さな雑貨店。
ーーあ、と零れた声は両者共々だった。

「あら、偶然ね。デート?」
「こんにちわ!そーなんです。デートです。そちらはデートですか?」
「はい!デートです」

英文のような会話は何処か不自然で、順も紗枝もこの現状をただただ楽しんでいた。
それが腑に落ちず、ゆかりと柊は目を配らせ目視する。

ーーデートとか言ってんな!
そう思ったのは二人。落ち合ったわけでもなく偶然に、不可抗力だというのに、無表情のまま柊は口をへの字に曲げている。

「柊ちゃん」
「…ドーモ」

肘で突きながら催促すると柊は簡素な挨拶をした。二人だけのシュチュエーションでしか名前を呼ばない紗枝が名前呼びをしたことにも腑に落ちずに柊は溜息を飲み込む。
ゆかりも何処か余所余所しいが会釈は会った時にしていた。順と紗枝だけが今だにコミュニケーション能力を発揮している。

「何か買うの?」
「ちょっと暇なので見てただけです」
「そう」

簡単に会話を交わしつつ、それも紗枝と順の二人だけなのだが、それもそこそこにーーまたね、と解散。しかし、今だに互いが店内にいる為、自然と目に付くのも必然だった。よく分からないゲテモノの人形に必死な紗枝を置き去りに柊はプラプラと店内を詮索すると順が居た。気にするわけもなくその後ろを通過する際に、色とりどりな布を並べているものだから立ち止まる。

「ナニそれ?」
「あ、姐さん!」
「眼帯…?」

何故ここに?雑貨店なのでは?と柊は思う。順は嬉しそうにーーそうです!可愛いですよね!とズレた事を言った。

「ナニに使うワケ?」
「染谷の左目に」
「日頃?」
「いや、ベッドで」

ーーマジか。柊はそんな表情を浮かべる。

「性癖かなンか?」
「そういうわけじゃないんですけど。染谷ってヤッてる時、傷口が赤く染まるんですよ。それがなんとも言えないぐらい色っぽくて、つい加減が出来なくて…」

ははは、と順は笑う。恥ずかしげもなく堂々と。柊も柊で、興味あり気に聞いていた。

「たまにはマッタリがいいかなぁ〜って。あ、でもいい感じの時に口とかで眼帯外したらなんかエロいって思うんで性癖も入ってますね」

柊は考えた。紗枝に置き換えて。目隠しとは少し違う、なんともいえないチラリズム。それを口や指で、そして覗く潤んだ瞳、と脳裏で思い浮かべて暫く…。

「……イイ」
「姐さんっ!いい趣味持ってる!!」


それからが早かった。

「どれが好み?」
「派手なのはちょっと…」
「同意。ーーッてか、包帯のがヤバいと思わねぇ?」
「包帯っ!その手が…。」

順は顎に手を当て考える。確かに眼帯だと盛り上がりに掛けるのでは、いや重要なのは色だ。と思い直す。赤い目元は白か黒のが映える。包帯は天地に腐る程あるだろう、ならば買うならば黒一択。

「「眼帯なら黒っ!!!」」

柊と順は見合わせ、無邪気な子供のように笑った。






「ねぇ、あそこの二人なにしてると思う」

近くでマグカップを見ているゆかりに紗枝が目配りをする。ゆかりは気付いていたのだろう、今も尚、奮闘する順と柊を見ずに「はぁ、なんでしょうね」と呆れ口調に返した。

「柊ちゃん…気持ち悪い」
「斗南さんならまだいいですよ。見てくださいあのバカのだらしない顔」

ゆかりは、また見ずに紗枝に言う。

「あれはあれで柊ちゃんのだらしない顔なのよ。あぁ、困っちゃう。久しぶりに見たわよ」
「久しぶりにならいいですよ。あれは毎日ですよ」
「それって慣れがあるから免疫付いてるでしょ?」
「まぁ、毎度の事ながら放っておくと何するか分からないので被害は大きいですが」
「いつも拝見させてもらってるわよ。二人の時はもっと凄いんでしょうね」
「そうですね。暴走もいいところです。」

ゆかりの目はもうマグカップを通り越し遠い目をしていた。そうして、横目で見遣る。何分話しているのだろうか。何分、あのまま続ける気なのだろうか。

「私、あの柊ちゃんに免疫ないのよ。前に一度、二度あったけどそれはもう凄い「祈さん!?」

この人は何を言い出すつもりなのか。ゆかりは言葉を遮った。まだ昼間です。しかも雑貨屋です。と恨めしげに紗枝を見れば紗枝はキョトンとしていた。

「初心ね」
「違います!場を弁えてください」
「っていいながら久我さんを止めないのは意味があるのかしら?」

あぁ、もうこの人嫌だ。とゆかりは思った。痛いところを付いてくる。

「そういう祈さんもなぜ止めないんです?」
「そんな柊ちゃんも好きだから」

サラッととんでもないことを言った。思ってもいない返答にゆかりは暫く停止する。

「型外れた柊ちゃんって凄いの」

そう言った紗枝はにんまり笑みを浮かべた。どうしてなんの変哲もない休日に何処にでもある雑貨店で昼間っから如何わしい会話をちらほらしなければならないのか、ゆかりは溜息を飲み込んだ。「あぁ、そうなんですか」と素っ気なく返せば普段変わりない声色でーー久我さんより、凄いんじゃない?と言い出した。



「順だってっーー」

しまったと、ゆかりは思った。直ぐに口元に手を当てた。咄嗟だったのだ。ゆかりは思わず出た言葉も途中で飲み込み、この現状を打破する瞬断を模索する。


「順だって…なにかしら?」

逃がしてはくれない。分かっていたが、わかりたくはなかった。

紗枝の目には関心と興味が浮かび上がる。それが向けられたゆかりは羞恥心によって僅かに熱くなる顔をどうにか隠そうと試みるが上手く行かず、近付く紗枝に顔を逸らした。

「素直になるのも大切よ?」

当てられてしまっただけだろう。皮肉にもならないから、本当にこの人は食え無い。もう、やめてくれ、と念じても遠くでは二人の盛り上がった会話が、目の前には追い詰めてくる紗枝が…。ゆかりは恨みのような感情のやり場を求めた結果、順に八つ当たることにした。


ーー今夜はお預けだ!!!






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