そっと、紗枝は手を伸ばす。
一束に纏められたシックな黒髪姿はラフな格好の際に良く見られたが背まで垂れ下がるそれは、今や違う識別を与えている。艶びかなそれは正装服を羽織る背に同化していた。髪を掻い潜って柔らかく背を撫でてから僅かに角張る肩に添え、見惚れてしまうその姿に笑みが溢れる。

「似合うわね」

そりゃードーモ、と彼女は口角を上げた。それも束の間、着心地が悪いのか何処か窮屈そうに顔を顰める。ソファーに凭れかかる腰は深々に、腕は大きく伸ばし、自分の定位置を見つけているようにも思えた。

ふと肩を引き寄せられて、距離はぐっと縮まる。落ち着かない手が定位置に収まったらしい、抱えるようなその動作に紗枝は一瞬呆気に取られたが、取り返すようにもう片方の手で結び目を引っ掛けた。指が辿る萎れた線は彼女のようだ。

立派だった。堂々とし、凛々しい。ワイシャツのボタンを二つ開け、覗く肌も色気付いて、他の人ならだらしなさそうに見えるぶら下がったネクタイが彼女にとっては絵になってしまうと、紗枝は肩に置く自身の手に顎を乗っけて見遣る。

「勿体ナイ」
「あら、あたしが?それとも斗南さんが?」
「アタシ」
「心外だわ。つりあうと思うけど」
「その格好じゃ、おジョーサマの色気も低価格ッて言ってンの」


柊の手が布一枚を恨めしげに撫でた。

「キレイだからこそ出さずにっつーのが残念」

柊が言う綺麗なそれを出すから映えるのか、出さず確りと着こなすスーツが映えるのか。この格好も悪くないと、紗枝は思う。滅多に着ないだろう服装は少なからず高揚する思いだ。しかし、楽観的なものから来るそれは、柊の真相に程遠い。

「まぁ、似合ってッカラ余計に思うンっすけどね」
「褒められてる?」
「褒めてはいる…。でも、好みはコッチ」

向き合った柊が紗枝の頬に手を添えて、紗枝は促されるままに触れる口付けをした。

「…エッチ」
「アンタ限定」

合間の攻防は遊戯だった。
角度を変えながらも、何度も何度も落とされる唇は深くは探らず。しかし、唇だけでは飽き足らずに落とされた柊の唇は顔の至る所に降り、滑らすように首筋に埋まる。篭り始める熱は紗枝を熱情の海へと落とす前触れ無造作に開けられたワイシャツは一つ一つ解かれ、紗枝は助かったと、熱を逃そうとする。その分、豊富な谷間が暴かれ、滑り落ちる唇は下降し、次なる熱に魘される。

「この格好じゃ、そそらないんじゃないの?」
「ジョーネツの赤いドレスなら燃え尽きそーなんですけどね」
「不服なのね」

胸を隠す布の紐の間に指を差し入れ、柊は見上げる。情緒的な期待と切望的な無垢さが相違し紗枝は可愛いと思った。

「すねな、い…でよ」

締め付けていた赤い布が緩んだ。器用にも柊は外し、下から持ち上げるように豊満な胸を揉みあげる。先程まで堂々とたその趣きは何処に行ったのか。子供と大人の狭間で揺れ動く心情が垣間見得てしまえば愛苦しい。紗枝は乱れ始める呼吸と心音をそのまま手放す事を止め、柊のピアスに指を当てた。ツーと、下げては摘み。さする様に撫でて、その先を促すように耳元に唇を当てた。



「中身は同じよ、あなた好みなら嬉しいわ」



瞬間、縮まる瞳。柊の指が紗枝の頬を優しく掴んだ。誘うように告げた台詞に誘われるままに唇へと指が辿り口内を解し明かす。紗枝の促す舌が柊の指に巻き付き、応じるまま紗枝の唇をこじ開けた柊の舌は捩じ込まれる。どちらともつかない唾液と柊の指と舌。そして紗枝の舌は溶け込んで、縋るように握り締める紗枝の指はシックなスーツに皺を残していく。










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