「38度5分…今日はおとなしくしてろよ」
「大丈夫よっ!斗南さん。50度出てもだ、いーーぁ、」
「ーーオイっ、」

眉を潜めた斗南さんに全力で訴えた私は軋む身体を起き上がらせて、すれば頭へと熱が登り、くらっと眩暈。項垂れる私はやり過ごせず片手で顔を覆った。

「アーァ、モー、言わンこっちゃない…」

私の額から落ちた濡れたタオルを拾い、斗南さんは呆れたように頭を掻いていた。「50度トカ、未知の世界ダロ…」と咎めるように起き上がった肩を押され、ストンと抗う気力もなく布団に吸い込まれる。背に添えられた手が優しさで、力が入らない身体へと起こる衝撃を緩和させた。そして、その手にあるぬるま暖かさに気付いていた斗南さんは、氷水が入れられた桶にタオルを突っ込み、私の額へと帰ってきたタオルはキンキンに冷えていて気持ちい。ふー、と吐き出す息がいつもより、熱い気がするのは気の所為なんかぢゃなくて、計測通り高熱を表しているからで、その冷たさが今は至福でしかたなかった。


「ダイジョーブ、、、ぢゃねーな。ンとに、今日は動くなよ!動いたらきれっかンな?」
「うぅ〜、斗南さん……おこるの?」
「ぃ、いや、っ、だから…動いたら、だ!」
「となみさぁん、……」
「甘えンなっての…!」
「怒鳴った…、となみさん、おこってるの?」
「だ、だから、怒ってないって」
「どならないで〜、ぅぅぅ」

愛しい声が大きく響く度、嬉しさと、甘えたさと、寂しさと、辛さと、溜まらない頭の痛さが、全身に駆け巡って、目元が熱くなった。涙がポロポロと流れてしまう。よくわからない、感極まった高揚感は逆にマイナスとして表に現れてしまっているようだった。一度溢れ出した水は、熱い頬に似ていて、泣いてる事に気が付くのに時間が掛かったけど、目の前にいる斗南さんの顔がギョッとし、青くなっていった。サーっと、血の気が引き、焦せり、慌てふためく。

「な、なくなっ、上ジョーっ!!アタシがわるかったっ」
「となみさぁ、ん?うぅ…、ふっ、」
「ナンダ?欲しいもンでもあンの?…あ、腹減った?水か!?ゼリーとか!?プリンもあるぞ!?……ナニかして欲しいコトあるか?」


斗南さんはアレコレと、机にあった水や、冷蔵庫にあった、プリンやゼリーを出しはじめ、私に見せるようにして、一瞬止まる。おずおずとそれを全て机の上に並べて、いつもよりゆっくりに、いつもより優しく、いつもよりしおらしく、そう尋ねた。胸が温かくなって、八のように眉を垂らした斗南さんに愛しさが募って、やっぱり、涙は止まらなくて。どうしたもんかと、思考を巡らせている斗南さんの手を握って引き寄せた。弱々しい腕の力でも、斗南さんはすんなり傾いてくれて、押し潰さないように身体の横に手を置いた斗南さんは少し驚いているようだ。

「となみさんが、ほしぃ」

顔スレスレにある斗南さんが顔を歪めて、女性にしては角張った喉元が動き、息を呑んだ。頬を伝う涙を舐め取られ、目元に触れるだけのキスをして、私の側面に流れた髪を撫でる手はとても優しい。一瞬だけ唇に触れると、そっと顔を離した。潤む視界に情が映る瞳がそこに入れば、私の重い腕は一生懸命に首へと回っていく。柔らかな髪を撫でれば斗南さんは困ったように表情を和らげた。

「バカか…。勘違いすンだろ」
「勘違いではないわ」
「…それでも、ダメだ。熱あンだろ、おとなしくしててくださいマセ」

自制する斗南さんの顔が少しだけ耐えるように唇を閉ざし、視線を逸らす。それは私にとって全然面白くなくて

「ねぇ、なら一緒に…寝てくれないかしら?」
「ン」

斗南さんは優しいから、きっとそんな事をしないなんて分かってたけど…少しだけ、ほんの少しだけ我儘を聞いて欲しい。そんな気持ちが伝わったのか、今度こそ斗南さんは私の隣へと滑り込んで、手を握ってくれた。

「あつい…」
「ごめんなさ…っ」
「だ、だから!泣くなってっ!チゲーよ、上ジョーの身体がってコト…」
「となみさんのせい、よ」
「イヤ、熱ダロ…」

呆れ口調にも、頭を撫でてくれた。握ったままの手が、手の腹をなぞり、指を絡めた恋人繋ぎに変わる。斗南さんの身体は冷たくて気持ち良かった。言うなれば扇風機の設定、弱のような柔らかさだと思う。薄いTシャツ一枚だけの斗南さんを感じれる冷やかな体温は私よりも高い位置に頭を置いている。熱に魘される頭を逃がすために胸元にくっついた。タオルが落ちないように寄り添ってピッタリ隙間を無くした。やりにくそうにした撫でていた手は、くるくると髪の毛を弄っている。



「ダイジョーブ、ココにイっから。寝ちまえ」
「…うん。ぁりが、と…」

今日の斗南さんは何時もより私に甘くて、一人占めしてるみたいだ。それが何より嬉しくて、彼女が隣にいるだけで安心して寝れてしまう。ふわふわとした綿あめに包まれているように身体の感覚が曖昧になり始め、元々重たかった瞼も、閉じたり、開いたり。どこか遠くで、好きな人の息遣いを聴きながら、子守唄だと感じた。



「オヤスミ。はやく、元気になれよ」


頭上で聴こえた、ぬるいハスキーな声は微睡みの中で溶け込み、ゆらり、ゆらり。おやすみなさい。







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