眩しい輝き、決してもう手に入らないんではないかと、半ば自暴自棄に諦めていた光を確かにこの時綾那の瞳には映っていた。直ぐ前を走る順の手は何時だって綾那の腕を掴んで離さない。ぐんっと、順の脚が前に出た。スピードを一気に上げる。綾那の脚がもつれ、つんのめりそうになり前屈みに沈む。速いと、隣を走る夕歩が順の脚を引っ掛けた。
「うわっ」
「ちっ」
「姫は舌打ち厳禁」
「五月蝿い」
器用に夫婦喧嘩を始めた二人の背を見つめた。廊下は走るな、と先生の怒鳴り声はもう遠く。肺が酸素をもとめフル活動。脚が限界を訴える。昨日の今日だから、そんな妥協さえ許さない夕歩と順の背中が加速した。
「ちょ、はやっ」
「ふふ、散々な昨日の流れが今日も続くのでした。。あやなのドエムーーーっ」
「順、そのままにしていろ」
「綾那さん!?スピードあがってるからっ…」
「ふ、ふたりとも…待って」

ぐでんぐでんになりながらも必死に手足をバタつかせる夕歩がもがく。綾那はどっからともなく、バットを振り回し、にへらに笑う順を追う。もう手は繋いでいない。沸騰しそうな血液が熱をもつ。酸素をもっと、口を開け続ければ綾那の口内はカピカピに渇いて喉がひりつく感覚。外界の曝け出した全身に風が張り付いた。そんな、抵抗。今更壁にもならず、がむしゃらに走る脚が次々に生い茂る葉を踏んづける。

「そめやぁーーっ」
「こらっ!!!じゅんっ、待てーー!!」
「み、んな…元気、すぎ」

真っ先に飛び出した順の腕が天高く突き上げられた。続く圧力は綾那。先ほどの疲労も昨日の疲労も無くなったように釘バッドが陽の光に輝く。最後に、ぺたぺたと、ふらつく脚は夕歩。何一つ取りこぼさない。取りこぼせない。あふれだす陽光に感じる未来を、せいいっぱいの背伸びで繋がるこの日々を、かけがえのない今に全力で。走り出した時から変わってないんだと、やっとわかった綾那は順の背を通り越したその先に目を細めた。

あと少し。もう一度立ちたいあの場所へ。一歩、一歩、加速に任せる脚は三人共々軋み悲鳴を上げた。しかし、止まれない。あの背中を見たら。ウエーブがかかった髪が風に舞う。待ち人は顔を歪ませた。五月蝿い騒音と慌ただしさに彼女は振り返りーーーーー、、


「あんた達もうちょっと静かに来れないの?」


呆れた顔が僅かに嬉しそうに微笑んだ。






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ゆかりと綾那の決着後の捏造




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