濡れた熱い舌が身体を這っていく。初めは耳の後ろからだった。それは事の始まりを告げる合図で、癖のようなものだと気付いたのは与えられる快感にほんの一本程度の糸のような余裕が垣間見得た、数回目の行為の時だった。

舌先で耳の周りの溝を沿うように突き舐め始めてからというもの、肝心な所には触れもせずにいる。それが何時ももどかしい。やだ、と言葉を言えず噛み締める甘い辛さ。それにわかっていてもやめてくれない斗南さんは耐えるように舌を滑らしていく。
角張った鎖骨、脇腹。乳房に腹、お臍。横に自身の身体をズラせば横に向けさせられ背中をペロペロと舐めている。猫がマーキングをするかのように、執拗までに這う舌に小さく声が漏れる。一際弱い耳の奥。まい戻って、押し込まれた舌に粘膜と吐息が合わさって堪らず嬌声が出た。

「んあっ」

ダイレクトな水温が耳を犯す。焦らされた身体には少しの強い刺激だけで、どうにかなってしまいそうだ。くちゅ、と卑劣な音は脳を既に麻痺させ、順応に身体は反応する。ぞわっと撫ぜられたように薄い皮に鳥肌が立った。熱い。舐められた場所も脳も、ズンっと反応し始めた下腹部も…。

ーーいのり

「ひゃーーッ」

おかしくなる。おかしく、なる。斗南さんが名前を呼ぶたび、我慢ならなくなる。
ちゅっ、耳に唇を押し当てて離れると、生暖かい唾液が外界の風に晒され冷たい。そんな少しの事でも快感に変わる。



「そ、んな…おいしい?」


自分でも思うぐらいに余裕がない声だった。全身で呼吸をするように沈んだ胸に手が伸びて、、ツンと立つ突起を指の腹で撫で上げられた。

「あっ」

待って。と悲願の声は無意識。それでも止めてはくれない。だって止めてなんて思ってない事を斗南さんは知っている。待ち望んでいた快感に全身は震えた。

円を描くように撫でられ、突つく。唇を噛み締めて快感に耐える。意地悪に暴こうとする指は突起をグリグリと押しながらまた、円を描いた。あまりにもその刺激は強すぎて思わず唇が開く。

「あぁっ」

その瞬間肩口に当てられた熱い吐息と鋭い痛み。噛まれた肩から伝わる痛みと胸の愛撫に、身体がビクッと跳ねた。

「はっ、、」

ーーと、なみさん。
呼べばごめん、と歯型に添いまた舌がチロチロ舐めて行く。嗜むようにゆっくりと、、
あぁ、斗南さんも限界なんだと理解した。

「おい、し?」

肩をまだ舐めている斗南さんの頭を優しく撫でて、顔を合わせた。鋭い眼光は獲物を捕食するようで、切なげに歪められた顔は理性を押さえつけている時のそれで、その表情にぞわぞわと背中に電流が走った。いつの間にか緩くなった胸の刺激。掌で下から上へと押し上げられるように揉まれていた。

「いのーーー 」

誘われるままに唇を塞いだ。中断させられたのが不満なのか、優しく合わさった唇が嘘だったかのように口内で舌が暴れている。引っ込めるつもりもないけれど、確実に絡め取られた舌を吸われれば撫でていた手は斗南さんの後頭部を押さえつけていた。

「ふ、ーーん、」
「はぁ、、、」

歯列をなぞられ、柔らかい場所を突かれる。互いの吐息、合間を縫って吐き出されていく。後ろから伸ばされた手は離してくれそうもない。強く強く、巻き付く腕と自我を持ったような舌に苦しさを覚えた。


「いのり…」

混ぜあった熱の後だというのに名残惜しそうに離れた唇から糸が伸び、プツンと切れた。目は離せない。離されない。掠れた斗南さんの声に久しぶりに聞いたような錯覚を覚えた。

「全部食っちまいたい…」

欲しいと訴えられる。目から舌から手から、唇から。抗う理由なんてない。そらす理由なんてない。

「食べちゃって、いいわ」

あげるから、全部残さず食べて。
こんなにも欲しい思うのはあなただけぢゃないの。







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