ボタンを一つ、ーーガコンッ。
もう一つ、ーーガコンッ。

足取りは軽快に、はいって渡したら「おう」と手が伸びたけど言葉とは裏腹に弱々しい。項垂れる頭、覗き込めば青い顔は笑っていた。引き攣っていたけど。

「楽しくなかった?」
「楽しくないつーわけぢゃねーけど、休憩なしに絶叫系ばっか…嫌がらせか?」
「嫌がらせは好きだけど、今はそんなつもりなかったわよ?ちょっとはしゃいぢゃった」


好きでしょ?そーいうの。嫌いぢゃないけど、、濁す斗南さんは缶ジュースをごくっごくっ、と飲んでいく。わたしも一口。飲みながら頭より上。大きくて歪な線路を眺めていた。体感速度だと速さは尋常ではないのにこう傍観しているとそれ程でもない。絶叫と目に見える急下降だけが怖さを引き立たせていた。


「飯食う?」
「うーん、そか。もう夕方か。食べようか」
「何食いたい?」
「美味しいの」
「アバウト…」

ふふ、だって今日は斗南さんエスコート付きだから。笑えば、よっしゃっと立ち上がって私の手を握った。いつの間にか飲み終わった缶ジュースが斗南さんの手を離れて弧を描く。がこんっと金属音が鳴って、ゴミ箱に吸い込まれた。ナイスシュート。やっぱ、センスの塊だわ。動くのが億劫なだけで運動神経もいい斗南さんはオールジャンルやりこなす。


「乗り物酔いは激しいのにね」
「なんだよ…。楽しんでるっつーの」

繋がれた手。引っ張られるように若干、足が前にある。背中に追いつこうと足並みを揃えてから、手を解いて腕に抱きつく。

「わかってるわよ」
「へいへーい」

視線の先にカップルがたくさん。親子連れも居た。第三者から見たら私達はどう見えてるのかなぁ、なんて思ってみたり。それも晩御飯の会話で早変わりして、相槌を打つ。ガッツリ食べたい気分。外食は久し振りだと言えば、斗南さんは同意した。一人暮らしの斗南さんはジャンクフード三昧だったらしい。

「不健康よ」
「コンビニで廃棄物も貰う」
「だからコンビニ?」
「当たり前っしょ!一人暮らしは厳しいんっすよ」
「でも作れるでしょ?」

以前小腹が空いた時、軽食を作ってくれた記憶があった。簡単な炒め物だったけど手際と味は頗る良かった。

「ンー、まぁー、作れっけど自分のために作るのはめんどぃしさー。疲れてる時は尚更。気分で作る時もたまーにあるけど誰か来ないとヤル気もでねぇーし」

あ、コッチ。と急角度で曲がる。足が縺れて文句を一つ。ハハ、わりぃ。斗南さんが笑って、入り組んだテーマパークの路地裏を地図を見ながら歩く。

「もうすぐ着くから」
「うん」
「さっきの続きだけど、」

うん?と小首を傾げた。歩く足が少し速くなった気がする。

「たまにでいいから、飯つくってほしいーっか…一緒に食べれたらって思うンだけど…」

ダメか?そう聞く斗南さんの顔は見えない。

「ほら…あたしも祈のためならヤル気になるかもだし…」
「うん、いいわよ」

曖昧な言葉は照れ隠しに紛れた。即答すれば拘束されていない方の手で器用に地図を持ちながら頭を掻いた。

さっきと元通りに、背中しか見えなくて、その広い背中に向けた声は自分でもわかるぐらい嬉しそうだ。だって嬉しいんだもん。ははっと小走りに肩を並べたがる私の足に斗南さんもスピードをあげていく。ほぼ小走り状態になって、そんな無限ループも楽しいけど人通りもあるから諦めた。

顔は見れなかったけど耳が真っ赤だから、それだけで充分。あー、可愛い。





***



「ドオ?」
「美味しい」

サラダは真ん中。お互い別の物を食べていたから斗南さんから一口貰った。所謂、あーんの、形だけどサラッと出来たと思う。斗南さんも別段気にする様子も意識する様子もない。それが自然に出来ている事がとても嬉しく思う。

「テーマパークの飲食店ってあんま好きじゃないンだけどさ、」
「うん。私もなんだけど。ここ普通に美味しいわね」

目立たない路地裏。外観はモノトーンで夜だとわかりにくい、表のざわつく通りからは想像も出来ない程、ガラッと雰囲気が変わってる。お酒も飲める静かめな店内もテーマパークにしては洒落ていた。


「くれあ?」
「ん、まぁー、そーなンっすけどね」

罰が悪そうに苦笑を浮かべた斗南さんに、もう怒ったりしないわよ。とサイドメニューのスープを啜る。

「くれあ、様々ね」
「まちがいねーわ」

斗南さんは器用にナイフでお肉を切っていく。斗南さんは先に全て切って食べる人らしい。私はというと、切りながら食べていく人。そして、斗南さんのそんな姿は新鮮で見ていて楽しかった。均等に切られていくから、そこは性格にも出ている。雑に見えてきちんとしてる所とか。ご飯粒一つ残さず食べる所とか。残さず全て食べている所とか。お腹一杯でも多少の無理なら斗南さんはするはずだ。

「ナニ笑ってンのよ?」
「えー、斗南さん見てると飽きないなぁーって、」
「食いにくいわっ!」
「だって楽しいんだもーん」

ご飯を綺麗に食べる人は好きだ。あんまりいないとは思うけど、そういった事ではなくて、ナイフを添える人差し指や、柔らかく握る他の指や、開かれる唇までも、一連の動作が絵のようで、綺麗だった。


「これウマイから!!祈、食え」

言葉遣いはやっぱり何時も通りで、ギャップが物凄いから面白い。斗南さんの声に素直に口を開ける。耳に髪をかけて、切り分けた最後のお肉が口内に入れば、舌全体に甘みが広がった。思わず、「んっ、美味しいっ」と目を開いた先は、頬杖を付いて笑う斗南さん。

「だろ?」

あー、無邪気なその顔も大好き。いくつギャップ持ってるのよ。ココのご飯は美味しいけど…きっと、好きな人と食べてるから余計に美味しいんだわ。








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