たくさんの本の参列に視線を巡らせて今日はと、思うけどもうここには読破していない本などなかった。あー、ここもか。と溜息。さて、どーしよう。図書館でも行くかと思ったけども町内の図書館はとても小さい。だいたいは子供頃に読んでしまっていた。だからこそこの町の外に出ているのだからしかたないと言えばしかたない。

昔からそうだった。たくさんの本に囲まれ読むことに没頭する毎日。たくさんの歴史。たくさんの知識。そうして形どるわたしの武器。わたしのチカラ。このチカラは知識無くして形どることは出来ない。たくさん見て、たくさん読んで、、、なんのためにと言えば恩返し。この町のために。わたしを取り巻く全ての人たちのために。そういえば、最初に私を見てたのはヒメだった。そしてきっかけをくれたのはアオだった。あの出来事を救ってくれたのは秋奈のお父さんだった。
帳消しにはならないから、どんなにどんなに願っても見ないフリをしてもなかったことにはならない。だから受け止めた。あれはわたしの罪で、そのせいで、そのおかげでこのチカラが目覚めたというならばこのチカラを使いこなせばいいのだ。

「ことは。あんたまたなに考えてんの?」

背後からの声に振り向けばヒメが呆れたように開けっ放しの入り口に立っていた。本当たまに気配消すのはやめてほしいと心底思う。
驚くだろう。

「んー?いやー、ここの本全部読んじゃったなぁーって」
「ふーん」

とりあえず早くドア閉めてよ。寒いじゃない。小言でそう言えばたまに外に出なさいとのこと。(イヤイヤ、わたしを引きこもりみたいに言わないでくださいよ。)

「ちゃんと学校行ってます。ちなみに町もぐるっと見てきましたー。」
「最近あんた外出るの少なくなってるの気づいてる?」
「いや、だって寒いし」

ダメだーーーー。子供は風の子!騒ぐのは子供の特権。などと叫び散らすヒメに苦笑する。あんたはあたしの母親か。そう言おうとして止めた。いつもなら言えても今日は流石に口を滑らせても言えない。

母の顔も思い出せないわたしにとって周りが家族で友達で親友で大切で、本当に大切で、、、
それを壊すモノは、それを奪うチカラは、それを失うぐらいなら、、、、

「ほら、その顔やめなよ」
「顔の否定は傷つくなぁー」
「まぁ、否定したいけど、、」
「おい」

なんだこいつ。喧嘩売ってんのか。怒ったフリして椅子に腰を下ろすヒメに言えば、ハハハとヒメは笑った。そして間髪いれずに真顔になった。あー、こわいな。何も言うなよ、と思った次の瞬間核心に迫る一言。

「自分の顔鏡で見てみな。酷いよ、、
あんたこの日になるといつもそう」

知ってる、そんなの知ってる。そう呟く声が震えていた。自分でわかるよ。変に強張った喉も、ヒメを視界に入れた瞬間硬直した身体も。おかしいなぁ、今日は。当たり前かぁ。喉にも身体にも自信あるんだけどなぁ〜なんておどけてみてもダメだった。ヒメは笑わない。真っ直ぐわたしの眼を見る瞳はいつだって芯が強くて熱い。

「ねー、ヒメ」
「なに?」
「次あたしが堕ちたら、、」
「そんなことがあるの?」

どーしようもない震えで上ずりになる声に、いてもたってもいられない。

「あたしとヒメは違うぢゃない」
「同じよ」
「もしかしたらだよ、、、」

堕ちる気なんてないけど。そう…ないんだ。なかったはずだった。でもその日あたしは堕ちた。それが事実。みんなを巻き込み、傷つけたその日。

「あたしが堕ちたら容赦無くお願いね」
「わかった」

ストンと堕ちた言葉。ストンと落ち着いた心。この口約束みたいなものでもすがっていいですか。こんなことをヒメに頼んでいいですか。本当はだめだ。背負わせてはいけない。なんて重い役を大切な人にやらせようとしてるのか、でもヒメにしか頼めない。

ーーーーでも、ことは。大切な事忘れてるわよ。とても大切。この条件無くして事実が成り立たないぐらい。

ヒメはいつの間にわたしの前にいた。落ちた視線はタイルに向いていてわからなかった。
ーーーーなに、それ?
「わたしがいる限りわたしがあんたを堕とさせない。これが絶対条件。」

少し背の低いヒメがわたしの頭を撫でる。
ーーーーーことはがことはを見つけてれば大丈夫
ーーーーーもー、大丈夫。わたしたちと一緒

暖かいような、歯痒いような、安心したような、駆り立てられるような。なんだこれ。よくわからないけど、頬を伝う涙は一向に止まず。あー、大変だ。止めるすべはなに?目の前にあるぢゃん。

わたしは目の前のヒメの肩に顔を押し付けた。ゆっくりと背を撫でられて、よしよしと頭上で声がする。子供じゃないぞ、と力なく言えば子供は風の子とか意味わからないこと言うし。あー、あんたの前だと笑っていたいってそう思う。

わたしは暇があれば本を読む。暇がなくとも知識を蓄える。そうして形どるのは自分でありチカラであり、武器。なんのために?護るために。そう、傷つけるためでない大切なものを護るために。
なぜ?みんなが大好きだから。この町が大好きだから。

「あたしもヒメが堕ちる前に止めるよ」
「そうね。万が一、まぁ、1000パーセントないけど。んーあったとしたら0.001パーセントかなぁ〜。そのときは頼んだ」
「おい、ほぼないぢゃないの」

今度こそ二人で笑った。1人に背負わすなんて、本当にバカなこと。
一緒に、一緒に…
だからこんな情けないわたしも終わり。そーだった。今日という日が悪かった。

「ったくあんたこの日になると本当にだめねー」
「あー、ばれてた?」

そう苦笑するが鼻声。笑っちゃうね。そういえば毎年この日はヒメがそばにいたなと思い出して、助けられる。


そう今日はわたしが墜とされた日だ。










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