神は憧れや尊敬や信仰の対象となる存在であり人知を超えた絶対的存在。否応なしに触れてはいけない事実を兼ね揃え、存在し顕在している、ーーそんな人物をじゅりは現在進行形で見下ろしていた。なんとも可愛らしい熊のパジャマを身に纏い、半乾きの髪の毛を白いシーツに散りばめた、薄ら笑いをする土地神こと八重を組み敷いていた。

「ふふ、どうしたの?じゅり。固まっちゃって。不可抗力でしょ?神様は何でも知ってるわ。でも、あなたの欲も確かなのかしらね?どう?」
「……」

可愛らしい姿で、可愛らしい口振りで、可愛らしさもない貪欲さを提示されているようだ。ーー不可抗力。たまたま、転がっていた熊さんの縫いぐるみに、たまたま躓いた挙句、たまたま目の前に居た八重をじゅりが押し倒した形になってしまった。反射神経の賜物であるじゅりでも流石に狭い密室で眼前のしかも超近距離に居た八重を回避し、音沙汰もなく助かる術は持ち合わせていなかった。

だからこそ、狼狽しそうになる。じゅりは半ば固まってしまった思考を徐々に回復させ始めた。

「ご、ごめんなさい!!」

焦りに焦り、顔を赤くしたじゅりの脳内に八重の言葉が反芻する。そうして、咄嗟に身体を起こそうとしたじゅりは、懸命にこの場を凌ごうとした。それは叶わず。下から伸びる手が、起こそうとした身体を阻止するように、腰に伸び、回され、抱き締められた。

「うわっ」

予想出来なかった事態に、阿呆な声が出た。意に介さず、八重は不敵に笑い、重みを受け止め、目の前に落ちてきた耳をはむっと、甘噛みした。

「や、八重さんっ」
「ん?はむ、はむ、」
「ちょちょちょ、ちょ」

今度こそ狼狽する。支えを無くしたじゅりは徐に、寧ろ慌てて八重の肩を押す。しかし、動かない。動けない。拒絶するように腰を抑えられている。それも、もうぎゅーっと抱き締められビクともしない。其の間にも八重はじゅりの耳を甘噛みし続けていくから溜まった物では無い。ついに舌が耳の裏を掠めた。瞬間、びくっと、揺れ力が抜けていく。ヤバイ、その一言しか出ない事の重大さだった。

「ねー、我慢するような事なの?じゅり、」
「待って待って待ってっ!本当ッ、、」
「待てなーーい」

地味な刺激は柔らかくもじゅりを驚かせ、蓋をしていた獣の尾を出させた。それでも葛藤する。格好付ければこのニュアンスだが、対するなら覚悟もなければ勇気もなく、なんとも烏滸がましい。というより、ただのヘタレだった。

「女子会でお泊まり会で、そんなシュチュエーションって絶好のチャンス!好機だわ。ね?この意味わかる?」

八重の手は強張らさた腰を撫でる。八重がパジャマ姿である以前に、じゅりもパジャマだった。シンプルな薄いピンクの大人らしいさと可愛らしさを兼ね揃えたその格好は段々と八重の手で崩されていく。遠慮がちに捲り上げられた少しの隙間から八重の手が伸び、そしてくびれをソフトに撫でていく。

じゅりは寒気にも似た擽ったさを覚え、身を捻るが許されず、顔を上げれないように後頭部を持たれては反論も出来ない。成されるがままに然るべき行為を甘んじてしまっていた。

「こうしたかったんでしょ?…わたしもよ?」
「ーーふ、、何言ってるの、八重、さ、、、ぁっ」

耳を嬲られていく。侵入した舌は耳の奥へ捻じ込まれ、粘着な卑劣な音が鼓膜を震わし脳が痺れた。身体が熱いのだ。特有の生ゆるさも、滑る柔らかさも、熱籠る吐息も、這う指先も、見られている背徳感も、どれもかしこも、全てがじゅりの欲を駆り立て、引き摺り起こそうと暴くようで、、激流だった。



「壊しちゃえ」

耳元で囁く八重はじゅりを誘う。その声と共に、舐められたまま耳元で吐息混じりの卑猥な喘ぎ声。にも満たない、燻った熱をぶつけたような、耳奥まで届いた八重の誘惑はじゅりの獣の尾を踏み付けた。

「きゃっ!!」

じゅりの手が八重の顔すれすれに落ち、もう片方は八重を制すように肩を押さえ付けた。何処に隠してただろう、力強さで身体を起き上がら、真摯に八重を見降ろした。事の発端の態勢であり、予期せぬ出来事が、今は確固たる意思を持ち、八重を見る。据わっているような、酔っているような、熱が八重を悦ばせる。


ぞく、、駆け上がった快感に打ちひしがれそうだった。八重の背に流れる電流じみた期待感が零れ、口元が緩む。


「じゅり、、好きよ」
「八重、さん」


じゅりはもう無理だと思った。なんだこの状況。いいのか、これで。そんな制限事項は箇条書きにもなれず、さよなら。捨てられた。思うつぼだ。捨てた。もう、本当に無理だった。じゅりの限界は此処まで。この感情に蓋をする理由が無くなってしまった。困惑である。それ以上に焼き切れてしまった理性は本能を導き、対処する事も抗う事も、選択肢に含まれなくなってしまった。


「八重さんっ」

猛獣のように唇を奪う、じゅりは貪欲に八重の舌に自身の舌を絡めさせる。八重は驚くも、受け止めるが、じゅりのやりたいようにやらせた時間は経過するに辺りほんの少しの咎めの如く、押し付ける形で今度は八重の舌がじゅりの口内に押し入った。じゅりのような乱暴さは無く、徐々に逆上せ上げる順応さ。貪欲さが異なった。拍車をかけていくのは決まって八重だ。劣勢な態勢は見掛け倒しで、じゅりは八重の首に腕を回す。またも体重を預けた。今度は自分から、すり付けた。

「ーーふ、は」
「ーーん」

八重の手が上に這うのを感じ、回していた腕で僅かに身体を支えた。申し分ない隙間に、狙い定めた手はそっとじゅりの胸に触れる。重ねられた唇から熱が増えた、気がする。八重は下から上へと持ち上げるように優しく揉み上げるが、肝心な場所には触れず、あくまでも舌に集中していた。そのもどかしさにじゅりは無意識に膝を摺り合わせ、その仕草は八重も伝わり、そっと笑う。


「あっ」

離された唇から、思わず出た艶やかな声に気を良くし、八重は指先で胸の突起を撫でた。布越しから与えられる刺激は直接的でなくても、布と指とで十分に高まっていたじゅりを快楽の底に落としていく。

「じゅり、硬くなってきた…」

はぁ、と息を零しながら八重は耳元で呟く。
いや、と小さく首を振るじゅりに構うことなく、クリクリと親指と人差し指で立ち上がった突起を摘まみ、そして押し潰す。その繰り返しに、八重の首元に顔を押し付けてしまったじゅりは身体をビクつかせた。

「かわいい」

耳元の囁き。それだけでじゅりは反応を示す。縋り付くじゅりを上へとズラし、既に器用にもパジャマの前を肌蹴させた八重は、寂しそうに構え待つ、逆の突起へと舌を出した。

「んぁっ、、、ふ、ーーん」

指先はそのままに、舐め上げ、口に含み吸う。舌先を硬くし、小刻みに弾き、親指で優しく押す。その繰り返しに、じゅりは堪らず近くにあったシーツを噛み締め、そして八重の頭を抱え込んだ。

「ーーふ、、ん。ーーーはぁ」
「じゅり、声我慢しないで」

声が聴きたい。聴く度に、内から得体の知れない快楽が産み出される。
ーーー可愛い、可愛い、可愛らしい、声が、、、聴きたい。

しかし、頑なにじゅりは抗う。必死に声を噛み締める。出して、出さず。吐息に紛れる、必死の抵抗は八重に火を付けた。


八重の右手が下降する。ズボンに手を掛けた瞬間、じゅりの顔が上がった。不本意ながら離れてしまった突起へと、噛み付くように追った瞬間

「ーーーまっ」

非難の声が詰まった。吐き出されなかった。押し止めさせられたのだ。八重の舌と手によって。

「ひゃっ、、ぁっ、やーー」

ゆっくりだった舌が、今は指で触れていた突起へと伸び、ねっとり舐める。容赦無く、潤う水辺に指が触れ、下の突起を捏ねられればもう、じゅりは声を殺すことなど不可能だった。そんな余裕など抜けていた。背中を上から抑えられたじゅりは、もうどうすることも出来ず、ただただ、その快感を受け止める。


「ーーーん、はぁっ。、、、ぁん」
「じゅり、ここ、スゴイ」
「いわーーッ、、な、、で」

追い立てるように、攻め立てた。思考回路をバッサリと。考える暇も反撃させる暇も与えず、獰猛に退路を立つ。善がりくねる腰は素直に揺れる。そして八重も同様に絶え間無く出される嬌声が余裕を追いやっていく。

すかさず、その身を下降させた。器用に履いていた衣類を降ろし、潤滑にぬめるソコへと舌を押し当てた。

「んぁっっ」

堪らずじゅりの背が反り、震える。赤く熟す突起を口に含み舌で弄び、ゆっくりと二本の指を水底に埋める。容易く受け入れた中はきつく、痛いぐらいに八重の指を締め上げ、そして緊張させた身体が大きく波を打つ。


じゅりは順応に軽くイってしまった。ヒクついた振動が指から伝わるが八重は止めること無く折り曲げ、ザラついた部分を撫で、押し付けた。卑劣な水音と嬌声が部屋を満たし木霊する。

「あ、あ、、、っ、は、、ぁあっ」

乱れたシーツを強く握り締め、引っ切り無しに与えられる鋭い快楽になすすべも無く、ただ喘ぐ。本当は逆で有るべきだった。こう有るべきは八重であったのだ。じゅりは焦がした理性を手放した時、そう思っていたのに。それはじゅりの願望でしか無く、もう既に遅かった。待ち望んでいたこの有様も事実だった。本当はどっちでも良かったのだ。流されたように促された、この事態は、じゅりを奈落へと導いた。

幸せを感じずにいられなかった。


「ん、、はぁっ、やえーーさ、、や、え」

訴えるように名を呼ばれ、視線を上へとズラすと、潤んだ瞳と対峙した。八重さん、八重さん。上気した表情を浮かべ、しきりに、必死に名を呼び、

「かお、んーー見たい、、やえ、さん、、あっ、かお、がーーみた、い」

切願した。


ーーーぎゅって、して
ーーーおね、がい
ーーーやえさん、、



どくん、と八重の心臓が跳ね、思わず指も舌も止める。居ても立ってもいられなかった。縛り上げられたような切なさが八重を襲う。泣きたくなるような衝動だった。強く掻き毟られた。痛くもある、幸福が急速に八重の脳から、身体からーー余剰を奪う、


「ーーーーッ」

騎乗していたじゅりの身体を強くベッドへ押し付ける。獰猛に変えりてしまった八重はその切なさを隠すように唇を奪い、片方で強く抱き締めた。

「バカッ……かわいすぎッ」
「はっ、あっ、やえさっ、、、すき、、ーーーっ、は」


好きと、言う度にーー強く中が締まった。
かわいい、と言う度にーー身体が震えた



八重は弱い、箇所を何度も擦り上げた。しがみ付いた身体を寄せ、何度も呟いた。こんな幸福が許されていいのか、抑えていたモノが抑えられないモノが、互いを満たし合う。
うっすら、生理的は涙を流すじゅりはとても綺麗で、、

愛しい。


「も、、うーーはっ、ぁ、」
「うん、イって」
「ーーーーーんぁあっっ」


撫でる指に力を込めた。瞬間、目の前がチカチカと点滅する。背がしなり、抱き締めていた腕が軋み、足先はピンっと張り、ギュっと中が凝縮し、一際大きい嬌声と共にじゅりは
頂点へ駆け上がった。












「じゅり?」

余韻に身を任せたじゅりは肩で息をしながらも八重の胸元へ身を寄せ縮こまってしまった。声を掛けるが一向に反応を示さないじゅりに少なからず困り果てる。そして、一抹の不安が八重を焦らさた。

ーーやりすぎた、、?

折角、錠を掛けたじゅりの頑なな理性を剥がしたというのに。嫌われた?少なくもあらず、ないとも言えず。どうした物か。何がココでの正解か。神様であろうと、そんなの分かるはずがない。寧ろ、好意を寄せているからこそ、分かるものも分からないものが存在するのだと、八重は自負している。そういうものだ。人間、とは。

ーーあ、神様だった。

そんな現実逃避とも言える冗談が浮かび上がるのだから末期だ。神様も万能ではないのか。人間身に帯びているからなのか、確かに存在する肉体だからこそ今までの行為は意味があるのだから、対して人間と変わらぬではないか。

取り敢えず、と八重は思考を戻す。

ーーどうすればいいのよ…。


手が空を切る。握ったり、開いたり。じゅりの上で浮遊して、意を決する。

そっと優しく抱擁した。落ち着かせるように、驚かせぬように、愛しく思いながら、嫌わないでと願いながら、縋った。

「嫌いに、ならないで…」

その言葉を聞くや否や、じゅりが顔を上げ

「嫌いになるわけない!!」

大変な剣幕になる。それに一瞬怯み、呆気に取られている八重を他所に、たどたどしくじゅりは言葉を紡ぐ。

「神様は皆のものでしょ?あたしだけの八重さんはいないって思ったから、この気持ちを出さなかった」

それは路頭に迷った子猫のように、脆い本音だった。烏滸がましい。愚かだ。願いの範疇にない、ーーーなのに、、、

「もう、どうしようもなくなっちゃった…」

泣きそうに笑った、じゅりは八重から距離を取る。隙間風が間を縫うよう通っていく。

「うん、そうね。どうしようもなくなっちゃたわね。あたしもよ」

手が伸ばされ、阻まれた。八重の両腕によって。離れることは許してくれなかった。じゅりは、ダメっと理解しても尚この温もりが再度身を包んでくれたことに嬉しさ隠せなくなってしまっていた。そっと、背に腕を回す。

「確かに神様は皆のものね、、間違いようのない事実だわ」

冷徹な物言いにじゅりはぎゅっと引き寄せる。あぁ、知っていたというのに、、絶望的な感情を持て余さずにはいられない。そんな、じゅりを知ってか、八重はーーでも、と言葉を繋いだ。

「神様は、でしょ?神様はなんでも出来るわ。万能でいて完全。なら神様でない時は、じゅり、あなたのものよ」
「ーーーへ?」

何を言っているのか、まずわからない。頭上にハテナマークを浮かべるじゅりを他所に八重は優しく笑いかけた。

「人間にだって変身できるわ」

減らず口だ。ただの揚げ足だ。それでも八重は然るべく叱る自身への答えとして、ありったけの愛故に、道徳ギリギリの解答を提示した。皆のものである事が神ならば、じゅりだけの人間にもなれるだろう。そんな無茶苦茶で自己中心的な考え方は、もう神様のそれでしかない。しかし、神様だから赦されるのだ。ならば、職権乱用もいいところだ。しかし、職権乱用せぬ奴などいない。と我儘な神様は言うのだ。

「だから心配しないで、じゅり。貴方だけのあたしで入れない時もあるかもしれないけど、この思いも、この感情も、全て貴方に上げる。貴方のためのあたしの時は、貴方しか見ないわ。ダメ、かしら?」
「うーうん。そんなことない、、」
「ふふ、じゅり…愛してる」
「あたしも、愛してます…」


何かに妥協せねば、関係をとどめておけないのも皆同じ。好きになってしまったのがたまたま神様で、たまたま人間だっただけなのだ。偽る事のない愛はある。じゅりにだけ、恋人としての愛がある。家族愛だとかではなく。揺るぎなく言える確固たる決意に、そして神様は今日も横暴に、世界とじゅりを天秤に置く。誰も知らない、八重とじゅりの本気の悪戯はにべも無く、此処から始まるのだ。









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