※前世の記憶があります






閑静な部屋に一つ、雑誌を捲る音だけがちっぽけに聞こえる。時間をかけてゆっくり捲られる紙っぺらには白く細い指。真剣にカラー写真を眺める横顔。携帯を弄りながら横目で見て思う。(…うん。綺麗だ)なんだって神は不公平に物事を創るんだろうか。前世と変わったのは世界。モノ。出来事。変わってないのは目の前にいる女。いつの間にか凝視していたのか、それに気付いたアニはチラッと見てまた視線を雑誌に戻した。

「なに?」
「いや、別に…」
「人の顔ずっと見てるヤツがよく言うよ」
「いや、なんだ。やっぱりお前綺麗だなぁーって」

今度こそ勢い良く顔が向けられた。

「おい、なんだ。そのバカを見るような目は…」
「ユミルあんた……道端で拾い食いでもしたの?」
「してねー」
「頭ぶつけた?」
「あー、なんでそーなんだよ」

世界から見れば人生など…愛し合った時間など…瞬く間にすぎないのにと、残留するあの瞬間を思い返せば今この時が現実なのが不思議に感じる。(そんなことも言ってやれなかったなぁ)

「なぁ、」
「なに?」
「少し出掛けようか」

今日は本当にどうしたの?なんかあった?これまた心配される始末。なんだよ。わたしはわたしだけど、あのときのわたしが今のわたしでないことなんてお互いわかってんだろ。あの時のわたしを知ってるこいつを塗り潰したい。あのときのいくつもの諦めたモノたちを今で埋めたいと思ってるわたしもどーかしてる。矛盾だともわかってる。例えばその記憶がなかったら?と考えたこともあったけど答えは出ない。だって今その記憶がある私たちが在るのだ。足掻いても消えてくれない、どーしたって救いのない夢のようだけど、わたしの中にアニがいる。わたしの瞳にアニがいる。同じ呼吸をして、同じ瞳で世界を見ている。それだけで嬉しいと思うのだ。それだけで満たされてどーにかなってしまいそうだ。

そっと後ろから抱きしめた腕が震えないように口を閉ざして華奢な肩口に顔を埋めて言う。


「ありがと」





今を居てくれて
ーーーーこちらこそ、
頭を撫でるアニの手はとてと暖かかった。








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