違和感は起床時に現れていた。朝には滅法弱いから身体に纏わり付く怠惰感はあったけれど、また其れとは異なる怠さがあった事も事実。別段気に留めるわけでもなく、「ま、いいか」と流してしまった。さしづめ、意識していた違和感は訓練に入ってしまえば忘れてしまっていて、顕著に身体的に現れたのは夕食の時間帯だった。汗を流し、逆上せたような暑さにグッタリと床に身を沈めて暫く、夕食の時間が迫ってきているというのに自分の身体の重さに起きる事さえ億劫になっている。現時点で、失敗したと目元を腕で隠しながら静かに息をしていた。幸いにも部屋には誰もいない。それはそのはず、夕食時は案外慌ただしく準備する者もいれば触れ合いがてら待つように皆が食の場に集まっているわけで、(悪運が強い者は上官からの体罰も行われている)まずまず、部屋に集まる時間帯ではない。だからこそ、此処に落ち着いているのだけれど。


あぁー、医務室…。怠い。誰か呼ぶのも、嫌だ…。かといってこのまま顔を出さなければクリスタ辺りが心配そうに探し始めるだろう。手を焼かせるのは気に病む。というより、干渉されたくもない。

疎い自身を恨めしくも思う。休憩時間に医務室に足を運んでいれば薬でもなんでも対処法はいくつかあったろうに。

ふぅ、と一呼吸。小さく吸って、吐いた。それを何度も繰り返して、「よし」と起き上がろうとした時、タイムリミット。部屋の扉が空いた。



「寝とけ」

咎めるような声が静寂を割る。
肘で身体を支えながらも声の方へ顔を向ければユミルがトレイを持ちながら近付いてきていた。

「何が?」
「何がぢゃねーよ」

片手でトレイを持ちがなら片隅にあった小さな机をベッドの前までズルズル引きづり、トレイを置く。見れば今晩の夕食だろうか、パンとスープと野菜、申し訳ない程度の肉。なんだよ、と睨み付けていると踵を返しささっと部屋から出て行った。



訓練中は忘れていたわけで普段と変わらなかったはずで、あの自分とクリスタ以外興味も関心もない冷たい人間が、まさか。
ーー気づかれた、、、?
ユミルとは関わった覚えがない。朝から今まで。全く。一つあるとすれば今朝、事務的に行われるような挨拶を交わしただけだった。


起きる事を止めた身体は力が抜けてまた沈む。横たわった、その眼前にユミルが置いていった夕飯から白い湯気が立ち昇っていた。食べるわけでもなく、それを呆然と見ているとまた扉が開いた。

「食わねぇーの?ってか食えねーのか…」

またユミル。今度は手に水を持っていた。
うん。そっちの方が欲しいよ。今のわたしには間違いなく。

「お前の容態がわからない。だから、てきとーに持ってきたから少しでも食って飲め」

トレイのすぐ横。白い粉が小皿に入れられていた。

「これ、腹痛。これ、頭痛。これ、熱下げる奴って言ってたっけなー。全部飲んぢまえば?」

ははっと口角を上げた。なんで、と小さく出た言葉の意味はわたしにもわからず、ユミルはキョトンと真顔で水の入ったコップを置く


「あ?なんとなく」
「そう」

怠さに負ける。たった一言、自分で聞いといて悪いが言葉を交わす事も億劫になってしまった、わたしにユミルは少しでいいから食べろと促した。それでも動こうとしないから痺れを切らしたのか、あーん、してやろうかと意地悪く笑う。それだけは耐えられず、怠い身体に鞭を打つように上半身を起き上がらせた。凭れるように柱に寄り掛かり間が空いたのは落ち着かせるため。やっと伸びた腕がトレイの上にあるをパンを拾う。一口、口に入れれば、それが合図だったように無言でユミルは立ち上がった。


「うるせぇ奴らには生理痛だって言っといてやったから。無理なら残せ。それはぜってぇー飲めよ。」

ったく、とガシガシ乱暴に頭を掻いたユミルは背を向けた。バカか、世話が焼ける、散々な悪態だ。なら、しなきゃいいのに。と思うけれど声には出ない。なんとなく、悪い気分ではなかったからだ。

「終わる頃またくっから」
「ん。ねぇ、なんで、、わかった…?」
「だからなんとなくだって」

もういいだろう、かんがえねぇーで目の前集中しろ。そう言ったユミルは部屋を出て行った。ユミルが出て行った扉を凝視してゆっくり視線を落とす。スプーンで液体を掬った。スープが熱い。乾いた喉には痛すぎる。パンがパサパサに乾いている。乾いた喉を余計に乾かせた。それでも少し無理して食べていく。でもやっぱり残してしまった。とりあえず、此処に並べられた薬を飲んで、ありがとうとも言えなかったユミルに明日にでもお礼がてら威勢のいい蹴りで転ばしてやろうと思う。






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面倒見の良いユミル
隠れ姉御肌




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