触れたい、


そう思った時に素直に実行に移した事がなかった。一つ分、二つ分、空いてコトネが居る。その空間がもどかしくも、恨めしく、でも確かに何も無い空っぽと透明な壁が雫を威圧していた。


手を伸ばそうか、少しなら、いや、かする程度でも…。

回る思考は混乱するばかりで至って、手は微動もしない。無駄に恥ずかしくなっては、引っ込んで行く感情と率直さにどうにでも出来なくなった雫は誤魔化すだけの相槌で時間を減らしていく。

「ゆずー、ほらノート。いらないなら貸さないよ」
「待って待って!いるいる!あー、まぢ神!素敵」
「テキトーぶっこくなって」


「ゆうちゃん、ほら。食べ過ぎだよ」
「だって、はるかがくれたんだもん!美味しいからつい」
「もー、ゆうちゃんったら〜」


楽しい内輪揉めと惚気の交差。それを巻き起こすのは毎時違うけど、自分ではないと確かに言える。それ程、自分から行動や会話をするという事が雫にとって難関で苦手。ちょっとした劣等感でもあった。楽しくないわけではない。寧ろ楽しい。巻き込まれてはいるから、参加は出来る。そう、何時も巻き込まれてるのは雫の方だった。

「雫ちゃん、」

意識が吹っ飛んでいた雫の耳に入った声はやけにクリアーだった。ぼーっとするまま、誘われるまま、呼ばれた方をゆっくり見た雫の目に飛び込んできたのは触れたいと願って惜しんだ相手。

「ちょっと、コンビニいこー」
「へ、今から?」
「うん、今から」

突然に提示された目的によって、やんわりと手を掴まれるから心臓が跳ねた。そのまま、促され急かされ、引っ張られるままに席を立って廊下を突き進んで行くのはいいけれど、向かう場所が外れている事に気付いたのはコトネの握る手が僅かに力が入った、その時だった。

「ねっ、コトネ何処いくの?」
「んー?えーと、裏庭」

え、なんで。と慌てる雫に呑気にもはぐらかすだけの言葉をコトネは紡ぐ。雫は内心どきまぎしていた。いきなり与えられた体温に。
触れたいと、思っていた矢先の事だから尚更。まさか、気付いているはず、、ない。急かされる足と同時進行に心臓は何故かばくばくと性急なビートを刻むもんだから、小さな雫の身体は堪えるのにやっとだった。



「はーぁ!!いい気持ち」

緑に澄んだ地面に腰を降ろすコトネは、トントンと自身の横を叩いた。目が合えば、素直に座る。

「ねー、もう休み時間終わるよ」
「そーだねー」

サボっちゃおっか?そうにへらに笑うコトネの顔が眼前に迫ってくるもんだから、雫は瞬間少しだけ距離を取ろうと仰け反った。そんな雫の行動はコトネとっては掴みやすいのだがわざと不思議そうにコトネは距離を縮めていく。

「雫ちゃん?」

わざとらしい、仕草だ。首を傾げて笑っている。冷静に考えれば理解出来る、そんな事が雫にとってはそうはいかなくて、余裕がない。近い、近い、と抗議が顔に出ている。さっきまで、欲しかった体温が近い。自分から近付く分には大丈夫だけれど、自分から近付く勇気はなく、かと言って相手から来られると心臓は壊れていく。恥ずかしい。触れられない、でも触れたい。嫌い、ぢゃない。寧ろ、好きだから。

尚更、触れられない。



だから
だから


一つ分、二つ分あった空間がない。探してもない。代わりにすぐ傍がコトネだ。かすっている。衣服だけど、コトネのものだと思うと雫の意識は全てコトネで埋め尽くされている。



お願い
お願い



「こっち、おいで?」

あなたから、こっちきてよ。
逃げれない場所まで、こっちきてよ。


そう言う事は出来なかったけれど、雫は既に欲しかったコトネの体温に包まれて、おずおずと地面を眺めて赤い顔を隠す。ほら、いつだって巻き込まれてしまうんだ。









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