とてもとても遺憾ながら、ここから迷惑極まりないある二人の関係性について話をしようと思う。
 最近、めでたく一夜を共にしたらしい二人のいきさつは結局ただのお泊まり会で終わってしまったらしいが、少しはお互いを意識してくれたようだ。悪い意味で。
 出会いが最低最悪だったものだからそれ以上なんてあり得ないとわたしも安心していた節があった。
 あんな仲睦まじい写真をグループラインで送っといて、子供の喧嘩がエスカレートするなんて考えられないだろ。まさかだ。想像のはるかひと回りもふた回り上回っている。
 不本意だけど、あの旧、新の世話役だったとも子もげんなりするはずだ。わたしとて、まどかと三年間ほとんど一緒の時間を過ごしてきたけれど、あそこまで食って掛かるまどかを見たのは初めてで、心底困っている。
 喧嘩と呼ぶには幼稚過ぎて、ちょっかいと呼ぶには荒すぎる、半ば恒例のようなやり取りに付き合わされるわたしととも子は日々精神を擦り減らす羽目になるけれど、いくら介入しようがあまり意味を成さないわけで、結局落ち着くまで放置を決め込むのが一連の流れだった。
 始まりは、たぶん、あらただ。口が悪いのが原因でもある。その刺々しい言い方にまどかは逐一、反応して勃発するの繰り返していた。
 今までは。

 あの日を境に変わったのはまどかの方だ。今まで恐縮していたり、文句があっても我慢の限界ではないかぎり口を閉じていたまどかが、ほとんど、我慢をしなくなった。売り言葉に買い言葉。それが左方右方飛び交えばもうどっちもどっちだ。
 それ、待ち合わせ場所に遅刻して謝らないやら。それ、態度が気に入らないやら。それ、適当すぎて嫌だやら。やんわやんわ。
 すれば、最初の内容は何処へと飛躍して、ひとつ、洗濯物をそのままにするな。二つ、朝ごはんはちゃんと食べろ。三つ、連絡をきちんとかえせ。
 などなど。
 あらたから言わせると…。
 あー、はいはい。など。うるせーよ。など。んだよ、ムカつくな。など。などなど。
 面倒くさそうに、一言悪態で返してしまうもんだから、そこからまた火種になってしまう。もう、何処から修復していいのかこちらとしても分からない。まず、なにが原因なのか根本的な部分が曖昧過ぎて、もう勝手にやってくれと叫びたい。
 どうする?どうしようか?どうにかなるものなの?無理だと思う。
 そんなとも子とのやり取りは何度目なのか。あり過ぎて最近はそれが挨拶のようになっている。不本意にも。
 今日も、今日とて。待ち合わせに場所に行くと珍しく時間より早く着いたあらたにまどかが
「珍しい、明日は雨かも」
なんて言うもんだから
「あ?おまえが遅刻したから明日は台風だ」
と皮肉じみた掛け合いをしたおかげで、目的地に着く前に言い争いが起こった。
 そして目的地に着く頃には、女の子らしくするかしないか、まどかは女というより口煩いババァだ、とやっぱり根源はズレにズレた。
「はいはい、そろそろ終わりにしてー。着いたよ。あんたたちがここのパンケーキ食べたいって言ったんでしょーが」
 ズレにズレた当初の目的は当然、そんなやり取りを傍観することでも、口喧嘩をすることでもない。どうしてかお目を付ける物は一緒のようで、経緯は分からないが生クリームが特大に乗るパンケーキが食べたいと二人してグループライン、不協和音に送ったことから始まり、集まったはずなのに。
 とも子は貼り付けた笑みを絶やさず、逃げるように店に入って店員に人数を伝えている。器用にも出来た子だ。付き合わされることに慣れた人の行動だ。そもそも、まどかとあらたが言ったんだから喧嘩するなら二人で行けばいい、とさえ思う。

 店を目の前にまどかとあらたはさっきの喧騒が嘘のように静かになった。通されること、数秒で二人は一つのメニューを食い入るように見ている。
「ねぇ、なんだったの…。さっきの喧嘩は」
「ようこちゃんは真面目だよね。気にしたら身がもたないよ」
 もう、とも子は悟りを開いたらしい。新世界だ。とも子の目はもう母親のそれだ。わたしはというと、肩を寄せ合い無言でメニューを眺めている姿を呆れた顔で見ている。こうしていれば仲良く見えるのに、そう考えていた矢先、さっきまでおとなしくしていた二人の目付きがかわる。
「ちょっと、まだ見てるんだけど」
「アタシはもう見た」
「少しは他人に合わせなさいよ」
「お前には合わせたくないんだよ」
 あぁ、やばい。と思った時にはまどかの顔がムッと気色ばんで。
「じゃぁ、そっちのメニュー見れば!?こっちのメニューをわざわざ見なくても良くない?」
 真ん中にあったメニューを強引に引っ手繰る。そこで、引け引け。あらた、引くんだ。と何時もながら勃発するかしないかの区切り目に淡い願望を、もう今日は声に出した。が、そんな第三者の声も虚しく、あらたは負けじとまどかが持っていたメニューを奪いにかかってしまう。
「かえせっ」
「あなたのじゃないでしょ!?」
 店内ということで些か音量も下げ、どこか遠慮しなが格闘する器用さがお互いあるならば歩み寄る器用さもあってもいいんじゃないだろうか。半分だけ場を弁えられることは偉いと思う。あぁ、とも子の心境が分かってしまった。粗探しではなく宝探しだ。小さい子供の失敗より成功を見て大袈裟に過大評価する。
 いいのか、おまえら。幼児と一緒の扱いで。

「喧嘩するほど仲が良い」
 黙りを決め込んでいたとも子がぼそり、と呟く。本当に小さい声だったのに二人の耳はその声を拾ったらしい。ぴたり、メニューを取り合っていた二人は動きを止めてとも子を見た。
「「だれが!!!」」
 掴みかからんばかりに、前のめりも息がぴったりである。ほらね、と首を傾け笑うとも子に二人はぐうも言えず、腰を下ろすと、あらたは左側に立てかけてあったメニューを手に取った。まどかもバツが悪そうにメニューを眺めている。ファインプレーだ。さすが、女房役。
 これが功を評し、その後は争いもなく無事注文が出来た。会話も滞りなく交わされているがまどかもあらたもぎこちない。
 水、とって。とまどか。ん。と素直に差し出すあらた。
 結局あの日、あらた家に泊まったの?と追い討ちをかけるとも子の質問に。
 遅かったし、泊まっちゃった。まぁ、迷惑でもないし…。世話かけたし。と歯切れの悪い二人。友達でしょうに。まだ、一線越えてないでしょうに。
 何をどうとも子の言葉を受け取ったのか、とてつもなく不気味なほどおとなしくなった。

「ふふ、やり過ぎちゃったかな」
 またぼそり、とわたしだけに聞こえる程度に耳打ちをして。実際、本当のところの曲者はこの子なんじゃないかって思う。まぁ、敵にしたら怖いのなんの。

「なにしてたの?」
「んー、DVD観たり、夜食食べたり?あと、なんかしてたっけ?」
「マッサージ。と、アタシが風呂乱入」
「そうだ!!マッサージしてって我儘言うからしたんだ!しかも、眠いからってわたしがお風呂入ってるのに入ってきてさー」
「アタシ家の風呂だ。どう使おうがアタシの勝手だろ」
「あー、さっきは世話になったとか言っといて、あり得ない」
 うん。あり得ない。一緒にお風呂入って、マッサージして、DVD観て、夜食食べて。
「あと、散歩」
 で、散歩。
 なんなの、恋人なの?

「あらた家ってベッドしかないよね」
「あ、そうだ!!この人、寝相悪過ぎて。蹴られた、謝って」
「知らないね。意識ないときはノーカン」
 そして、とどめに一緒の床ときた。普通に仲良しでしょ。

 ーーお待たせしました。
「…すごぃ!!って、なんだあなたわたしと同じものなの?」
「はぁー?しらねーし。ってか頼んだとき分かってたろ」
「これ、頼もう。とか言ってたじゃん!一口貰おうと思ったのに!」
「ざまぁ、これ一口やるよ」
「同じだよっ!!」

 もう、早く付き合えよ。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -