学パロ








体育の授業をサボり終えて教室に戻ってきたら一人ポツンと座っていた彼女の席は一番後ろの窓際。あっけらかんなそこに黒い髪が窓から入る風に靡いて静かに息をする。何をするのでもなくただ外を眺める彼女も多分サボりだということはわかっていた。そっと足を運べば直ぐにその顔がこちらを向く。ただ無表情。驚く事もなければ社交辞令もない。
ただ一つ、頬杖を付いていた手が小さく目の前の椅子を指す。その合図にわたしも無言で忠実にユミルの前の席に座った。

「屋上にいたのか?」
「そう、あそこなら吸えるから」
「あぁ、道理でタバコ臭いわけだ」

隠すつもりもないから、と思ったけれど今日は違った。隠したくてしかたない。先生にでも友達にでもなく後ろに座る彼女に。

「変えた?」
「なにが?」
「銘柄」

鼻がいい事だ。うざったくてしかたない。

「まぁ、ちょっと試しにね」
「ふーん」

そのあとの会話は続くことがないことを知っていたけれど丁度そこで話を区切るようにグランドから聞こえた生徒の叫び声があまりにも大きくて感覚的に助かったと安堵した。それからわたしはゆっくり外を見渡して、下を見れば遠くで球技を楽しむ生徒達が走り回っている。そこに一つ、自分と同じ髪色をした小柄の彼女がいた。絶対的な存在なんだろうと思う。きっと、いや、そんな曖昧ではない。絶対に、そう絶対にだ。後ろの彼女は穏やかに見下ろしているんだろう。

「よく許したね」
「許しなんて乞わねーよ。逃げた」
「だと思った」

ユミルはクリスタにクリスタはユミルに、お互いがベッタリと両者を離さない。多分、否おおよそ予想はつく。チャイムが鳴れば一番に此処にきて後ろの彼女を咎めるのだろうと。

「怒るよ」
「怒るな」

誰が、なんて愚問でそんな関係は何時だって縛られているようで正直わたしは耐えられないと思う。そう、耐えられないんだ。他人なんてどうでといいのだけど…。

「なぁ」

振り返らない。背後に投げかけられた言葉に「なに?」と背もたれにドッと体重をかけて言えば思った以上に声が震えた。ドクン、ドクンと柄にもなく心臓が大きく鳴り響く。少しの沈黙にこちらの鼓動が伝わってしまうのではないかと思うほどに。

「なんかあったのか?」

内心舌打ちをしたくなり、思い留まる。そうして次は逃げ出したいと素直に思った。でも足は地面から離れてはくれない。腰も上がらない。座っている椅子に、地面に、接着剤でも付いているんではないだろうか。必死にもがいた結果絞り出せたのは虫の鳴き声のようにか細い声で、突き放す言葉だった。ーー別に、とそう言えば詮索はしない。

「ま、なんかあったら言えよ」

何も聞かず優しさを残す。ユミルはそういう人だ。逃げれば追わない。なのにしっかり足跡を傷跡を残す。小さな変化も、たった一本のタバコがユミルと同じだった。それだけの小さな変化さえ気付いて…その優しさが感の良さが傷のように残して行く。確かに、わたしに、その拷問のようなほんの微かな温かみを…。それがユミルだから。それが安心を誘い、居心地の良さを与え、酷く淋しい。解き方を知らず現状維持の繰り返しの中わたしは佇む。










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