ーー置いていかないで。


たった今しがた魘されたように苦しむリラの手をジュリは強く強く握った。すればうっすらと瞼が開き、浅い息を荒く吐いて呆然と黒目を動かせば探していたのか合致した瞳に安堵しているようだった。

「おねぇ、さま」
「りら、怖い夢?」
「…うん」

おねぇさまがいなくなる夢だとりらは覚束ない口調で告げた。
「走っても走っても、追いつけなくて…転んで叫んで、お得意の手品も見せれなかった…でも、急に上から暖かい光が見えて一生懸命伸ばしたら…」
小さい声が良く届いた。りらは言葉を止めて甘えるように膝に寄り添えば、もうその先は言うまでもないと安心に表情は和らいでいた。辺りは静けさと暗闇。一つ燈すは刺すような月の光。白い部屋が浮き彫り、余計に冷たく感じさせていた。
ーー届いてるよ。
小さい時早く早く大人になりたいと願った。傍らで何時も助けてくれていた小さな声を逃してしまったのだ。そればかりを追い求めて大切な事に気付かず後悔とどうしようもない痛みとなってとどまっていたけれど、(そうだ、)あたしは懺悔さえ救いがあるようで出来なかった。

ギュッと手を強めた。それに気付いて今度はりらが安心させるように笑う。空いている手で何時もと違う解かれた髪をそっと撫でた。

「おねぇさま、怖い夢でも見てたの?」
「そうね、何時もみてた」
「今も?」
「今はりらが見てるのよ」

まだ見せてしまう夢。過去何度わたしは見ていただろうと、思いーーやめた。自分にそんな権利などない事などわかっていたからだ。


「もう、大丈夫な気がします」
ーーだって今おねぇさまがその手で悪夢から救ってくださいました。

そう言ったりらは上半身をゆっくり起こしてその腕でこの身を抱きしめた。もうあのときの小さな身体ではない。身長も伸びて、顔つきも大人びて、女性特有の柔らかみを帯びた身体も備わっている。変わらないのはりらのその心。過度が付くほどのそれを今なら笑って、喜び、受け止められる。否、もう離したくも、無くしたくもないのだと、抱きしめ返してジュリは首筋に顔を埋めた。

「多分あたしの悪夢は終わりました」
「わたしも、ーーー覚めない悪夢が霞みそうだよ」

いいのか?それでいいのか?赦せぬ事実はいつだって突き刺さる。
何年も続いたこの罪。許してくれとは言わないけれど、(りらはいつだってわたしを恨んでなんていなかったけど)ありがとう。ありがとう。何度も思えど罪は消えず。

「良かったですわ!これから一緒に、一緒に居てください」

ーーやっと捕まえたんですから
嬉しそうな声が耳を擽っていく。
泣きそうになって堪えた。薄く薄く、キャンパスは霞んで行く。聞こえるよ。りらの言葉が聞こえる。大人になったから?違うよ。外見だけ、見かけだけの大人なんていらない。ジュリの心がほのかに暖かくなっていく。なんて小さく芯まで通る言葉なのか。

「大好きです、大好きです!おねぇさま」

悪夢から拾い上げてくれたのはーーーりら、あなたほうよ。











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